マシーン
二○XX年
ケントは旅行中、一軒の旅館にチェックインした。
ロビーでは荷物を乗せた運搬台車が自動で行き交い、床はお掃除ロボで塵一つない。
「予約していたケントです」
「ケントサマデスネショウショウオマチクダサイ」フロント嬢がカタコトでいった。動きには無駄がない。
「イチヨンロクゴウシツデゴヨヤクサレテオリマス、ジョウジケントサマデオマチガイゴザイマセンカ?」
「はい、そうです」ケントは頷き、フロント嬢から鍵をもらった。
「ソレデハニモツヲオアズカリイタシマス」
「お願いします」ケントは全ての荷物をフロント台に置いた。
「カシコマリマシタ。デハ、ゴユックリ」
フロント嬢は深々とお辞儀する。分度器はないが恐らく九十度ジャストのお辞儀だ。
部屋に着くと既に荷物が届いていた。天井を見上げるとレールが敷かれていた。この旅館では所謂、自動輸送装置が完備されている。つけ加えて、輸送台車から荷物を出して綺麗に並べる機械もあるのだろう。
室温、湿度も申し分ない。予約時にやった簡易アンケートがまんま反映されている。
「景色はホログラフか」ケントが呟いた。
窓の向こうにはケントが好きな瀑布が映っており、上空では花火が絶えず上がっている。
満足したケントは折り畳みのテレビを壁に張り、重役会合を開いた。
翌日、チェックアウトの手続きを行った。昨日と相手は違う。
「ゴリヨウチュウ、ナニカゴフメイテンヤゴヨウボウナドハゴザイマシタデショウカ?」
「いや、快適だったよ」
「サヨウデゴザイマシタカ、ソレデハマタノゴリヨウオマチシテオリマス」
「ケント、日本はどうだったの?」妻のアンネルが訊いた。
「まだまだだね。フロント嬢がまだ人間だった。でも俺らよりよっぽどマシーンだったよ」