10.たくさんお話したいです
婚約編はじまりました。
糖度upニヤニヤを目指します!
アルファ様の婚約式を終えた私はまた、田舎に戻ってきました。本来なら40日経てば伯爵家にいくのが筋なのですが、私の体のことを考えてくださって、結婚するまではこちらで過ごすことになりました。ありがたいことです。
アルファ様は会えなくても、まめに手紙を書いてくださいます。その時々のこと、少し恥ずかしいことまで…。
色々、書いてくださいます。それ自体に不満はないのです。ですが…
「え? 婚約式以来、会ってないの? あれから1ヶ月以上経つじゃない?」
ヨーゼフ様の言うとおりです。あの婚約式以来、私はアルファ様に会えていません。
ちなみに、今はロンダとヨーゼフ様と三人でお茶をしています。私達が出会ったあの店で。
「そうです。いくらなんでも、会えなさすぎじゃない? ヨーゼフ様は時々、来てくださるのに」
「あー、俺、アルファ君と違う仕事しているんだよね。ほら、あの桟橋のやつでさ、可動式の橋の着手にとりかかったから、俺は調整役なんだ。言い出しっぺだし。アルファ君はねぇ、なんか閣下に連れられて色んな所に行っているみたいだよ」
「そうなの…でも、それにしたって、こんなに会えないなんて! ね、ミランダ!」
「え、ええ…」
「まぁ、本格的に伯爵を受け継ぐための修行なんじゃない? ほら、色々見て回って顔を売っとくのも大事だし」
「それにしたって…寂しいじゃないですか! ね、ミランダ!」
「ええ…」
ヨーゼフ様に聞いて、アルファ様に会えない理由がわかりました。元々、お忙しい方でしたし、そうそう会えないとは思っていました。納得はしていたんです。でも…。
指を見つめると婚約指輪が光っています。あの時、握ってくれたあたたい手のぬくもりをただ、感じたい。それに…。
目の前のロンダとヨーゼフ様の打ち解けた雰囲気をみると、余計にうらやましくて、寂しくなります。
「うらやましいわ…」
「「え?」」
私の呟きに二人が同時に振り向きます。
「二人がうらやましい…」
「え? なんで?」
「私は、アルファ様にそんな風になんでも話せないから」
会えるのもうらやましいですけど、気兼ねなく話せるのが、何よりうらやましい。アルファ様と目が合うとドキドキしてうまく話せない。たくさんお話してみたいのに。色んなアルファ様の表情を見てみたいのに。恥ずかしくて私にはそれができない。
しょんぼりする私にヨーゼフ様はにこにこと笑います。
「可愛いな、ミランダちゃんは。ロンダちゃんが恥じらってるみたいで、萌える」
「ちょっと、変な目でミランダを見ないでくださいよ…」
「変な目でミランダちゃんを見てないよ。変な目で見ているのは、ロンダちゃんの方だし」
「余計に悪いです!」
目の前でまた話し出す二人。やっぱり、うらやましい。
「私もそんな風に話せるかしら…」
「そんな風にって…ダメよ、ミランダ! ヨーゼフ様みたいになったら!?」
「うわっ、ひどい」
「ううん。ロンダみたいに、好きな人とたくさんお話できるようになりたいなって」
「は? す、好きな人って!?」
「?…違うの?」
「そ、それは…!」
「ぶはっ、ははは。いいね、ミランダちゃん。最高」
「そこ、笑わない!」
「あれ? 笑っちゃダメなの? 俺を好きなロンダちゃん」
「っ~~~~!」
ロンダが真っ赤になって黙ってしまったわ。まずいこと言ったかしら…?
「ははっ。そっか、そっか。ミランダちゃんは、アルファ君ともっと話したいんだね」
こくりと頷くと、ヨーゼフ様は続ける。
「きっと、ミランダちゃんは、アルファ君の前だと緊張しちゃってうまく話せないのかな?」
「!…そうです!」
「じゃあさ、手紙でまずは話したいことをたくさん書いてみれば?」
「手紙でですか?」
「そうそう。手紙なら言いたいことも素直に書けるでしょ?」
確かに手紙なら、緊張せずに書けます。でも、それならいつも書いているし…話せることにつながるのでしょうか?
