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13.キスを教えてくださいねぇ…sideヨーゼフ

 ロンダから急に呼び出されたので、浮き足だって行ったら、彼女は真顔でとんでもないことを言い出した。


「ヨーゼフ様は、口づけをしたことがありますか?」


 これは意外な質問。俺が軽そうに見えるから経験値でも計りたいってこと? いや、彼女の顔からしてそんな理由じゃなさそうだな。なんとなく空回って暴走している気がする。ふふっ。今度は何を暴走しちゃったのかな? 可愛いロンダは。


「うん。したことあるよ?」

「そうですか…」


 何やらロンダは考え込んでしまった。しかも相当深刻に。俺はじっと次の言葉を待った。


「ヨーゼフ様、私に…その…口づけを教えてくれませんか?」


 意外すぎるお願いに柄にもなく動揺した。口づけを教えるだって? 俺が? 君に? これはあれか、遠回しの誘惑か? いやいや、そんな駆け引きができるような子じゃないな。とりあえず、理由を聞いてみよう。ま、なんとなく察しはつくけど。


「ええ? 口づけを教えてほしいの? それって君に口づけをしてもいいってこと?」

「それは!…違いますけど…」


 あはは。真っ赤になってる。可愛いなー。でも、残念。口づけはなしか。


「じゃあ、知識として知りたいってこと?」

「そうです!」

「どうして?」

「え?」

「だから、どうして知りたいの?」

「えっと、それは…えーっと、秘密です!」


 おやおや、秘密ときたか。まぁ、大方、ミランダちゃんとアルファ君がらみだろう。ミランダちゃんがお話の練習に肖像画を送ってくださいって素直に手紙に書いたもんだから、アルファ君がその光景を想像して、ミランダちゃんの可愛さに悶絶して、キスしたいとか書いてきたんだろうな。アルファ君ってば、むっつりなんだから。

 ロンダはオロオロするミランダちゃんのためにキスの知識を仕入れようとしているのかな? まったく、生真面目で可愛いんだから。

 ちょっとばかし、いじめてみようかな。だって、可愛すぎる君が悪いんだよ、ロンダ。


「秘密か、へー、ふーん。誰かキスしたい相手でもいるのかな?」

「違います!」

「へー、キスしたい相手もいないのに、知識はほしいの? ロンダちゃんってば、意外と大胆なんだね」

「私は…! ミランダのために…」


 ロンダは、はっとした顔をして、口をつむぐ。やっぱり、ミランダちゃんのためなのね。ふぅ、さてさて、この可愛い人をどうしてやろうかな。


「キスを教えてもいいよ」

「本当ですか!?」

「た・だ・し、ロンダちゃんがキスさせてくれたらね」

「え?…ええええ!?」

「だって、実際にやらないと、キスなんてわかんないよ」

「それは…そうかもしれませんが…」


 首まで真っ赤になってロンダはうつむく。怒ったり、しょげたり、首を振ってみたり、相当考え込んでいる。見てて飽きないなー。さてさて、どうでるかな?


「わかりました…」


 たっぷり考え込んだロンダは答えを口にする。


「キスをしてください。私にキスを教えてください」


 彼女の言葉に柄にもなくイラッとした。


「そう。わかった」

「え? …ちよっと!」


 彼女の手を掴み強引に引っ張る。彼女から「ちょっと!」「待って!」と声が聞こえてきたが、全部無視して路地裏へと引き込んだ。



 ーーーーー



 彼女を乱暴に壁際に追い詰め、壁に手をついて見下ろした。


「ここなら誰も見てないよ。いくらでもキスができる」


 この時の俺は、ロンダから見たら相当悪い男に見えていたんじゃないかな? 俺は意地の悪い笑顔だったし、苛立っていたから。


 だって、君が悪いんだよ。

 ミランダちゃんのためにキスしたいなんて言うから。


 初めてのキスは、君が俺を好きになってからがよかったのに。君はそうしてくれないだね。妹が大好きで、妹のためなら自分のことは後回し。どうせ、俺からのアプローチも軽いものだと思っているんでしょ? 軽い俺ならキスしてもいい。後腐れなくできると思ってるんでしょ?

