17.眠れない夜 sideアルファ
電気を消した後、私はホッと胸を撫で下ろした。色々、刺激的すぎた一日だった。思い出すだけで、色々まずい。
ミランダの服もそうだ。私の服を着たミランダがあれほどまでに可愛いとは…。
服が大きすぎて肩もずれ落ちそうだし、なにより足がまずい。普段、ミランダは足まで隠したスカートを履いている。普段見えない足を見せられると、否応がなく淫らな気持ちになってしまう。服をつまんで、足をさらに見せた時は本当にまいった。艶かしい足をあれ以上見ていたら、衝動的に口づけをするところだった。
シャワーを浴びてどうにか頭が少し冷えた。そして外に出ることで、さらに冷静になれたと思った。思ったのだが…。
サンドイッチのあーんは、ダメだろう。いや、行為自体がダメというわけではない。美味しいからお裾分けをしてくれただけだ。でも、ミランダにされると無性に照れる。平静を装ってどうにか食べたが、その後、ミランダが照れたものだから、もうダメだった。ミランダが可愛すぎて。
なんでこう、いちいち可愛いんだ。私はどこまでバカになればいいのだ。だから、やっと眠る時になってホッとしたのだった。
ミランダは頬が熱かった。これ以上引き止めても体調を崩すだけかもしれない。元々、私のわがままで泊まることになったのだ。明日はミランダの体調を見て、早めに送った方がいいだろう。
そこまで考えて、目をつぶった。暗闇の中、ミランダが寝返りをしたのか、布団が擦れる音がした。彼女の気配を感じて胸が高鳴る。無心になれるように、頭の中で仕事のことでも考えながら、感情を押し殺した。
「アルファ様…」
控えめな呼びかけが聞こえた。仕事のことを考えていたため、反応が遅れてしまった。
「アルファ様…おやすみなさいのキスはしてくださらないんですか?」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。確認するように、振り返ると、ミランダが体を起こしてこちらを見つめていた。熱があるのか頬は赤く、目は潤んでる。その悩ましげな表情は月明かり下で見ると、妖艶さを増していた。
「おやすみなさいのキスはしてくださらないのですか?」
確認するようにもう一度言われ、私は黙るしかなかった。
ミランダは私の手紙で書いたことを言っているのだろう。それは理解できる。私だってキスをしたい。したいのだが、その…なんというか…恐ろしいのだ。自分自身が。このままミランダにキスしたらどうなる? それこそ、欲望のままに抱いてしまわないだろうか。彼女が嫌がっても止められなくなってしまうのではないか。
それが恐ろしい…。
「ミランダ…その…君は熱がある。だから、負担をかけたくない」
「キス…してくださらないのですね…」
ミランダは分かりやすくうなだれた。これでは私がいじめているようだ。ミランダに手を伸ばし頬に触れる。やはり熱い。
「分かってくれ、ミランダ。私は君が心配なんだ」
ミランダは添えられた頬に自分の手を添えた。
「嫌です」
「ミランダ!」
「わがままを言ってるのは分かってます!でも、次はいつ会えるか分からないじゃないですか!」
ミランダの言葉にはっとした。彼女はポロポロと涙をこぼしていた。自分の中の寂しさを吐き出すように。
「私のキスが下手だからするのが嫌なのは分かってます! でも、あれで最後なんて私は嫌なんです!」
キスが下手…? なんで、そんなことを思ってるんだ? そんな事、思ったこともない。むしろ…。
「ミランダ、落ち着いてくれ…」
「うっ…うっ…」
「すまない。何か誤解させているな…。ミランダのキスが嫌だなんて、そんなこと思ってはない」
「……?」
「むしろ、君があまりにキスが上手くて弱っているんだ」
もう片方の手も頬にそえて、こつんとおでこをミランダにくっつけた。恥ずかしくて彼女の顔が見れない。
「私もしたい。だが、次したら…っ!」
最後まで言えなかった。なぜなら、ミランダがキスをして、私の唇をふさいでしまったから。押し付けるようなそれは、深まることなく離れていく。唖然と見つめると、ミランダは嬉しそうに笑っていた。
「嬉しいとキスをしたくなるのですね、アルファ様」
「っ…」
「よかった。私、てっきり、キスが下手で嫌がれているとばかり…きゃっ!」
今度は私がミランダの言葉を待たなかった。
