飲めない話
急に彼女から連絡があった。待ち合わせはいつものカフェテリア。彼女はいつもの席にいた。テーブルにはすでにアイスコーヒーが置かれている。
席につくと、すぐにウエイトレスが注文を取りにきた。
「アールグレイ、ホットで」俺はメニューも開かずいった。
この店の紅茶類すべては舌が憶えている。アールグレイだけが唯一、及第点を越えていた。
「話ってなんだ」
訊いても彼女は口を開かない。無言のまま、徒に時間だけが過ぎていく。
数分して、先ほどのウエイトレスがやってきた。ポットとカップをテーブルへ丁寧に並べていく。
「別れて欲しいの」
ウエイトレスが立ち去るのを見て、ようやく彼女が言葉を発した。
「またその話か……」俺はため息がてら、腕時計に視線を落とした。「怒ると老ける。これは科学的にも医学的にも証明されている。そもそも老化の原因とされているのが――」
「はぁ……あなたのそういうインテリジェンス気取りなところ、飽き飽きなのよ。やれ、テーブルマナーがどうの、やれ語源がどうの……もういい加減にして。私は普通に喋りたいのに、何であなたは普通の話が出来ないの? 何でそうやってすぐに知識をひけらかすの? あなたみたいな変人なんて、もう顔も見たくない」彼女が早口で捲し立てた。
「いいたいことはそれだけか」
俺は呟いた。腕時計の秒針が気になる。
「そうよ」
「飲めないな」俺はまたため息を吐いた。
「要件が飲めないっていうの?」
「いや、あと十五秒ほど蒸らさないとアールグレイが美味しく飲めない。一分しっかり蒸らすのが重要なんだ。だから、もう少し喋って――」
何故か彼女の平手打ちが飛んできた。




