見たい
男は暖簾をくぐって中へ入った。
大阪日本橋の一角、深夜零時でもこの店は明るい。知る人ぞ知る「男」の穴場だ。
今日も男は店内に所狭しと並ぶ商品を見ていった。
ポイントは三つ。外見に騙されるな。新品には手を出すな。最大限に想像しろ、だ。
男は一つ商品を手に取った。綺麗だ。容姿も申し分ない。しかし、プロポーションばっちりでも、蓋を開ければ駄作なんてことは、よくあることだ。
眼鏡をはめ、じっくり裏面を見る。これは「男」の戦いだ。外れを引くかどうかはこの確認に全てがかかっている。少ない情報でいかに忠実に想像するかが肝となってくる。駄目だ。男は商品を棚へ戻す。これは映りが悪いだろう。
新品に手を出すのは簡単だ。楽に安パイが望める。しかしそれでは、「男」の名が廃る。素人でもプロ級の選球眼があると男は自負していた。
また商品を手に取る。男好みに添ったテイストだ。裏面を見ても悪くないし、そそられる。あそこも反応している。
けれども、一抹の不安があった。本当にこれでいいのか。欲はみたされるのか。
家に帰って、いざ再生して失敗作だったときの喪失感は半端ない。
そうならないためにも、男には買い物に余念がなかった。一つ選ぶのに、狭いこの店でも一時間はざらにかかる。
今夜もやはり一時間以上費やした。結局、当たりは見つからず、取り敢えずこないだ発見し、もしものために保留していたやつを買うことにした。
こういった買い物を随分長くやってきているが、中々ホームランが難しい。究極のギャンブルだ。
思えば、十六のころにうぶな気持ちで買ったやつが一番興奮した。
男は苦笑してレジへ向かった。幸い店員は男性だった。
家に着くと早速、男は商品で再生させた。
「くっそ、外れだ。映りもしねぇ」
そういって男は買ったばかりのAV機器を蹴った。