後話
部屋は各個人に割り振られており、部屋の内装はどの部屋も統一されていて且つ、どこも細かい装飾が施されていた。又、調度品は高級な品と一目で判る位に煌びやかな品で、聞くとこの城にいるドワーフの職人が制作した品の中でも良いものが使われている部屋に案内されたようだ。
自分達は部屋に案内された後、勇人の部屋に集まり現状について話し合う事にした。
「はぁ~、気持ちいいねぇ~。」
窓を開けると、心地よい風が吹いてきて皆の心を長閑な気持ちにしてくれた。
眼下に広がる風景は、幾つか開けた空間があるものの、森林が地平線の彼方まで続いており、この地が豊かな自然に溢れている事が窺える。
又、自分達がいる城は岩壁を削り造ったらしく、城の左右には岩壁が続いていた。この光景を見て今までに窓が見当たらなかったことに納得がいった。
「さて、そろそろ話し合いをしようか。先ずは改めて自己紹介から、僕は剣崎勇人、21歳大学生、趣味は体を動かすことで、一応、陸上十種競技の高校記録を持ってます。」
勇人の柔らかな印象からは想像できない経歴を聴き、自分以外の人がビックリしている内に自分の自己紹介をしてしまう。
「自分は、更良木綱紀、21歳大学生、勇人とは幼馴染で、趣味は読書、漫画から小説といった様々なジャンルを読んでます。最近読んでいるのは推理系小説かな。」
皆は自分の紹介を聴き我に返ると、自己紹介に入る。
「俺の名は、鎧楯剛、28歳プロレスラー、趣味は筋トレ、所属しているプロレス団体はまだ小さくこれから俺がどんどん大きくしていく予定だったが……、だが身体の頑丈さには自信があるぜ。」
「私は、清水空、26歳OL、趣味というか家の近くに空手の道場があってそこに週1で通っているから、運動は苦手ではないわね。」
「僕は、矢矧虹、15歳中学生、趣味はゲームやラノベかな。だけど、運動もそれほど苦手じゃないよ。」
自己紹介が終わり、この異世界について語り合いが始まる。
「ーー異世界か~、どんな所なのかな~。楽しみだなぁ♪異世界冒険、モンスターとかもいるのかな? えぃ。」
虹が開いた窓から、弓を引く様な動作をしながら、楽しげに声を出していた。どうやら、魔術ができないか試しているらしい。
だが、すぐには扱える代物ではないらしく、全て不発に終わっていた。
「そうだね、魔族の件が片付いたら、ゆっくり、この世界を見て回りたいね。」
「あぁ、魔族の奴等がどれだけ強いか楽しみだ。」
勇人が魔族を倒した後の事について話出すと、剛さんがにやりと笑みを浮かべ、魔族との闘いに思いを馳せていた。
「……ず、ずいぶん好戦的なんですね。」
「あぁ、昔っから闘うってなると血が滾ってしかたがない。」
空さんの問いにたいし、フン。と剛さんが力瘤を胸の前に作り、ニカッと白い歯を見せ笑う。
「それにしても、何で自分は“巻き込まれた者”なんだ?」
そう、呟いた自分に、いつの間にか窓から戻ってきた虹が声をかけてきた。どうやら魔術を使うことは諦めたようだ。
「そう、そう、羨ましいですよ、綱紀さん。ラノベとかだと、大抵巻き込まれた人って勇者達よりもチートな力を持ってるんですよ。そのチート使って異世界無双していく、いいなぁ~。」
「そうか?でも、能力の鑑定結果を見ると皆の方が良い能力そうに見えるけど。まぁ、これはイントリッグさんに聞いてみないと何とも言えないかな。どんな魔術がこの世界にあるのか全く知らないし。」
「それに、“思考実験”の特性って何なのかな?綱紀はこういうの詳しかったっけ?」
「……思考実験か、有名なやつだと、ニュートンの万有引力かな。リンゴが木から落ちる様子を見て万有引力を発見したと云われているよね。これは詳しく説明すると、夜、月を眺めていた時リンゴが落ち、ニュートンはリンゴは落ちてきたが、月は落ちてこない。その違いを考え、頭の中でトライ&エラーを繰り返してたどり着いた力に万有引力と名付けた。この頭の中で原理や法則性の可能性の模索等を思考実験って呼ぶかな。」