 ほんと、腹が立つ。

 だから、ちょっと乱暴になったらゴメンね。


「キスっていうのはね、二種類あるんだよ。親愛と情欲」

「親愛と情欲…」

「言葉の意味はわかるよね? 親愛は好きって伝えるキス。こうやって…」


 俺は彼女のおでこにキスをした。面白いくらい彼女の体が跳ねたが、無視して続ける。


「家族ともするかな? ここに」


 次はほっぺたにする。くすぐったいのか、彼女はみじろいだ。


「付き合いたての恋人なら、やっぱりここかな」


 そう言って唇に軽いキスをする。目と目が近くであう。彼女はまた真っ赤になっていた。彼女の反応に満足した俺は笑顔で言う。


「親愛のキスはわかった?」


 こくこくと何も言わずに彼女はうなずく。緊張して何も言えなくなっている。可愛い。


「じゃあ、次は情欲のキスね。本当にしてもいいの?」


 これが最後通告だよ?と、念を押すように言った。彼女はまた体をびくりと体を震えさせた。しばらくしてから、ぎゅっと目をつぶり、こくんとうなずく。

 まったく、本当に、健気で、可愛い人だよ、君は。

 くすりと笑って彼女の耳元でささやく。


「ダメだよ。そんなガチガチになっていたら、キスできないよ?」


 そう言うと、これが私の精一杯なの!と言わんばかりに首を振る。それに笑った。あーあ、目頭に涙までためちゃって。ここら辺で許してあげようかな。そう思ってロンダの耳に息を吹きかけた。


「ひゃう!」


 あ、色気のない声が出た。

 ロンダは耳を押さえて、へなへな~と座り込む。それが可愛くて思わず笑ってしまった。ははっと笑うとロンダは真っ赤になって、睨みつけてくる。


「からかいましたね!」

「ははっ。からかうなんて…そんなこと、したよ?」

「そこは、してないって言ってください!」

「はははっ」


 ひとしきり笑い終えると手を差し伸べる。


「お嬢さん、お手をどうぞ」


 ロンダは睨みながらも手をさしのべてきた。その手を掴んで少し強めに引き寄せる。すると、結果はどうなる? もちろん、ガッチリと抱きしめさせていただきました。


「ちょっ!」

「ふふふっ。ロンダちゃんってば、柔らかーい」

「どこを触って!?」


 暴れる彼女を抱きしめながら言う。


「もう一個のキスはね、ぶどうで練習するといいよ」

「は? ぶどう?」

「そうそう。果汁たっぷりのぶどうの身をなるべく食べないようにする。舌で転がしたり、果汁を吸ったり、時には優しく噛んだり。果汁がこぼれないように、その甘い汁がなくなるまで口に含んでいれば、キスが上手になるよ」


 そう言うと、ロンダはまたブツブツ言いながら考え込んでしまう。その隙に俺は彼女が気づかない程度に彼女を触って柔らかさを堪能した。


「わかりました。その、ありがとうございます」


 上目遣いで言われてちょっとクラっとする。ふぅ、俺が紳士でよかったね、ロンダ。もし俺が狼だったら、君をガブガブ食べちゃうところだったよ? 斜め前にある宿屋に連れ込んで。

 まぁ、そのシチュエーションを想定して、ここに連れ込んだわけだけど。今日はそこまでいかないか。残念。


「はい。どういたしまして」


 にっこり笑って彼女から離れた。



 ーーーーー


 ロンダを送り届ける道すがら、俺は彼女からミランダちゃん達の様子を洗いざらい聞き出した。


「ふぅん。じゃあ、アルファ君はウォール地方にいるんだ」

「はい。手紙の住所がそうなっていたので」

「あー、じゃああれかな? 今、崖崩れの補強工事をやっているから、それ関連でいるのかも」

「そうなんですか。その補強工事は、いつ頃終わるんですか?」

「うーん、噂だと、そこの子爵が工事にごねてるって話だからまだ当分かかるかもね」

「そうですか…」


 沈むロンダに俺は一つアドバイスする。


「ウォール地方なら、ここから馬車を飛ばして二時間くらいだから、いっそのこと会いに行っちゃえば?」

「!」


 軽い気持ちで言ったつもりだった。ミランダちゃんは病弱だし、そんな遠出はできないだろう。行くとしても、ロンダの付き添いが必要。

 この時、俺は失念していた。

 ロンダが思い込んだら一直線に暴走してしまう子だということを。


「そうよ! 会いに行けば、いいんだわ!」


 こちらを振り向いたロンダは輝くばかりの笑顔だった。まずい、これは…。


「ありがとうございます、ヨーゼフ様! 私、急いで帰ります!」


 そう言ってロンダは駆け足で去って行ってしまった。


「ふぅ…」


 まぁ、いい笑顔しちゃって。ほんと、ロンダは妹が大好きだよな。


 今日はなんだか、色々あったな。ロンダとキスしちゃうし。


「………ふぅ」


 思い出して足がとまる。なんか、ものすごく照れる。思春期の小僧か、俺は。ったく、10歳も年下の子に右往左往しちゃって。情けない。まぁ、これも惚れた弱みってやつなんだろうな。


 またため息をついて歩き出した。


 この時の俺のアドバイスであんなことになろうとは、まだ俺は気づいていなかった。






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