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 太陽の光が顔にあたり眩しさで目を開きます。朝…? 体を動かそうとしますが、何かに捕らわれて動けません。これは…? ぼんやりとした視界が徐々にクリアになっていきます。

 目の前には大きな黒いもの…これって…


「んっ…」


 頭の上で声がして、黒くて大きなものは少し動きます。


 そうだ! 私ったら、昨日!


 昨夜のことを思い出して一気に顔が熱くなります。思い出しました。確か、アルファ様をベッドに引きずり込んでしまったような…


 きゃああああ!

 私ったら、なんてことを!!

 いくら寂しかったとはいえ、アルファ様をベッドに誘うなんて!!


 自分のした破廉恥な行為に激しい後悔が襲います。アルファ様に、恥ずかしい人だと思われなかったかしら…そんなこと思われたら、私…。

 ちらりとアルファ様の顔を伺います。ぐっすりと眠っているようです。その顔に私は釘付けになりました。

 普段の凛々しい雰囲気がなく、安心しきったその顔はどこか幼く見えました。


 可愛い!


 アルファ様ったら、こんな可愛い寝顔なのね。ふふっ。


「んんっ…」


 アルファ様が身じろぎします。そして、その目がゆっくりと開きました。起きました! あぁ、もう少し見たかったのに。


「おはようございます」


 笑って挨拶しますが、アルファ様は返事がありません。どうしたのかしら? まさか、昨日のことを怒ってるんじゃ…。


「ミランダ…」


 アルファ様が微笑みながら私の名前を呼びます。


 わっわっわっ…なんて優しい顔なの!


 優しい顔に見惚れていると、アルファ様の顔が近づいてきます。そして、ちゅっと軽くキスをされました。


 きゃあ!


 恥ずかしくて叫びたいのを我慢して、ぎゅっと目をつぶります。その間にも、アルファ様は軽いキスを何度も何度もしてきます。


「んっ…可愛い…ミランダ…」


 ひゃっ!

 耳元で囁かれ、耳にキスされて体がビクリとします。くすぐったくて、恥ずかしくて、どうにかなってしまいそう…


「アルファ様…待って」


 恥ずかしくて少しだけ距離をおこうとアルファ様の胸を押します。


「待たない」


 その腕を捕まれ、今度は唇に深いキスをされました。


「んっ…」


 昨日は、わけのわからないまま終わってしまったキスが、今日は生々しいまでにハッキリと感じられ羞恥心が煽られます。このまま流されてしまったらどうなるの…? 不安と期待が同時に押し寄せてきてクラクラしてきます。


 ーコンコン


 意識がぼんやりする中、部屋の扉がノックされる音がします。それに、はっとして、どうにか唇を離します。


「アルファ様…誰か来たっ…んん!」


 アルファ様はお構いなしにまた口づけてきます。誰かが外にいる。声を出したら聞こえてしまうかもしれない。その事実に私の心は限界にきていました。



 ーゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン!!



 激しく扉がノックされ、私達は驚いて離れます。


「閣下、電報が届きました」


 あの声はエミリアちゃん!?


 固まる私達に反応がないとみたのか、エミリアちゃんは激しく扉を叩きながら、続けて大声で言います。


 ーゴンゴンゴン!

「閣下ー! お楽しみ中なんですかー!」

 ーゴンゴンゴン!

「ミランダちゃんが可愛いのは分かりますけど、ほどほどにしませんと!」

 ーゴンゴンゴン!

