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ペインティング・ザ・ワールド  作者: 金剛涼太
4/7

第三話 常識と過ち

「良かったですね、丁度用が何も入ってなくて」

「クソっ、、、あの自己中社長が、、前世までくたばれッ」

 作業をしながらでも聞こえてくる凛子さんの小言。他人のことならばどんな罵倒をしてくれても構わないが、一人でボソボソと言われると気が散ってしょうがない。


 昨日の夜中。車内での仮眠中にいきなり凛子さんが日本に帰ると言ったときには戸惑いもしたが事の発端を聞けばなんとなく想像はついた。

 うちの事務所の社長が絡んでいたのだ。

 最近は事務所に行くこともなく、連絡は凛子さんに任せっきりだったから社長の無茶振りなどには振り回されなかったが、まあ、そろそろ来る頃だと少し察していた。

 しかし、凛子さん曰くこの帰国はゲームの制作に立ち会う機会だそうだ。丁度今月に大きい仕事が終わってゆっくりできると思ったがこの始末だ。

 まあ、べつにゲームは嫌いじゃない。むしろ好きだRPG要素のゲームはあまりやらないがPCのギャルゲーやエロゲーはよくやる。

 裸体のデッサンはやる機会がないし大体俺に人の体の良し悪しなんかわからないからやっても意味がない。だが、エロゲーは別だ。むしろ主峰と言ってもいいくらいだ。

 話しが逸れたが、まあエロゲーの話はいい。本題はその俺とのコラボだとかいうゲーム機だ。

 ゲーム機というと有名なものだと、画面とコントローラーがついたコンパクトサイズのゲーム機やテレビに繋いで画面越しにやるゲーム機も主流になっている。

 凛子さんの話ではゲーム機としか言ってなかったから詳細はわからないが変わった仕事で新鮮だ。

 そう考えながら俺は自分の荷物の整理。凛子さんはここ(フランス)でお世話になっていた人達へのお詫びのメールを送っていた。

 俺はあまり物を持たないから生活必需品は少ないが、ある程度荷物になるのは画材と興味本位で買ったペンタブ、液タブそれにPCくらいだ。物も、ほぼ詰めるだけだったから荷造りは一時間程度で片付いた

 凛子さんの方もどうやら社長が面倒事をある程度片付けていたらしく凛子さんは俺の荷物の郵送の手配や、飛行機のチケットの準備に回ってくれていた。

「ったく…あの人はたまにこういう事をするから怒るにも怒れないのよ」

 俺が所属している事務所「Last moon」の社長神代浩司はいつも能天気ながらも仕事に対する熱量がすごく、手を抜くことはまずない。

 そんな社長の気遣いも頼りながら帰国の準備をようやく終わらすと朝の二時を回っていた。

 こういう時を朝と言うのは合っているか微妙だがそのへんはいいだろう。外は真っ暗で窓を開ければ涼しい風が入ってくる。



_____一年ぶりか…



 俺は四月上旬に行われた「全国絵画コンクール」の打ち上げ以来日本に帰っていない。

 高校入学突如、俺は芸術家になった。

 俺の師でもあるマフタン・エリオットに声を掛けられたのが三月の下旬高校が決まり入学する直前だった。一応学校側には留学という理由で欠席になっているが、高校には面接以来一度も行ってはいない。

 一度も着たことが無い制服には少しホコリを被っていて、だが、ホコリを落とせば新品も同然だった。

 _____そんな制服を着ることはもう無いと思っていたのにな。

その小汚い制服を見るなり不敵な笑みが浮かんだ。俺は正直エリオットに弟子入りした直後から高校は中退しようと思っていた。

 別に勉強がきらいなわけではない。かと言って行きたくない訳でもない。ただ、行く意味がないと思ったんだ。

 ただひたすらに教えられることを自分の知識に取り入れ知恵を増やす。言ってみれば社会に出る前の準備運動のようなものだ。

 当然これは俺のただの偏見だが俺はそう思う。時間の無駄。ただそれだけでしかない。

 だが、俺は中退しようとしたとき、一人の女性から待ったがかかった。

 凛子さんだ。

 始めは真面目な凛子さんの事だから人間の常識だとか言って辞めさせないと言うと思っていた。

 だが、凛子さんからは予想外の言葉が出てきた。

「私は自分の存在意義を君が大きな重荷を背負ったのを、後ろから押していく存在だと思っています。恥ずかしながら私も一時期は学校なんて行くだけ無駄だと思って何日か不登校になっていたこともありました。」

