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四季彩宝石箱  作者: 泉柳ミカサ
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二度目惚れ

そう、これは一目惚れというやつ。

バイクで事故って病院生活も悪くない。昨日だったか、一昨日だったか……夜の露道を走行中、突如現れたタンクローリーを避けようとスリップし横転、ガードレールに衝突した。

そこからの記憶は定かではない。しかし病院送りになったことだけは確かのようだ。

愛車はお釈迦だろうが、身体を見る限り後遺症はなさそうだ。手はしっかり動くし、声も出る。衰えているわけでも老いているわけでもなさそうだ。

辺りを見渡せば、真白な壁が目を奪う。そして、病室独特の臭いが鼻孔を奪う。周辺は見たこともない器具ばかりだ。

……それよりも、ベッドの近くでパイプ椅子に座り、船を漕いでいるこの女は誰だ?

年齢は二十代後半か、ホブカットに羽を模した銀色の髪飾りが印象深い。

どっからどう見てもアヤコそっくりだ。生き写しじゃないかと思えるほどよく似ている。


思えば、アヤコのときも一目惚れだった。

ケツにはしょっちゅう目を奪われたが、心までゆさぶられるのは、この女で二人目だ。

アヤコは病弱な身体だったが、まさか恵を産んで死産するとは夢にも思わなかった。

アヤコと出逢ったのは、合コンの席だ。

酒には一切手をつけず、烏龍茶を立て続けに注文しては飲み、無口で、ただの数合わせとしてきた女。そんな第一印象だった。

しかし、もう心を奪われていたのだろう。

会は盛り上がり、ツレの提案で女全員とメアドを交換する流れになった。そのままムードが下がることもないまま会はお開きとなった。

合コン後、一応女全員にお礼とデートの誘いメールを送った。そして猪一番で返信がきたのがアヤコだった。メールでは一言「あなたにまた会いたいです」と飾られていた。

嬉しい不意討ちを喰らい、俺はすぐに会うことにした。

二人だけのとき、アヤコは洒落たカクテルを次々と頼み、細い喉を鳴らしていた。彼女の喉の上下運動は今でも鮮明に憶えている。エロスが舞っていた。

俺は俺もでピッチが一気に早くなっていた。

礼儀としてこっちからホテルへ誘ったが、彼女の方が野心に溢れていた。

当然、ベッドの上でも立場は変わらなかった。寝技では百戦錬磨だった俺が呆気なくイかされた。

それから交際を重ね、二年、子どもを授かった。名前を決めたのはアヤコだった。漢字一字で「恵」、それが一人娘の名前だった。色々な喜怒哀楽に恵まれますように、と彼女はいっていた。

恵を産む直前、アヤコは俺に初めて涙を見せた。出産の喜びか、はたまた迫りくる死を予期していたのか……今では墓場に持っていかれたが、彼女は最期にこういっていた。


恵はきっと、私たちの恵みとなる、と。


そういえば恵の姿が見えない。ここにいないということは、アヤコの実家だろうか。それなら、退院後、菓子折りの一つぐらい包んどいた方がいいだろう。恐らく受け取っては貰えないとは思うが。

アヤコの両親は慈愛に満ちすぎていた。

デキ婚はおろか、アヤコが亡くなったときも、俺に責めずに俺と恵の心のケアに努めてくれた。

そのお陰もあって、恵は今年晴れて入園した。最近では家事を覚え、よく手伝ってくれる。

アヤコに似て我が強く、家事の独占にときたまヒヤヒヤするが、それもまた懐かしかった。

アヤコの両親には、四十九日の法事のときに再婚を勧められた。さすがそんな気にはなれず、丁重にお断りしたが、今は少し揺れている。

この女から誘われたら賭けてもいいかもしれない。アヤコ、お前ならこの野心わかるよな……。


お、女の瞼が動いた。もう起きるな……起きた。

「うそ……」女は一言そういった。何故か瞳が潤んでいる。

目覚めていきなり、それはないだろう。あれ? 病室出ていきやがった。医者でも呼びにいったか。

ほら、ご名答。しかめっ面なお医者様のご登場だ。いや、しかめっ面というか、まるで幽霊を見るかのように俺をなめ回してやがる。

「そんな……信じられん」

おいおい、仮にも医者が患者の目の前でそんなことを……確かに、見たところ事故の割には傷が少なすぎるが、それはあんたらの腕が良かっただけだろ。

「おい、今すぐマエダ教授に連絡しろ。成功だ。歴史的瞬間だぞ。まったく、信じられん」

おい、なに人の身体を実験で弄んでやがる。そんな大がかりな大手術だったのか? 確かに、傷痕が見えないが……てか、これ傷痕あるか?

「初めまして」

医者が出て行き、二人ぽっちになったところで女はいった。瞳は完全に濡れていた。

おいおい、声までアヤコそっくりだな……ん? 初めましてなのに、この女は俺に泣いているのか? 何故?




「初めまして……おじいちゃん」


え?

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