「手紙は今までも書いているだろうけど、今回は、こんなこと書いたら恥ずかしい…!って思うことも書いてみる」
「えっ…それは…」
「だめだめ、そうやって恥ずかしがっていたら、いつまで経っても緊張しちゃうよ? いいの?」
「っ…だめです」
「うん、素直でよろしい。なら、心のままに書いてみたら? 耳障りのいい言葉だけじゃなくて、寂しいことも、悲しいことも、怒ったことも、全部、書いちゃえばいいんだよ」
寂しいことも、全部、言葉に…。
「アルファ様は困ったりしないでしょうか?」
寂しいなんて書いたら困らせてしまう。だって、どうしようもない事だから。
「いーの、いーの、困らせておけば」
「でも…」
「男はね、好きな子のためなら、困りたいのよ。特にミランダちゃんは、困らせるようなことを言わない子だし、ミランダちゃんがそんな事を言ったら、アルファ君はドキドキしっぱなしだと思うよ」
アルファ様がドキドキ…私と同じような気持ちになってくれるのかしら? それなら嬉しい。すごく嬉しい。
「あとはね、イメージすること」
「いめーじ…ですか?」
「うん。アルファ君を思い出しながら何を話そうか想像してみるの」
想像…アルファ様を想像しながら…。
ふいに、優しい顔を思い出して頬が熱くなる。
「想像でしたら、アルファ様に肖像画を送ってもらえればいいんじゃない?」
黙っていたロンダが話し出す。
「いーね、肖像画。それだったら、想像しやすいし」
「肖像画に向かって話しかければ、少しはアルファ様への緊張もとけると思うわ。ね、ミランダ、アルファ様に肖像画を送ってもらいましょうよ!」
肖像画に向かって話しかける?
その光景を想像して顔が熱くなった。
そんなの恥ずかしすぎる!
「そんな…はしたないわ」
「何、言ってるの!アルファ様とたくさんお話できるようになりたいんでしょ!」
「…は、はい…」
こうして二人に押しきられ私はアルファ様に肖像画を頼むために手紙を書くことにしました。
ーーーーー
家に戻った私は、便箋を前に私は考え込んでいました。
なんて書こう…
アルファ様とお話できるようになりたいので、肖像画をください?
だめだめ! 肖像画で、何をする気なのかわからなくて不気味だわ。
じゃあ、肖像画に話しかけたいので、肖像画をください?
だめだめ! それこそ、変な女だと思われてしまうわ。
じゃあ、じゃあ…。
頭の中が言い訳と肖像画のことでいっぱいになり、ぐるぐる回りだす。それから一時間経っても手紙は書けず、私はぐったりと机に顔を突っ伏していました。
はぁ…もう嫌…。
うまく言葉を思いつかない自分が恨めしい。この消極的な性格が恨めしい。
じわりと目頭に涙があふれる。
ロンダみたいになりたい。
あんな風にアルファ様とお話したい。もっともっと…
私は顔を上げて涙をぬぐいました。
無いものねだりしたってしょうがないわよ、ミランダ!
素直に正直に心のままに。
困らせてしまうかもしれないけど、今の正直な気持ちを書いてみよう。恐れていたら何も変わらないもの!
私は便箋に文字を書きはじめました。
『アルファ様へ
今日はロンダとヨーゼフ様にお会いしました。二人の気兼ねなく話せる関係が私、とってもうらやましく思いました。私もアルファ様と、もっともっとお話したいです。色んな事をもっともっと。
でも、私はアルファ様を見ると恥ずかしくて緊張してしまいます。
だから、お話できるようにアルファ様の肖像画に毎日、毎日話しかけたいです。そうすれば、きっとお話が上手になるはずですもの!
アルファ様の肖像画を私にくださいませんか? 恥ずかしいお願いだということは分かっておりますが、どうか、どうかお願いいたします。
ミランダ・カリムより』




