11/1059
コウカなお買い物
百円玉を自動販売機に入れる。
それだけの動作でハルカは武者震いを起こしていた。
中学生のハルカにとって、自販機で缶ジュースを買うことは、贅沢そのものであった。
頑張った自分へのご褒美。一本の缶ジュースがその証だ。
それに今日は運動会。普段めったに動かないハルカは汗びっしょりだった。
着替えもそこそこに、ここまで振り切って来た。
震える手でボタンを押す。
ガチャン。
福音を聞いてからハルカは缶を取り出した。プルタブに指をかける。開けて中から抑えきれなくなった泡たちがブクブク……。ハルカは慌てて唇をプルトップへ…………。
「ハルカお嬢様、そんな安物、口にしてはいけません。何かあっては、わたくしがお父様に叱られてしまいます」
「ヨシノお黙り。今入れたのは、よく見るペラペラの紙のお金じゃなく、丸く硬い、珍しいお金よ。それで買ったものが安いはずないでしょう」