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臍の緒
鏡見京子
「あんたねぇ、なんで万引きしたの」
福江由紀
「先生には関係ない話です」
鏡見京子
「お母さんが悲しむでしょ」
福江由紀
「そんなはずありません。現に、ママ来てないじゃないですか、どうせ私がどうなってもいいんですよ」
鏡見京子
「そうかしら……あなた、《母》と《子》の間にあるものは何か知ってる?」
福江由紀
「何ですか急に……」
鏡見京子
「臍の緒よ」
福江由紀
「そんなの、もうとっくにーー」
鏡見京子
「えぇ、切れてるわ。けど、まだあるのよ。《母》と《子》、ともに漢字の臍には真一文字がある。この《一》こそ、臍の緒だと思わない? それも、決して切れることのない臍の緒よ。まさしく《一緒》よ。子どもを何とも思わない親がいるはずないでしょ」
バンッ
「由紀!」
「ママっ」
鏡見京子
「ほらね、繋がってるでしょ」
福江由紀
「ありがとう……先生、割りといいこというじゃん」
鏡見京子
「バカ、割りとは余計よ。早く謝って、母の日を大事にしなさい」