勇人から声が掛かり、長々と説明したが、虹は羨ましがり自分がチートで異世界無双する姿を思い浮かべており、話を聞いていなかった。その姿に、「イヤイヤ皆の方がチートそうだよ。」と冷静に能力を比べる。
それから、各個人の魔術の話になると話の中心が勇人から虹に移る。あれやこれやと、どんな魔術があるかとか、こんな魔術があったらと話出す。
そうはいっても勇人は会話の間を観ながらスムーズになるように相槌をしていたり、周りにも意見を聞いたりバランスを執っていた。
「ーーこうして見ると能力のバランスとれているよね。前衛、後衛、攻撃、守備、回復、似たような能力が重ならなかったし。
それと、綱紀さんの『生成』ってどんなチートなのかな。」
「だからチートじゃないって。」と返す自分を後目に会話を続ける勇人と虹。
「ん~そうだね、魔力属性に属する様々な物を生成するんじゃないかな。ほら、鉱石とか水とかさ。」
「ーー魔術っていえばイントリッグさんの『土創製』すごかったよね。目の前で粘土細工みたいにグニグニとテーブルやティーカップなんかを創っていたのは面白かったよね。」
「でも、王様の筋肉もすごかったよね。雰囲気も相まってすごく強そうだった。」
「あの雰囲気は、実際かなりヤルと思うぜ。プロレスラー基準だが、かなりの修羅場を潜り抜けないとあの凄味は出せねえな。」
指示だけ出しているような王様には絶対無理と剛さんが感想を述べる。
「だから、魔族に対して強気なんじゃないかな?自分が強いって思っているからこそ屈したくないのかもしれないね。」
「結局、僕らが強くなれば魔族には勝てるってことなのかな?」
「でも、魔族の軍を倒しても、その後はどうしよう。帰還するための文献は魔族の国にあるんでしょ。まさか魔族全部滅ぼすなんて無理だし、物理的にも、人情的にもね。」
・・・話し合いは続いていき、漸くまとまると、
「ーーじゃあ、取り敢えずの方針としては、鍛えてもらいつつこの国に協力するってことでいいかな。」
と勇人が締め括り脱線しまくった話し合いは終わった。当初は若干の焦りや不安を隠しきれなかった女性も、風に当たりながら話を聞いていたお陰かだいぶ余裕のある落ち着いた雰囲気になっていた。
まあ、勇人の功績が大きいと思うが。
トントンとドアがノックされ、
「皆様、お食事のご用意ができました。食堂にご案内致します。」
……食堂に着くと王が既に席について待っていた、傍らには侍女や、鎧を着た兵士がずらりと並んでいた。
「よくぞ参られた、勇者達よ。先ずは改めて自己紹介を、ワシはこの国の王 ヴォロスだ。
勇者達の意見はコヤツから詳しく聞いておる。」
王の言葉を受け、側に控えていたイントリッグさんが一歩前に出て一礼する。
「先ずは、我々の提案に協力してくれる事に、最大の感謝を。こうして直接話をしたくて、食事の席に招いたのだ。」
「えぇ。その事ですが、協力するにあたり条件が幾つかあります。イントリッグさんにも話しましたが、僕達は戦争とは無関係な生活をしていました。なので、いきなり戦場に放り込まれても、戦えません。暫くは此処に留まり、この世界を生き抜く為の力を身に付けます。その指導とこの世界の一般常識を教えて欲しいのです。」
自分達を代表して勇人が王様と話す。その間に料理が次々と並べられていく、
「それは勿論、此方としても願ってもないことだ。此方が其方の世界から喚びだしたのだから、最大限の支援を約束する。奴等はとても残虐で自分達の事しか考えておらんからな。ある程度余裕を持って強くなっておくことに異論はない。
