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天使とヒーロー

 天使に出会ったのは世界が変わるより前の話だ。

 悪を倒す正義のヒーローに憧れる子供なんてどこにでも居たはずで、或いはどこにでも居るから誰でもよかったのかもしれない。

 家族も皆寝静まった深夜、不意に目を覚ますと薄白く光るような白さ際立つ少女がベッドの脇に立っていた。夢うつつで意識がはっきりとしなかったのか心霊現象を前にしても身体が飛び上がることも声を上げることもなかった。後になって思えばその冷静さも天使の仕業だったのかもしれない。

「これから私は間違うと思う。でも、あなたたちが望むなら私はそうしなくちゃいけない。本当はみんな救ってあげたいのに、私にはわからない。だから、神様でなくても救世主ヒーローになれるはずのあなたに頼らせて……」

 天使のような少女は涙を浮かべながら手を結んだ。手の平に暖かさを感じながら再び眠りに落ちていた。


 最初に止めた犯罪は万引きだった。

 レジ待ちをしていると寝起きに夢を思い出すような感覚に陥って、その夢が今まさに目の前の光景と一致した。正夢やデジャヴとはこういうものなのかと思いつつ周囲を見渡すと人の動きがぼやけて見えた。残像が見えているようなそれは、けれど残像を引く人物の先頭ではなく中心がはっきりとしている。

 そして、ぼやけて映る男が商品を手にそのまま出口へ向かっていった。それを捕えようと慌てて駆け寄ると開いていない自動ドアにぶつかり、その直後すでに逃げたはずの男が僕に衝突し商品を落とした。

 防犯カメラの映像はどう見ても僕が万引き犯で、男の方がヒーローだった。

 どれだけ説明しても解ってもらうことはできなくて、後に未来視と気付くそのチカラが最初に僕に与えたのは万引き犯という前科だった。


 前科持ちになって数日後、見えてしまう未来に悩む僕のもとへ再び天使が訪れた。以前と同じように夜遅く薄白く光る姿の天使はまた泣いていた。

「ごめんね。失敗させて。それの使い方、ちゃんと教えるね」

 物申す暇もなく、朝になっていた。


 思い出した夢では僕が人を殺していた。

 見えもしない天使の声が聞こえる。

「あなたを救う側にしてしまうのは私の弱さだから、いつか絶対にあなたも救ってみせるから」

 身体が夢に見た光景をなぞる様に僕の意志に反して動いていった。

「だって、この人は幸せを奪うから……」

 僕の手を血に染めて、僕から出た天使は泣いて見せた。

「ぅ……ああああああ!」

 天使の消えた後、悪人になるはずだった亡骸を見て僕は一生分叫んだ。

 殺人鬼ヒーローになるために。

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