君って人は…本当に、どこまで私をバカにする気なんだ…
「んっ…!」
ミランダを押し倒して口づけた。先ほどされたキスとは違う。深く求めあう口づけだ。やはりミランダは巧みに返してきた。
ミランダの熱を奪うような口づけを交わし、そっと唇を離す。離れた後も名残惜しくて頬と額に唇を落とした。
顔が真っ赤になったミランダと目が合う。それだけで頭がいかれそうだ。また口づけたい衝動を最後に残った理性で留めた。
「ミランダ…君を抱いてしまいたい」
「えっ…」
「このまま服を脱がして、君のすべてを私のものにしたい」
そう言って、服に手をかける。彼女はそこまでを想像してなかったのだろう。とっさに私の手を掴む。
「あっ…」
それに笑ってしまった。
「アルファ様、私は!」
「いいんだ、ミランダ」
彼女の額にまたキスをする。くすぐったそうに身をよじる彼女に笑いながら、続けて言う。
「今はしない。今したら、衝動的に抱いて、君を傷つけてしまう」
「………」
「でも、いつかは君のすべてをもらいたい。だから、心の準備をしてくれると嬉しい」
ミランダはうなずいた。何度も、何度も。それすら愛しい。愛しくて、また頬にキスをした。
「おやすみ、ミランダ。よい夢を」
そう告げて軽めのキスを唇にする。そして、離れようとした。
しかし、この日のミランダは様子がおかしかった。いつもの彼女ならば私の言葉通りに引いてくれたのだろう。そうならなかったのは、やはり、熱が出ているせいだろうか。
「アルファ様! 心の準備をするので、一緒に寝てください!」
……ん?
彼女の言葉が何を意味するのか一瞬分からなかった。
「さ、早くこちらへ!」
手をぐいぐい引かれ、否応がなしにベッドに寝かされる。彼女の細い腕のどこにそんな力があったのかと思ったが、おそらく、自分が唖然としすぎて、力が抜けていたのだろう。
なんだ、この状況は…
気がつくと私は彼女と共にベッドで寝ていた。そして、彼女は逃がすまいとがっちり私の体を捕まえている。
どうしたものか、これは…
非常にスマートにおやすみなさいと言ったつもりだ。これで、私が床に寝れば、胸の高鳴りも抑えられるだろうと思っていた。それなのに…これでは動悸が激しすぎて眠れない。
困惑する私をよそにミランダは無邪気にすりよってくる。
「ふふっ。アルファ様…」
微笑みながら安心しきった顔でいる彼女は可愛くて可愛くて可愛くてしかたがない。でも、この状況はまいった。本当に困った。
「おやすみなさいませ…」
「あぁ…」
ミランダはそう言うと、寝息を立て始めた。本当に寝てしまうとは…よほど疲れていたんだな。
抱き締められた彼女の手がしびれないように、そっと外す。しかし、無意識に離れたくないのか、またすり寄ってきた。
「はぁ…」
一人残された私は案の定、熱をもて余し、眠れずにいた。
すぐそばに愛しい人がいるのに、何もできないこの状況。これはあれか、神の試練か?
「はぁ…」
なんとなく悔しくて、彼女の寝顔を見つめる。そんな事をしても、可愛くて、愛しくて、また眠れないだけなのだが…。
寝顔を見つめていると、どうしても唇に意識が向いてしまう。先ほどのような情熱的な口づけをもう一度…吸い寄せられるように唇にキスをした。あまり刺激しないように、ついばむようなキスを何度もする。
「アルファ様…」
名前を呼ばれ、咄嗟に身を引く。起きたのか? と思ったが、まだ目をつぶったままだ。寝言だろうか。
また見つめていると、今度はふふっと笑いだした。楽しい夢でも見ているのだろうか。
「好き…アルファ様、好き…」
「!?」
微笑みながら言う彼女にこちらが赤くなる。
なんだ、なんだ、なんだ!
この可愛さはなんだ!
好きなんて言われたことがない。気づいてはいるが、言葉にされると、どうしようもなく嬉しくて今度こそ理性は吹っ飛んだ。
「私も好きだ…愛してる」
彼女を抱き寄せ深く口づけた。起きてしまっても構わないと思った。それぐらい思いをとめられなかった。
しかし、彼女は起きず、結局私は朝方まで眠れずに熱をもて余し続けたのだった。
■アルファのプロフィールが更新された!
無口、天然、一途、ミランダ大好き
newキス魔(ミランダ限定)
■ミランダのプロフィールが更新された!
天然、一途、アルファ大好き
newキスがうまい new小悪魔(アルファ限定)