……それに、戦争に参加しなくても勇者が此方の陣営にいるだけで牽制になるからな。」
「前勇者の残した資料も御座いますので、そちらの世界との差異などもある程度解っております。なので、支援に関しては御安心下さい。」
とイントリッグさんが言葉を付け加える。
「……さて、話はこれくらいにして料理をたのしんでくれ。」
王の言葉を受けテーブルの料理を見ると、色彩豊かな料理が金や銀の紋様が輝く器に盛られており、とても豪勢な雰囲気を醸し出していた。
「どうだ、凄いだろう。この器はな、ドワーフ族の職人が創った物なんだが、ドワーフ族は力も強いがそれ以上に繊細な作業が得意でな、こういった皿や壺などの調度品、更に武器、防具等、物作りに情熱を燃やす者が多いのだ。」
「食材は猪の肉と木ノ実や茸を中心に使い、野菜はこの辺りでは貴重な為、量は少なめになっております。」
王はにこやかに器の説明をし、それに続きイントリッグさんが料理の説明をしていく。
……………
………
……
食事も終わり、城の中を案内され、自由な時間になると、皆が思い思いの時を過ごす、
勇人と空さんは部屋でゆっくり過ごし、剛さんは部屋で筋トレをしていた。虹はさすがに疲れたのか既に寝ていた。
そして自分は、少し興味を持った研究室に来ていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うわっ、どうしたの?凄い隈だよ。」
翌朝、ちょうど部屋を出たばかりの勇人に出会う。
「あぁ、昨日研究室に寄って話し込んじゃってな。これから風呂なんだわ。……いや~、こっちの世界は興味深いな。物理現象が似ているけど微妙に違う。」
「……えっ!?朝まで話していたの!?」
「あぁ、とはいっても、ソニアの説明を聞いてばかりだったが。実に有意義な時間だった。ふぁ~。」
大きな欠伸をしながら勇人と別れ浴場へ向かう。
「……おっと、忘れるところだった、朝食の後すぐ訓練始めるってさ。」
別れ間際に、忘れそうになったソニアからの伝言を伝え、今度こそ浴場へ向かう。
………………
…………
……
朝食も終わり、城の外の広範囲に渡り木々が伐採された、開けた場所に皆が集められ、魔術の訓練が始まった。
「先ず皆様には、自分自身に宿る魔力を感じ取ってもらいます。皆様の前には鑑定で判明した各属性の魔石を用意しました。この魔石に触れながら強くイメージして下さい。魔術はイメージが大事ですから。」
イントリッグさんに説明をしてもらい、魔石を受け取り微風が目の前を通るイメージをする。すると、ゴゥッ、隣にいた勇人の方から凄まじい音が聞こえてきた。
隣に視線を向けると、勇人の前の地面が少し焼け焦げていた。その時勇人は少々ビックリした顔をしていた。その様子を見て、
「……ふむ、ユウト様、コウキ様は既に魔力を感じ取る事が出来ている様ですね。魔石は魔術を使うサポートとして用意致しましたが、この様子なら直ぐにでも、魔石無しで魔術を扱えるようになりそうですね。」
イントリッグさんが冷静に分析している所に勇人が声をかける。
「……あの、イントリッグさん。イメージよりも大分強力な炎が出たんですけど。」
勇人の質問を受けイントリッグさんは、
「今のユウト様の炎はコウキ様の風の魔術の影響を受け威力が増したのです。
この後の座学でも教えますが、魔術は互いに影響し合い威力を増減させます。但し、同じ魔術を使ってもタイミングが違えば増減が起こらない組み合わせもあります。」
「今の魔術はユウト様の炎にコウキ様の風がタイミング良く合わさり瞬間的に炎が強くなったのです。この威力が強くなるタイプの組み合わせでは、魔術の効果時間が短くなるのが特徴で、風の魔術がなければもう少し炎は長続きしたでしょう。」
