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16.おやすみなさいのキスを私に

 アルファ様の服をお借りして着替えました。上着だけだというのに膝まですっぽり入ってしまいます。ズボンは入らないから、これだけでも変じゃないかしら? それにしても、アルファ様って本当に大きいのね…。

 私の服とは違う匂いのする服に、気恥ずかしくてドキドキします。はっ。いつまでもお待たせしたらいけないわ。アルファ様が風邪を引いてしまう!


「お待たせしました。着替え、ありがとうございます」


 扉を開けると、アルファ様がこちらを無言で見つめました。固まったまま動きません。あら? やっぱり、この格好では変だったかしら…。


「すみません。ズボンが大きくて入らなくて…」


 そう言って、服をつまんで、膝を見せます。すると、アルファ様の体が大きく跳ねました。そしてまた無言でブランケットを持ったと思ったら、それを渡してきました。


「…冷やしたら大変だ。足にかけときなさい」

「はい。ありがとうございます」


 アルファ様の気遣いが嬉しくて笑って返事をしました。でも、アルファ様はすぐ目を反らしてしまいます。そして、そのままバスルームに入っていきました。


 ーバタン


 扉が閉まる音を聞いた後、私はため息をつきました。アルファ様の様子がおかしいわ…。そう。キスをした後から、妙によそよそしくなっているのよね。


 キスをした後から?


 ………まさか。

 キスが下手で呆れられたんじゃ…


 温まった体が急に寒くなるような気がしました。

 どうしよう! やっぱり、練習が足りなかったんだわ! あぁ、私のバカ! もっと練習してからお会いすればよかったのに!!

 がっくりと、うなだれていると扉が開く音がしました。


「ミランダ?」


 声をかけられ、慌てて振り返ります。顔をひきつらせながらも、どうにか笑顔でアルファ様に向かい合います。


「ミランダ…家の者が心配していると言っていたな」


 はっ。そうだわ。すっかり浮かれてばあやのことを忘れてた。きっと心配してる。


「今家には、ばあやしかいなくて。私、アルファ様のところへ行ってくるとだけ置き手紙で伝えただけなんです…」

「そうか。なら、泊まることを電報で送ろう。いいかな?」


 泊まる…そ、そうよね。帰らせないって言ってらしたし…泊まるのよね。ここに。

 急にまた恥ずかしくなって、「お願いします」とは言えず、ただうなずきました。


「では、行ってくる。あと…腹も減っただろう。何か買ってくる。一緒に食べよう」

「はい、いってらっしゃいませ」


 そう言うと、アルファ様がゆっくりと手を伸ばします。そして、私の頬に軽く触れました。


 あ、キスされる…


 ドキドキと見つめていると、触れていた手が離れてしまいました。そしてそのまま、アルファ様は外へ行ってしまいました。


 ーバタン


 閉まった扉を見つめながら、触れられた頬を触ってみます。もう、ぬくもりは消えているはずなのに、まだ熱が残っているような気がしました。


 キス…してほしかったな…


 初めてのキスは嵐のようで、無我夢中でしがみついているだけしかできなかった。恥ずかしくて、苦しくて、でも心地よくて…またしたいなんて言ったらダメかしら? ダメよね…はしたない。


 というか、初めてのキスが下手だったから、もうしてもらえないんじゃ…


「……………」


 うああ! どうしましょう!? キスしてもらえないなんて、そんな! アルファ様にぶどうも買ってきてくださいって、お願いすればよかった!!


 その後、アルファ様が戻るまで私は後悔の念にさいなまれたままでした。



 ーーーーー



「ただいま」

「おかえりなさいませ!」


 戻ってきたアルファ様に近づきます。すると、アルファ様を見つめて、穏やかな顔をされました。


「なんか、いいものだな…」

「え?」

「帰るところにミランダがいて、おかえりなさいって言われるのが」


 改めて言われ照れます。なんだか、アルファ様と家族になれたような、そんな照れくささがあります。


「電報は送ってきた」

「ありがとうございます」

「食事を買ってきたから、食べようか」

「はい!」


 小さなテーブルにサンドイッチを並べていきます。あまりに多いので、テーブルに乗りきれません。


「アルファ様って…すごく召し上がるのですね…」


 確か、婚約式の後の食事ではさほど食べていないように思えました。でも、あの時はアルファ様のお母様がずっと話しておられたので、あまりアルファ様を見ていられなかったわ。


