救う意志と祈り
終わらせないと。
私の失敗で壊してしまった世界を。
「助けるなんて。今更そんな優しいことはしてあげられない」
セイドに抱えられたまま、レイティが青い瞳を開く。
「ありがとう。きっと、あなたに預けてなかったら世界に壊されてしまってた」
「面倒な話は無しにしてくれ」
そっとレイティを腕から降ろして二人はノエンに向き合った。
「ごめんノエン。終える神の終末にはできない」
「お前に今更何ができる? 元より救う神だけでは何もできはしないのに、創めるチカラも無しで神意の信仰がある僕以上に世界を正しくできるのか?」
恨むような声と眼でノエンは語る。
「現状と同じように、歪にはできるだろう。だがそれが限界で、お前は何も救えやしない。どれだけ人類の願いを聞いたところで、すでに世界は神の手を離れ始めたんだろう」
恨みの中に悔いを混ぜて。
「もう二度とこんな世界を創めないために。神もすべて終えるのが正しい世界再生なんだ」
「終わらないことが正解に決まってる。ノエンだって散々終えて、気付いているはずでしょう!」
叫ぶ声はリゼスタだった。
すべての創まりを知っている踊り子はその衣装も肌も土で汚して、誰かが眠る大地を叩いていた。
「創める神だって、気付いていたはずだろう。また終わる世界を創っていることに」
「それでも、私たちは……」
途切れる創める神だった者の声を、救う神だった者が続ける。
「愛していたから。それが神様だったときに唯一私たちにあった心だから」
だから、彼らの願いを叶え続けた。
だから、彼らの世界を創り続けた。
なのに、彼らの世界を終わらせてきた。
「後のことは気にせんでいいぞ」
神様には至らずも、多くの人を救ってきた老医師が言った。
「要は、お前さんたちが作った今は儂らの願い通りになるんじゃろう?」
陸玖瀏はなにか閃いたように、その場には到底似合わない医師らしい笑みを浮かべていた。
「爺さん、ここは俺の出番だろうが」
神様だった者たちの成り行きを見ていたセイドが、どこか懐かしさらある不機嫌な表情で口を挟むと、レイティがそっと腕を上げて制す。
「その人にも、同じ意志はあるよ」
その言葉にセイドは喧嘩するように陸玖瀏と目配せした。
そして。レイティは同朋二人と、十字架を模す沈黙する神意たちに告げる。
「これは救う神に成り切れなかった私と、救う意志を持つ人類の我儘だけど。託してほしい」
両の手を合わせて、何かに祈る様に。




