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四季彩宝石箱  作者: 泉柳ミカサ
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AIある喧嘩

「だから俺は止せっていったんだ」


 先に口角泡を飛ばし出したのは、ワタルだった。気品ある閑静な街には似つかわしくない声が響いた。時間は深夜零時過ぎ、いい子はとうに寝ている時間だ。

「あら何、私のせい?」ワタルの妻、ノリコがワイングラスを回していった。ボトルは既に空になっている。ノリコは僅かにグラスに残ったワインを一気に呑んで、大袈裟に眉を曲げた。「元はといえば、あなたがいい出したことでしょ……出来のいい子が欲しいって」

「あぁ確かにいったさ。けど、それは多くの親が抱く理想をいっただけだ。それをまぁ、真に受けてあんなことを……ヒカルが可哀想だとは思わなかったのか?」

「可哀想? よくそんな言葉がいえたわね。金に目がくらんで医者や技術者たちの口車に乗ったのはあなたでしょ。ヒカルから感情を奪ったのはあなたよ、はやく純粋だったヒカルを返してよ」ノリコは酔いのあまりテーブルに突っ伏し、喚き散らした。

「よくいうよ、その汚れた金を使ってるのはお前だろ。やれブランドだの、やれワインだの……お前、変わったよ」

「あなただって変わったわ、あの頃の愛が見えない。私にもヒカルにも……」

「お前はあるっていうのか、今のヒカルに愛情が……」

 ノリコがゆっくり顔を上げ、歪んだ唇のまま首を振ろうとした瞬間、奥の和室の襖が開いた。 

「パパ、ママ?」パジャマ姿のヒカルは寝ぼけ眼をこすっている。

「「ヒカル」」

夫婦の声が重なった。二人は急いでヒカルに駆け寄る。

「起こして悪かったな」ワタルが宥めた。

「けんかはよくないよ」

ヒカルが園児らしからぬ冷めた目でいった。

「そうね」ノリコは涙を拭い、ヒカルの頭をクシャクシャと撫でた。それでもヒカルの瞳は冷たいままだ。代わりにまた口を開けた。

「そんなにかなしいのなら、パパもママも、頭にチップ入れたら? そしたら僕みたいに完璧なAIになれるよ」


 ワタルの唇も歪んだ。

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