「戦場では、お互いの軍の魔術の影響を考えた、駆け引きもございますので、先ずは、モンスターとの実戦で感覚をつかんでからですね。」
これは上級編ですからまだまだ先のことですが。とイントリッグさんは付け加え特訓を続けていく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
特訓開始から数日が経ち、魔術の扱いが上達し、モンスターを狩りに森の奥地へ遠征を何回か終えて、戦場への出発が数日後に控えていた。
「……最近、らしくないよね。」
夜、城付近の森で微風を発生させ気分転換と魔力制御をしていると、勇人が声を掛けてきた。
「……勇人、……らしくないって何が?」
「いつもだったらもっと慎重に行動するのになって思って。」
流石に異世界召喚は興奮するよね。と勇人の何気無い一言に、自分の思考がギュルンと凄まじい勢いで回り始めるのを感じた。
「悪ぃ、ちょっと研究室に寄っていくから、朝の訓練遅れるかも。」
「!?ーーまさか、いやまてよ。」ブツブツと呟きながら、研究室に走って行く自分を勇人は安心したように見送った。
実は、この時、“思考実験”の特性が発揮され、微弱な魔力が発せられていた事に綱紀は生涯気付くことはなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、ついに決断の時が来た。
王座に座る王の前に呼び出された勇人達は、片膝をつき王の言葉を待つ。
「では、返事を聞こう。」
王が自信に満ち溢れた重厚な語り口で返答を促す。
「はいっ!必ずやこの国を救ってみせます!なぁ皆!」
「えぇ。」
「フン、任せな!」
「うんっ!」
「……」
ニヤリと、勇人達の返答に笑みを浮かべる王に、後ろから声が掛かる。
「お前の魔の手からな!」
ジュウゥゥゥッ!!!
ピトッとヴォロスに空さんの『浄化』の術式を詰め込んだ聖魔石を押し当てる。すると、
「ぎぃやぁあああぁぁぁぁっっ!!!」
ヴォロスが悲鳴を挙げ身体からドス黒い煙を上げる。そのドス黒い煙は次第に人型をとっていき、バシッと後ろにいた自分を吹き飛ばす。
「……やはりな。どうやら憑き物系みたいだな。」
人型の煙がギラッと自分達を睨み付けてから、王の身体を包み込むと途端に王からドス黒い魔力が溢れ出てくる。
「!?き、貴様、一体何時の間に!?!?」
「はっ!化けの皮が剥がれてるぜ。お前は勇者召喚を甘くみすぎたんだよ。」
「なんだとっ!?」
いきなり後ろに現れた自分に混乱するヴォロスに対し、臨戦態勢をとりながら適当な距離まで下がり、話し始める。
「お前は思考誘導系の魔術が出来るだろう。その魔術を使い、王を操り魔族の国を疲弊させ、更なる私腹を肥やそうとしたようだが勇者召喚に自分の魔力を使わなかったのは失敗だったな。
そもそも、勇人召喚の儀式とは、召喚者の魔力を使い、異なる世界同士を繋ぎ、勇者の資質を持つ者達から、召喚者の強い思いに適した者達を連れてくる儀式である事が解った。」
儀式の全てを解明出来てはいないが、8割方解明することができ、その結果解った事を話す。
「ここからは推測だが、その召喚者が操られていたりすると、その状態を解決する存在を召喚に巻き込む。この事から世界の意志のような存在があると仮定し、その意志が召喚の儀式に影響を与えているのだろう。
つまり、お前は、勇者召喚を利用しようとしたが、自分にとって脅威となる存在を召喚したって事だ。」
暫く話していると、怒りを鎮め冷静になってきたのか、少々余裕が出てきたヴォロスは、ゆったりとした口調で話しかけてきた。
「……フゥー、だが、何故我の正体に気付いた?勇者達は掛かりづらかったが思考誘導はしっかりと効いていたはずだ。それに何故貴様が二人いる?」
ヴォロスの問いにしっかりと答えていく。
