肉の日
二月九日。
マリコの舌は完全に肉だった。
気合いを入れるため、長い髪を一本に束ねる。チラシを右手にマリコは街へ繰り出た。
まず向かったのは精肉店だ。肉の日だけに売り切れ度合いが激しい。残っているのは到底手の届かない高級牛ばかりだ。仕方なく、マリコはスーパーへ向かう。
しかし、こちらもお肉が繁盛しており、残っているのはクズ肉ばかりだった。
「お肉、お肉、お肉……」気づいたら、マリコはそう呟いていた。
百貨店、コンビニ、ケータリング、通販、ネット……マリコのほしいお肉たちはことごとく売り切れだった。
「お肉、お肉、お肉……」
朦朧さながら、手ぶらで家に帰る。マリコは是が非でもお肉が食べたかった。肉の調達手立てはもう、一つしかなかった。
キッチンに向かい、マリコは包丁を手にする。
「しょうがないじゃない。だってどこも売り切れだもん」
舌なめずりして、玄関へ向かう。ドアノブを捻る。そして途端、「あら、あるじゃない。いいお肉」
二月十日。
マリコの肌は完全に布団だった。
気合いを入れるため、不器用に長い髪を一本に束ねる。チラシたちを左手にマリコは街へ繰り出た。
この日を境にマリコのポニーテール姿を見ることはない。