「ですが、一人で冷静になってからわかったんです。迷っても、答えを出さなくていい。。だけど、辞めて自由な時間を作ってそれが無駄になったらそれこそ時間の無駄だと思ったんです。それなら学校に行きながらでも他のことを考えてればいいんですよ。常識なんて所詮人間が作った逃げ道でしかないんですから」

 そう言われて、理解した。別にここで止めても意味がない。仮にこの仕事が出来なくてもどこかに保険をかけとけばいいと解釈できたんだ。

 そういう理由で高校は辞めなかったが勿論単位は取得できず、進級できず、今はピカピカの一年生も同然である。

 正直複雑な心境だ。

 しかし、凛子さんが仕事の補佐の礼文を社長に送ったあと、社長から俺宛に日本帰国に伴い学業復帰という指示もくだされた。

 社長曰く、出れるうちに出といたほうがいいと思いますよ。

仕事はこっちで調節をしますから頑張ってください。だそうだ。

 だから、今回は学校に行くことも帰国の理由の一つとなっていた。

 そんなことを考えながらぼっーとしていると、どうやら出発の時間らしく凛子さんの声が聞こえてきた。

_____搭乗後。隣に座る凛子さんの様子がおかしい。

 タブレットにかなり重圧的でレーザビームな視線を送り、タブレットの操作を行っていた。

 俺はかなり不自然に思い、凛子さんに声をかけた。

「凛子さん?」

「ひぇっ?」

 …。凛子さんが不自然に取り乱す。

「な、なんでしゃうか先生?」

「いや、なんかあったのはあなたでしょ?」

 凛子さんの額からたらたらと不自然なくらいに汗をかいていた。尋常じゃないくらいに。

「ちょっ、大丈夫ですか!凛子さん!?」

「す、すみません。先生…」

 そう言うと凛子さんはずっと見ていたタブレットの画面をこちらに向けてきた。

 その画面に映ったのは…

『緊急速報。有名芸術家柏木コウ(十六)日本に帰国。今日五時帰国予定』というSNSに書かれた文字。

「!!?」

 予想外の事態に何も言葉が発せられなかった。

「ほんっっとうに、申し訳ありません。こちらの不手際でどうやら先生の帰国がメディアにバレたみたいなんです。」

 凛子さんがそう言うと俺はその速報の下に書かれていた文章を目にした。

『マジか!』

『これは出待ち決定だな』

『年齢誤魔化したただのおっさんだろ』

『コウ先生の初顔出したのしみ!』

『どうせブスだろ』

 など様々な意見がかわされていた。

「…」

 まだ、現実を受け入れられない俺に、この事件の発端を見つけた凛子さんが詳細を説明する。

「どうやら私が飛行機のチケットの手配をしていたときにどうやら店の店員が先生のファンだったらしく、私はメディアなどによく顔出しなどをしているので私が行くなら先生も行くと察したようでSNSに拡散してしまったようです」

 凛子さんは俺がメディアに顔を出さないため代わりに凛子さんが質問を受けることが多いためかなりの人に顔バレをしていると思う。

「はぁ、そ、そうですか」

 動揺を隠しきれない俺は少し棒読みで反応した。

「本当にすみませんでした。すべて私の不注意です。全部罰は被るので…」

「いや、俺のせいですよ」 

凛子さんの言葉を遮り言った。

「え?」

 凛子さんが顔を上げる。

「どうせ凛子さんの事だから睡眠時間削ってまで仕事して寝てないんでしょ?だからこういうミスも起きた。だけどその睡眠時間を削らせたのは俺のせいだしこの事態を招いたのは俺の責任です」

 それはそうだ。俺の仕事の管理で凛子さんは睡眠を削っていた。それで仕事を失敗しようと全責任は俺にある。

「図々しいですが、この事態を修復できそうなプランを教えてください」

 凛子さんはさっきのような普段から出さない弱気な表情から頼れる凛子さんの表情へと戻っていった。

「わかりました。私の知能をフル回転させて無事日本につけるよう全身全霊やらせてもらいます。

 日本帰国が大変なことになりました。

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