表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季彩宝石箱  作者: 泉柳ミカサ
20/1059

願い

雨がよく降る日だった。その子の容態が急変した。

医者や看護婦たちが、気忙しくリノリウムの床を響かせる。

「ユウキを……ユウキを救ってください」

その子の母親が叫んだ。バタンと扉が閉まり、『手術中』のランプが灯る。

医師も看護師も彼女を一瞥し、オペ室へと入っていく。ただ一人、執刀医が母親たちへ優しい歩調で近づいた。

「ユウキくんのお父様とお母様ですね。執刀医の都筑です。正直申し上げますと、ユウキくんは非常に難しい状態です。今夜がヤマだと思われます」

都筑が敢えて無感情でいった。それでも、その子の父親の顔は曇った。

「……そんな、ユウキはまだ五才なんだ。生まれつき盲目で聾唖で、それでも……それでも、私たちのためにここまで生きてきてくれた。あの子にはまだまだ未来がある。これから、これからなんだ……ランドセルだって……」父親はついに喘いだ。

「そうですか……」都筑は視線を落としたが、「実は、私には特殊能力があるんです」

「特殊能力?」

都筑が顔を上げる。澄んだ顔だ。

「えぇ、危篤状態の患者様と脳内で会話することが出来ます。ユウキくんに託したい言葉はありますか」

父親は一度、妻を見てから口を開けた。

「願いが叶うなら何をしたいか、語らさせてくれ。せめて、せめてあいつに夢を見せてやってくれないか先生」

「わかりました」都筑は頷き、また手術室へ戻った。

二時間四十七分十四秒後、ランプの灯りが消えた。

扉が開き、都筑が出てきた。ゆっくりとゴム手袋を外し、マスクも解く。いうまでもなく、臨終を見届けた顔だった。

「どうでしたか」母親が訊いた。目の周りが痛々しい。

「ユウキはなんと……?」父親は父親で背中が痛々しかった。

「ユウキくんの願いは一言でした」都筑がそっと天を仰いだ。




「《きれいな青空が見たい》、と」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