なき姫
むかしむかし、とある国でお姫様がないていました。
何故なくのか、いつからないていたのか、誰にもわかりません。
わかるのは目をつぶって、ないているということだけです。家族に恵まれ、お金にも恵まれ、最愛の夫、王子様もいます。
「姫、何故そんなにもないているのですか?」
ある日、一人の兵士が尋ねました。
「姫よ、何故ないている?」
王子様もききました。
「ないている理由を教えてくれぬか」
王様も……。
なおもお姫様は何もいわずないています。そして、泣きました。
「王子、王子」占い師がいいました。
王子様がお姫様の身を案じて招いた、隣国の占い師です。
「王子、いい方法があります」
「それは本当か」
「もちろんでございます」
「どうするのだ」
占い師はにこりと笑いました。
「お姫様に土を被せるのです」
「土とな?」
「えぇ、そうすれば姫のなきは完了します」
「そうか」王子様は大きくうなずきました。
「皆の衆、姫に土をかけるのだ」
兵士たちは王子様の指示に従い、お姫様に土を被せていきます。
「おい、いつまで土をかけるのだ」
「わたくしが合図を出すまでです」
王子様はそうか、といって腕組みです。
しかし、なかなか合図が出ません。
みるみる内にお姫様が土で埋まっていきます。
足が埋まり、腹が埋まり、胸が埋まりました。
「おい、合図はまだか」
「まだまだです」占い師が答えました。
首、顎、唇、鼻……。
「まだか」
「まだです」
「まだか」
「まだです」
「まだか」
「もう、大丈夫です。これで姫は土に還ります」
そう、これは『死』の概念がない国の物語。ほんのほんの小さなリアル。




