ノコギリ男
深夜二時を過ぎたとき、ソイツは必ず現れる――通称、ノコギリ男。
これは決して、都市伝説ではない。ある男が不幸にも出逢ってしまった実話である。
ノコギリ男は神出鬼没。廃れた病院はもちろんのこと、閑静な住宅街でも現れる。
男は大阪の一等地、芦屋で襲われた。
男の名は肥田善一、五十四才。一流企業の幹部だ。
その日、肥田は残っていた雑務を仕上げてから床に就いた。
異変を感じたのは、やはり午前二時過ぎ……古時計が二回鳴ったころだ。
肥田は恐る恐る瞼を開け、布団から出た。冷えきった廊下を忍び足で歩く。冷気が裸の足から全身へ這い上がってゆく。
ガシャン
途端に台所の方向から大きな音がした。肥田の足が一気に竦んだ。
「やめてくれよ……」
肥田の呟きは暗闇に消えてなくなる。
ピタピタ……
耳を澄ませると、明らかに肥田とは違う足音が聞こえる。
「嘘だろ……」
ピタピタ……ピタピタ
次第に足音が近づいてくる。
ピタピタ……
ピタピタ、ピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタ。
「うわぁー」
「ちょっと、あなた何やってるのよ」
「なんだお前か、脅かすなよ。チビるかと思ったぜ」
「大袈裟ねぇ、あなたもトイレ?」
「あぁ……お前もか?」
「えぇ、まぁ。歳は取りたくありませんね」
「まったくだ……すっかりノコギリ男だよ」