「あぁ…そうだな。今日は食欲がないから、少ない方だが」

「まぁ…」


 いつもはこれ以上なんだわ。やっぱり体の大きい人は食べる量も違うのね。


「いただこうか」

「はい!いただきます」


 ザワークラウトとビーフが入ったサンドイッチを手に取り口に含みます。程よい酸味のなかに少しだけピリッとした辛味もあってとても美味しい。胸がいっぱいで食欲はなかったけれど、それでも美味しく感じられました。


「美味しいです!」


 笑顔でアルファ様に言うと、アルファ様はホッとされたような穏やかな顔をしました。

 笑顔で二口目もいただきます。口の中にしっとりとしたお肉の味も加えられ、さらに旨味が増します。

 あー、本当に美味しい!


「…ミランダは美味しそうに食事をするな」


 あら、そんな風に言われたのは初めてだわ。そんなに笑っているのかしら、私。


「美味しいですもの。このザワークラウトと酸味がとても自然で、そこにお肉の味もくわわってさらに美味しいです。このお肉がしっとりしていて。口の中でほどけていくんですよ」


 あまりに美味しくて私は上機嫌でアルファ様に伝えました。


「ミランダの話を聞いていると食べたくなってくるな」

「食べますか? はい、あーん」


 はっ。しまった。ロンダにあげる調子でアルファ様にサンドイッチを差し出してしまったわ! しかも、食べかけをそのまま!

 差し出した引っ込められずに固まる。アルファ様もポカンとしています。どうしましょう…。

 すると、しばらくして、アルファ様は私の手首を掴んで、そのままサンドイッチをパクリと食べた。


「確かに旨いな」


 ごくりと飲み込んだアルファ様はそうおっしゃった。


 た、た、食べた!

 食べかけなのに!!


 恥ずかしくて、居たたまれなくなってしまう。すると、アルファ様は口元を抑えて視線を反らす。


「あまり照れるな。こっちまでうつる」


 その言葉に本当に居たたまれなくなって、私は小さくごめんなさいと言いました。



 ーーーーー



 それからは妙に恥ずかしくて言葉も少なくなってしまいました。それになんだか、体がだるくなってきました。色々あった一日だったので、疲れが出てきたのでしょうか。


 あとは寝るだけになり、私はホッとしました。ここで倒れられたらアルファ様に迷惑がかかるもの。


 しかし、寝る前にある問題が起きたのです。それは、ベッドが一つしかないということです。


 アルファ様の体格を考慮されたそれは普通サイズのものとはやや大きいもののように感じます。でも、二人で寝るには窮屈です。

 最初、アルファ様は床で寝ると言われましたが、私は断りました。だって、お仕事をされてきたのに、床で寝るなどできません。


「しかし、君を床に寝かせるのは、もっとできない」

「いいえ! 私、テントの中でよく寝ていますので、床に寝るのは慣れております!」

「テント?」

「とにかく、アルファ様は、お仕事をされてきたのです! どうぞ、ベッドでお休みください」

「しかし、君だって、馬車に揺られてきたんだ。疲れているだろう? 現にほら…」


 アルファ様が私の頬に手をあてます。ひやりとした感触に体が震えました。


「熱がある。床でなど寝かせられない」


 諌められ私はこくりとうなづきました。


 アルファ様の優しさが嬉しい。それはとても有難いのです。このまま高熱が出たら迷惑をかけることも分かっていました。


「おやすみ、ミランダ」

「…おやすみなさいませ」


 カチリと電気が消され、部屋が月明かりのみになります。ベッドから下をみるとアルファ様がそのまま寝ていました。かける布団もなく、本当にそのまま寝ています。背中を向けられて寝る姿に無性に寂しくなってきました。


「アルファ様…」


 そっと、声をかけます。反応がないので、寝てしまったのかしら…


「アルファ様…おやすみなさいのキスはしてくださらないんですか?」


 そう言うとビクリとアルファ様の体が震え、ゆっくりとこちらを振り返りました。



ミランダのおねだりにアルファは色々、耐えられるのか!?

次はアルファ視点です。

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