募心
男は最初、聞き間違えかと思った。
駅の高架下、献血車の真向かいでその単語が連呼されている。
いくら耳を澄ませど、彼らは「ボシンお願いします」と口にするし、幟にも『募心活動』と文字があしらわれている。
幟の小文字にも目を向ける。
『秋菜ちゃんを救ってください』
移植手術ゆえの募心活動のようだ。お金よりも思いやりを募っているらしい。
いい標語だ、と男は思った。
財布の紐を緩め、五千札を抜く。
「秋菜ちゃんの手術、成功することをお祈りいたします」
「……はぁ、ありがとうございます」
募金箱を抱えた女が顔を見上げる。怪訝な顔だ。
「あれ? こちらじゃありませんでしたかな」
入れる団体を間違えか、と思ったが、箱には「秋菜ちゃん救う会」と書かれている。
「場所はこちらですが、募心ですので、心を募っているんです」
「心?」
「えぇ、心臓です」
女がそういうと、男は朗らかに笑った。
「そいつは面白い、いくら集まりしたかな」
「まったく、です」
「そりゃあ、そうでしょうな」男は笑ったまま、箱の中を覗いた。
中には拳ほどの大きさの元気なアレが七つほどドゥクンドゥクンしていた。
男の心もドゥクンドゥクンした。