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三度目

「あなたたちのような異常者が消えればこの世界は永遠に正しく廻る」

 その掌から生み出した刃を拾い上げリゼスタは淡々と告げた。

「人の身なら私たちの誰でも殺せる。救う神には私が、死んでほしいって願ってあげる」

 簡単だねと踊り子はひらりと笑う。

 リゼスタと同じように黄金の刃を手にした命の民が魔法を唱えるように歌い、踊る。

 煌びやかで美しいそれは、今まさに願われる死とは正反対の、誕生を祝福するに相応しい風景だった。

「ほら、待ち望んだ世界再生でしょう? 終える神?」

 軽やかに煽るリゼスタをノエンは見なかった。

「もう消えてもいいよ? 救う神?」

 遊ぶように歌声に乗せる命の民にレイティは空を仰いだ。

 それに倣うようにセイドも空を仰ぎ、静かに告げる。

「俺を殺してくれよ」

「いいよ救世主」

 二つ返事で応じたリゼスタは優雅に刃を弄んでからその左胸に切っ先をあてがう……が、僅かな血を見たところで引っ張られるようにその手を引いた。

「ラート。ボクはそこまで望んじゃいないよ」

 リゼスタは刃の血を振り払ってからそれを反対の掌に押し付け、刃は掌に飲まれるように消えていった。

「うん。悪いねみんなビックリさせて。ボクの意識が弱いとこの子が身勝手するんだよ」

 それは命の民としてのリゼスタではない、創める神としてのリゼスタだった。

「君たちまでボクを裏切るとはちょっと予想が外れたね……ううん。何もかも壊れたかな」

「誰でもいいから、早く殺してくれないか」

 空から命の民に目を移したセイドは虚ろな目をして血の滲む左胸を叩いて見せた。

「残念だけど、君は死なない。レイティが君に預けたものは君を救世主に留めはしなかった……」

「まさか」 

 口を開いたノエンが勢いよくセイドを見やり、リゼスタはそれに頷いて応える。

「失った未来視は人ならざる力。犯した罪は正義。殺す力は救い。救世主は求められ、人を愛す故に救世主。それほどの愛は今のレイティにだってない」

「……愛してなんてない。俺は殺人鬼だよ。この世が続くっていうんなら後世語られる大悪党だ」

「愛してるよ。あなたは他のだれよりも、人が好きに違いないよ。そんなあなただから、私は頼ったの」

 虚ろなままの救世主を抱きしめて。レイティはリゼスタとノエンの思いも汲んで問う。

「ねぇ神様。本当はどうしたい?」


 答えを誰かが聞くより先に、世界は三度目の終わりを迎えた。

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