「そもそも、この城と付近の村の貧富の差が大きすぎだ。お前が私腹を肥やしているのが一目瞭然だ。
自分達を監視をしていたようだが、このDG人形を使い、近隣の村を見に行った訳だ。」
そう言うと自分は隣にある自分と瓜二つに造られた人形と片を組む。
「この人形は、二つで一つの魔石、双魔石を核に使っていて、魔力を同期させ、もう一つの魔石を持つ者と感覚を共有し、操る事が出来る。」
(まあ、感覚を共有する為、ダメージまで操縦者が受けたり、視界は共有しなかったりと、操縦はかなり難しいという欠点があるが、これは言わなくても良いかな。)
「この考えに至ったのは自分の“思考実験”の特性が勇人の何気無い一言でその真価を発揮したからだ。それまでは完全に思考は誘導されてたよ。
気付いたら一気に誘導は解けていったよ。そこからは、風魔術による盗聴を警戒して重要な話し合いは筆談で行った訳だ。」
そう言って、日本語で書かれた紙を取りだし、ヴォロスに向かってヒラヒラと見せる。すると、
「……フハハハ、油断したな。こうなった以上、貴様らは赦さん。滅ビヨ『絶望の体躯』」
ヴォロスが叫び徐々に高められていたドス黒い魔力が妖しく光り、王の身体をボコボコと変形させ凶悪な形をとっていく。
どうやら奴の時間稼ぎの方が早く終わったようだ。
ドス黒い魔力で翼を作り襲いくるヴォロス、その姿はまるで悪魔のようであった。
ヴォロスのパワーは凄まじく、勇者の力で強化された勇人達をも凌駕していた。
だが空さんの『浄化光』が苦手らしく、空さんを避けるように攻撃をしてくるヴォロス。必然と後衛の虹と自分を守る剛さんのダメージが増える。
戦いに有利な魔術を持たない自分は、『生成』で大きなダイヤモンドの原石を造りだし、剛さんに魔力を流し込んで強化してもらい、障害物としてヴォロスの行く手を阻む。
「Guruuuu、GYAaaAaaoooooーー」
最早、言葉にならないような咆哮を発しながら、憤怒の激情にかられ、全身にドス黒い魔力を纏い突進してくる。
と、そこに、
「準~備~完~了~。」
隠れて作業をしていたソニアから声が掛かる。その瞬間、戦闘前にくっつけておいた、双魔石に繋がる蜘蛛糸を引っ張ると同時にダイヤモンドの原石を衝突させ、ヴォロスの態勢を崩す。
「ーー!?!!!?」
ブチッ、ヴォロスが背中に付いた糸に気付き断ち切るがもう遅い。双魔石とサーチスパイダーの糸に施された術式を用いて、自分が全魔力を注ぎ生成した純度の高い原石を加工した封魔石にヴォロスの魔力を馴染ませたのだ。
この時まで、時間を稼ぐ為にヤツの時間稼ぎを分かったうえで注意を引く目的で長々と話しをした甲斐があったというものだ。
用意されたバスケットボール大程の大きさの封魔石が光を放ち始め、ヴォロスが魔石に引寄せられていく。
「ガアァーーー。」
動きを止め、必死に吸い込まれまいと踏ん張るヴォロス。その隙だらけの姿に声をかける。
「終わりだ、ヴォロス。この魔石に封じられたなら、魔石を破壊しない限りお前はずっとその中だ。周りを鑑みない強欲な行動が自らの身を滅ぼすんだよ。」
自らを着飾る為に、他人を利用し操っていた強欲なヴォロスは、空さんの『浄化』によって王から引き剥がされると、一気に封魔石へと吸い込まれていく。
「ーーーーーーーー。」
ヴォロスが、憎々しい表情で自分を睨みながら封じられていく様を見届け、憔悴しきった王の手当てを、ヴォロスの思考誘導から解放されたキキュア達侍女に任せ、イントリッグさんに魔族との戦場へと案内してもらい、魔族軍に事情を説明し一時休戦を申し込む。
この時、ヴォロスの思考誘導から解放された人達と一悶着あったものの、魔族側とは問題なく話が進み、後日、勇人達勇者が魔族の歓待を受けに訪れる事が決まり、帰っていく魔族軍。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