「朝からがっつきすぎると、嫌われ…」


 大声に耐えきれずにアルファ様が物凄い勢いで扉に向かいます。


 ーガチャリ


「エミリア…」

「おはようございます、閣下」


 扉を開くと昨日と同じくキリッとした表情のエミリアちゃんが立っていました。

 私も慌ててベッドから出ます。


「エミリア…頼むから、声を小さくしてくれ」

「それは申し訳ありません。ですが、反応がなかったので、てっきり、朝から襲っているのかと思いまして」

「いや、それは…」

「エミリアちゃん」


 アルファ様の横に立って声をかけます。エミリアちゃんは私を見つめた後、じっくりと頭から足先までを見つめ、アルファ様の方を向きます。


「閣下、ご自身の服を着せたいのは分かりますけど、足は出したらダメです。冷えます。ミランダちゃんが風邪をひいたらどうするんですか」

「いや、これは…」

「エミリアちゃん! この服はアルファ様が貸してくださったのよ。私、着替えもってきてなくて。ズボンは大きすぎて入らなかっただけなのよ」

「そうですか。申し訳ありません。閣下の趣味かと思いました」

「エミリア…」


 アルファ様が大きくため息をつきます。


「電報じゃなかったのか?」

「そうです。こちら、カリム男爵夫人の代理としてマリア様から電報が届いています」


 ばあやからだわ。


「僭越ながら、読み上げさせていただきます」

「ちょっと待て。なぜ、読み上げる」

「それはご自身の胸に手を当ててよく考えてみてください。昨日、このような格好のミランダちゃんに何もしなかったと言えますか?」

「それは…」

「これは罰です。なので、読み上げさせて頂きます」


 こほんと咳払いをしてエミリアちゃんはハキハキした声で電報を読み上げます。


「アルファ・アールズバーク様。ご丁寧な電報をありがとうございます。ミランダお嬢様のことは分かりました。こちらこそ、お嬢様が勝手にお邪魔して申し訳ありません。ミランダお嬢様のことを宜しくお願いいたします。紳士的なアルファ様のことですから、何も心配しておりません。アルファ様はとても紳士的ですからね。お嬢様は、風邪をひきやすいので、くれぐれも紳士的な接し方をしていただけますようお願い致します」


「とのことです」


 ばあやの言葉に私は胸がじぃんとしました。置き手紙をおいただけの私を叱るのではなく、後押ししてくれるばあやの気持ちが嬉しかったです。


 でも、どうしてでしょう? アルファ様の顔がなんとなく硬直しているような気がします。


「ミランダちゃん、これを」


 エミリアちゃんが袋を渡してきます。なにかしら?


「ミランダちゃんの洋服です。着替えがないかと思い、私めが買い揃えて参りました」

「え!? そんな、わざわざ…」

「いえいえ、とんでもございません。淑女の足を出したままにさせる変態野郎とは違いますので」

「おい、エミリア…」

「ありがとう…でも、せめてお代を払わせて?」

「それこそ不要です。お友達になれた証だと思って受け取ってください」


 エミリアちゃんの真心に嬉しくなります。


「ありがとう。今度、エミリアちゃんにもプレゼントさせてくださいね」

「それは、嬉しいです」


 あ、エミリアちゃんが笑った。可愛い笑顔。ふふっ。


「では、私の部屋で着替えましょう。さ、足にはタオルを巻いて」

「え? でも」


 エミリアちゃんは器用にタオルで足を隠してしまいます。そして、私の肩を抱き、扉の外に出そうとします。


「大丈夫です。私の部屋は隣ですので、ささっ」

「あ、でも…」


 その時、ぐいっとアルファ様に引き寄せられ、そのまま、肩を抱かれます。


「エミリア…申し出は嬉しいが、着替えならここですればいい」


 アルファ様がそういうと、あまり表情の変わらないエミリアちゃんがすごい目で睨んできました。


「閣下、着替えるといっても、どこで着替えさせるつもりですか? まさか、閣下が見てる前で着替えるというんじゃないですよね?」

「そんなことは…バスルームとかで」

「閣下、女性の朝の支度をなめておりますか? そんな狭いところでは支度するにもできません」


 そう言ってエミリアちゃんは、また私を引き寄せます。


「ミランダちゃんは、私の部屋で着替えて頂きます。いいですね!」


 あまりの気迫にアルファ様も黙ってしまいました。そのまま、エミリアちゃんに連れられて歩き出そうとします。


「あ、閣下もいつまでもそのような格好をされてないで着替えてくださいね。()()()()振る舞いをできるように」

「!」


 今度こそエミリアちゃんに連れられてしまいました。



 ーーーーー



 隣の部屋に着くと、さっそくエミリアちゃんは着替えを出し始めます。着替えは紺色のワンピースでした。大人っぽい雰囲気のそれに、トキメキます。


「素敵だわ…」


 ほうと、ため息混じりに言うと、エミリアちゃんが微笑みました。そして、エミリアちゃんに手伝ってもらい、ワンピースに着替えました。


「ヘッドアクセサリーもありますので、髪を結いあげましょう」

「そこまでしてもらわなくても…」

「いいえ! 徹底的に私好みにさせて頂きます」

「は、はい…」


 鏡の前に座らされ、エミリアちゃんが私の髪をとかし始めます。慣れた手つきのそれに、ロンダにされているような不思議な感覚がしました。私は髪を結うのがあまり得意ではないので、いつもロンダにしてもらっていました。


