GOOD DAY
会社側から指定された面接日は予報通り、憎々しいほどの日本晴れだ。改めてネクタイをきつく締め、日村晴雄はドアを叩いた。厚い扉の奥から「どうぞ」と渋い声が聞こえる。
日村は「失礼します」と声を張り、戸を押した。そのまま流れるような動作で椅子の横にピタリとついた。
「明冠大学から参りました、日村晴雄と申します。本日は最終面接、宜しくお願いいたします」
日村の大声とは対照的に、面接官たちは淀んだ声で「よろしく」といった。机を挟み、面接官は二人。ネームプレートには『霜津』と『天野』とそれぞれ書かれていた。
霜津はハレモノに触れるかのように、手元の書類と日村を交互に見ては苦笑していた。後ろに設けられた窓の日の光も作用して酷く不気味に見える。
「ではまず、弊社を志望した理由をお聞かせ願えますか」天野がいった。
霜津とは違って、天野の表情は幾分緩んでいたが、眼は一切笑っていなかった。
「私が御社に志望いたしましたのは――」
一言も噛まず、志望理由を述べたにも拘わらず、天野の眼光は厳しいままだった。途端に雲行きが怪しくなった。
「では、特技を教えていただけますか」今度は霜津が訊いた。癖なのか、相変わらず気だるそうにペン回ししている。
「はい。私の特技は語学力です。私は……」
「……はぁそうですか」
端的に特技を伝えたつもりだが、霜津の顔はとぐろを巻き、より険しいものとなった。
「確かに凄いですが、私どもの会社ではそれほど語学はねぇ」霜津が天野に目配せする、それに同情するかの如く、天野の顔色さえ優れない。
「しかし、世界各国に拠点を持たれている御社では少なからず貢献出来ると思えるのですが」
この発言が逆効果だったのか、天野はうーんと渋り。霜津は露骨に舌打ちした。
辺りが一層暗くなった。何とか場を保っているが、唸り音は日村のところまで聞こえてくる。
「じゃあ、最後にいいたいことある?」霜津は不機嫌な感情むき出しに尋ねた。
グルルかゴロゴロか、もうモロだった。
「先ほども申し上げました通り、世界中の多くの難民を救う御社の活動に強く感銘を受けました。それだけです。ですので、欠点でしかなかったこの才能を捧げます」
しばらくの間。
ついにカミナリが落ちた。
大粒の雨が窓を乱打った。
「驚いた、信じられん」
「今日を雨にするとは……見込み以上の雨男だ」天野もいった。「是非、その才能で、砂漠地帯で苦しむ難民たちを救ってくれないか」
日村は、はい、と晴れ晴れに答えた。
「気持ちいいほどの土砂降りだ。ほんと……いい天気だよ」