終わらぬ世界と神様に近き人類
たった一つの世界には三大の神様が居た。
全てを創める神様と。全てを終える神様と。全てを救う神様と。
創まり、終わり、救われる。神様たちがどれほどの時間それを繰り返したか知る術はない。けれど、いつからか神様たちはそれを止めてしまった。
「この世界はね。本来なら二回終わっていたんだ」
ノエンはすっかり青年の姿で石碑に背を預け、世界について語り始めた。
「だって人が突然死ななくなるなんて、おかしな話じゃないか」
あまりにもあっさりと世界の全てを否定され、セイドは思わず咳込んでしまった。
「おかしな話でも、実際に世界はこの有様だ」
「それを容認してることだっておかしいことなんだよ。本来あるべき世界の姿はね、人が否定することで一度終わって、次に創まる世界は全く別のものになるはずなんだ。もっと簡単にいうなら、人が死ぬことを否定した時点で世界は終わって、今度は人が死なない世界が創まる。そこには"人が死ぬことは当然だった"過去なんて存在しない、新たに創められた世界は前にあった世界とは別のもの言っても差し違えないからね」
セイドにしてみれば突拍子もない話だった。人が死ぬ死なないという次元ではない、世界そのものの終わりと創まり。
「お前は俺にそんな大層なことをしろっていうのか。俺にできることは精々人殺しくらいだというのに」
考えることを放棄して、不貞腐れたように吐き捨てた。
まるで子供のような態度を取ったセイドにノエンは軽く笑い、声も明るく変えて言う。
「いくら救世主でも、そんなことまでは望んでないよ。僕はただ、君の生命力と未来視を借りたいだけさ」
墓地という場所には到底相応しくない爽やかな声に、セイド再び咳込んだ。
「……お前、未来視のことを」
「知っているよ。君がかつて殺人鬼となった由来も。だから、君が救世主に選ばれた理由にも見当はつく」
「……なぁノエン。お前の目的には本当に俺が必要か? お前なら全部一人で終えられるんじゃないか?」
心の底からでた言葉だった。
「お前は、何なんだ?」
返事に期待はしなかった。青年が本当のことを言っても現実味を感じられるとは思えず、茶化して笑おうと二度問いただす気力はなかった。
ノエンは珍しく考えるように間をおいて、その姿を出会ったときの少年に変えて、答える。
「僕はこの世界で最も古い人間の一人。神様の意志を代行する者の集い・神意の主導者」
少年の姿に似合わないどこか小難しい言葉を並べ立て、一度息を吸う。
次いで出た言葉は極めて解り易く。同時に理解し難いという矛盾を孕んでいた。
「最も神様に近い人類だよ」