「エミリアちゃんって…器用なのね…」

「そうですか? 下に妹が四人いますので、慣れているだけです」

「え!? 四人もいるの?」

「はい。一番下の妹はまだ10歳ですが…妹達は年子なので、11歳と12歳と13歳です」

「そうなの…あの、エミリアちゃんはいくつなの?」

「私は今年で19歳になります」

「私より3歳も年上なのね…」


 落ち着いているはずだわ。


「ミランダちゃんは、今年で16歳ですか?」

「ええ。私にもね、姉がいるの。姉といっても双子だけど」


 エミリアちゃんの手が止まります。


「お姉様はミランダちゃんにそっくりなのですか?」

「ええ。よく間違えられるわ」

「なんと…こんな愛らしい生き物がもう一人いるなんて…ぜひお会いしなければ…」


 エミリアちゃんはぶつぶつ言い出しましたが、小声なのでよく聞こえません。


「エミリアちゃん?」

「はっ。すみません。続けましょう」


 エミリアちゃんはその後、黙々と髪を整えてくれました。



「まぁ! 素敵!」

「気に入って頂けましたか?」


 鏡で見た私はぐっと大人っぽくなっていて、本当に素敵です。タイトなワンピースは、背筋が伸び、いつもより姿勢が正しくなる気がしました。ワンピースと同じ色のヘッドアクセサリーも、上品な雰囲気をそこなわず、かつ愛らしい花で髪を飾ってくれます。今まで見たことのない私がそこにはいました。


「ありがとう、エミリアちゃん!」

「いえ…これは、罪滅ぼしでもありますので」

「罪滅ぼし?」


 エミリアちゃんは、哀しそうな顔をしました。


「すみません。お二人があまりにも仲睦まじくされているものですから、うらやましくなりました」

「え…?」

「私には婚約者がいます。ですが…正直言いますと、関係はよくありません。私は名ばかりの貴族、どういう理由かわかりませんが、お金持ちの貴族のご子息に見初められまして。年下なんですけど…」

「まぁ」

「あちらの意図は分かりませんが、こちらは完全にお金目当てです。婚約したとはいえ、お話した回数も少なく、手紙のやりとりしかありません。会っても、私はこの通り可愛いげがありませんので、いつもご不興をかうばかりで」

「そんな…」

「だから、うらやましくて中に割って入るようなことをしてしまいました。申し訳ありません」


 頭を下げるエミリアちゃんに私は顔を上げてと言いました。表情は変わりませんが、なんとなくエミリアちゃんが泣きそうだと思ったのです。そっと手をとり、続けます。


「あのね、私もアルファ様と会うのは今日で五回目なの」

「え? そんなに少ないのですか?」

「ええ…いつもは手紙でやりとりしてるわ。でもね、やっぱり寂しかったわ、会えなくて。手紙だけだと誤解したりして、思うように気持ちが伝わらないし、伝えられないの」


 ゆっくりとエミリアちゃんの心をほぐすように私は続けます。


「昨日だって、お約束もせずに会いに来てしまったのよ。でもね! 会って本当によかったって思ったわ。だからね、エミリアちゃんもちょっとだけ勇気を出してみて」

「勇気ですか?」

「勇気をだして、お話してみて。エミリアちゃんを見初めた人なんでしょ?」

「そうですが…でも…」

「実はね、昨日、エミリアちゃんに会って、嫉妬しちゃったの。アルファ様によくお似合いの人だなって」

「ええ? 私がですが??」

「うん。エミリアちゃんは凛としていて素敵だもの」

「そんな…私は…」

「ふふっ。エミリアちゃんは素敵な人よ」


 ふわりとエミリアちゃんを抱きしめます。


「可愛いげがないなんて言わないで。エミリアちゃんは素敵よ。私はそのままのエミリアちゃんが大好き」

「っ…」


 エミリアちゃんが私を抱きしめます。


「話したら…変わるでしょうか…?」


 エミリアちゃんがポツリと呟きます。その顔は不安そうでした。だから、私は笑顔で答えます。


「私は変わったわ。話すのって大事よ!」


 それにエミリアちゃんは微笑みました。可愛らしい笑顔で。




以下、余談です。

今回のアルファの心境をバトル風に例えるとこうなります。


アルファはミランダの告白で覚醒した!

溺愛モード突入!


ばあやが現れた!


ばあや「紳士的に~!」


アルファはダメージを受けた。キスが封じられた。


エミリアが現れた!


エミリア「紳士的に!!」


アルファはダメージを受けた。クリティカルヒット!


ミランダはエミリアにさらわれた。


次は大ダメージを受けたアルファ視点です(笑)

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