実際に、魔族の国へ行ってみると、残虐性は全く感じられず、知性感じる、文化的発展を遂げた街だった。
詳しい話を聞くと、前回の勇者召喚の事件により、民衆の不満が明らかになり、奴隷制度が徐々に見直され、今では犯罪を犯した者が犯罪奴隷となり刑期が終わるまで、社会奉仕する制度になったそうだ。
つまり、奴隷制度が習慣化されていたた為に魔族は残虐である事に気付かなかっただけであったのだ。
勇者召喚により、過ちに気付かされた魔族の上層部は、徐々に改善策を浸透させ、意識改革を施していったのである。
結局、魔族は頭が良く、攻撃魔術と相性が良いだけで、ドワーフや鬼族と変わらない感性を持つ、ごくごく普通の人種だったのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ーーその後、勇人達は魔族が困っていた、瘴気に侵され魔族の国を暴れ回っていた邪竜を魔族軍と共に打ち倒し、【スレイスミス】と【マーベルック】の同盟に中立として協力し、和平を齎した。
邪竜戦で活躍したのは、ドワーフが作る装備だった。ドワーフの職人が作る装備は魔族の国でもかなり品質が良いらしく、【スレイスミス】は【マーベルック】と貿易を盛んにするようになった。
又、魔族の職人がドワーフの職人に弟子入りしたりと、最早、嘗ての諍いはなかったかのようである。
これは、元々魔族の国と接点が無く、奴隷だった時代から数百年経っていた為に、奴隷であった話が時と共に風化してしまってようだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ーーそして帰還の時が来た。
「綱紀、本当に残るの?」
「あぁ、こっちの世界の方が性に合うからな、……それに。」
此方の世界に残る決断をした自分を、心配そうに見る勇人に軽く笑みを見せ、隣にいる人物の手を握り答える。
「……もう、ヤボな事言わないの!」
幾多の冒険を経て恋人になった空さんにそう言われ、ハッとする勇人。
「……そっか。じゃあ、もう会えなくなるね。」
「……あぁ、だが心配するな。こっちで元気にやっていくさ。」
勇者でなかった自分は、身体の強化が少なく、邪竜討伐の時から、魔術研究の方面で勇人達に協力していた。
その時にソニアと絆を育み恋仲になったのだ。
結果、自分は此方の世界に骨を埋める覚悟を決め、こうして別れの挨拶をしていた。既に虹と剛さんとの別れの挨拶は済ませており、長年の付き合いだった勇人との別れは流石に、パッと済ませることが出来なかった。
………………
…………
……
「……じゃあ、元気で。」
長い沈黙の後、スッと拳を前に出し、
「……うん。」
勇人がその拳に合わせる。
………………
…………
……“フッ”
そうして勇人達は元の世界へ帰っていった。
「……良かったの?あれだけで?」
もっと話をしても良かったのに。とソニアが声をかける。
「……あぁ、十分だ。」
暫くの沈黙の後ソニアに短くそう返す。
更に沈黙を続けていると、ふよっとソニアが無言で腕を組んできた。だぼついた服の上からは気付かなかった豊満な胸に癒されながら暫くの間じっとしていた。
………………
…………
……
「……じゃっ、いくか。」
ーーその後自分とソニアは様々な魔術理論を構築し、色々な魔石を利用した一般の民でも扱いやすい魔道具を発明し、この世界に多大な貢献をするのだが、それはまだまだ先の話だ…………。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
いろいろと試しながら書いていたので文章が変だったりしたかもしれませんが、楽しんでもらえたのなら幸いです。