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四季彩宝石箱  作者: 泉柳ミカサ
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世知知らず

一年の計が元旦にあるなら、一年の食も元旦にあるようで……それはつまり、おせち料理でございましょう。最近ではローストビーフやらオードブルやら……黒船が多く到来しておりますが、やはり大和心くすぐるおせち料理は素晴らしいものです。


助六「おい。お七、これは一体何ぞや」

お七「へい、これは蓬莱飾りというものでございます」

助六「ほう、これが巷に聞く蓬莱飾りか。料理がたくさんあって箸が迷いおる」

お七「そういわず、さぁさぁ一口」

助六「おい、これは何だ」

お七「へい、それは丹波の黒豆でございます」

助六「ほう、丹波のか」

お七「そういえば、この蓬莱飾り、食べ物一つ一つに面白い念が込められているそうで」

助六「念とな? それは初耳、話したもう」

お七「へい、例えば黒豆、肌が黒くなるほどマメに働けるそうな」

助六「おいおい、そりゃ敵わんぞ。庭師な手前、マメにまみれるのは好かん、これは食えぬ」

お七「なら、この数の子はどうか」

助六「これにはどんな念が?」

お七「へい、数の子は子孫繁栄の念がございます」

助六「子孫繁栄……さようか。これ以上子が増えれば、この家を畳むしかあるまいな、これまた食うのは憚る」

お七「伊達巻はいかがか」

助六「いわれは?」

お七「知恵つきの念です」

助六「おい、我を知識なき人と思うのか、食わんぞ食わんぞ、こんなもの」

お七「滅相もございません、この通り」

助六「顔を上げい。この箱の中に食えるものはないのか」

お七「ならば、鯛はいかがかでございましょう」

助六「これは我も知っておる、めでたい、にかけておろう」

お七「さようでございます」

助六「しかし、しかしだな……痛い、にもかかっておる。こ奴の立派な骨が我の病を進めると思うと箸が進まぬ」

お七「では、かまぼこは……紅は魔よけ、白は清浄を表してございます」

助六「いわれは善い。善いのだが、この鶴と亀、これを食べるとは、年を食べることにもならぬか」

お七「そんな、年を案ずるなら海老はいかがか」

助六「だんだん読めてきたぞ。これ、この海老のように腰を曲げるまでの長寿といいたいのだな」

お七「へい、さよでございます」

助六「つまりは我に庭師から隠居しろ、というわけか」

お七「そんな……」

助六「いっておる。いっておるぞ、お七。腰を曲げた庭師はおろうか、おらぬな。つまるところ、この蓬莱飾り、念何ぞ語るに足らぬ。本来の食べるという行為の有難みを邪魔しておる。他に何がある」

お七「へい、あとは遊び心で入れた豚の照り焼き……しかし、これは……」

助六「お七」

お七「お許しください。これ、ほんの遊び心でございました」

助六「これぞ、これぞ善き念。豚、つまり庭師にとって邪魔な草の一種ブタクサを食べ尽くせという念であろうな。これ以上の念があろうか。お七、もっとこれを作ってこい。これぞ至高な蓬莱飾りである」

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