死発列車
「長かった……」
杵川サトシが白い息混じりに呟いた。四月になっても明け方はまだ寒い。
駅員から許可をもらいホームに入って約四時間、あと五分ほどで始発列車が来る。辺りはまだ暗かった。スマホの明かりだけがサトシの顔を照らしている。
「はぁ」
画面には臼田サユリから届いたメールが映っている。
残り三分。
『さようなら』
サユリと付き合って、もう五年目目前。
メールの最後の行には悲しい五文字が粉飾されていた。
駅にアナウンスが響いた。あと二分で始発列車がやってくる。
残りあと二分……。
サトシは慣れた手捌きで返事を打っていく。
ラスト一分。最期の一分。
再度、アナウンスが聞こえた。
メールは打ち終わっていた。スマホをベンチに置き、ホーム外側へと近づいていく。
走馬灯は来ない。
列車の光は来た。
『ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン……キイィィィイイイイ――グチャ……』
肉片が四方に飛び散り、車輪やレールに付着した。
数名の乗客が列車から降りる。
ただ一人、とある女性だけ吸い寄せられるようにベンチへ近づいた。
女性は躊躇わず、しかし震えた手でスマホを弄りメールの新規作成画面を見る。
『希望はこれかい? 止めた方がいい』
サユリは膝から崩れ落ち嗚咽した。提げていたカバンが下を向く。
開いた口からポロリ、遺書が出た。