神秘と死屍累々
一度きりの殺人権。唯一無二の救世主。
世界に定められた規則など知らない狂人は、救われない死を与え笑う。
いつもと同じように人を解体していた。いつもと同じように生が死に変わった。
私と同じ神秘はどこにもない。私が本当に神秘であって、あの男を含めた他の人間は死が当然と見せつけるように息絶えていく。
腹を裂かれ手足が千切られても元に戻ってしまった私と同じ手順で、けれど彼等は死んでいく。
ある者は腹を穿たれた時点で。ある者は心臓を見た時点で。ある者は手が千切れた時点で。
曖昧な境界の中で、誰もが神秘の再生を有しているのにも関わらず。
そうして幾人もの神秘無き人だった肉塊を重ね、根城としていた廃墟の半分ほどを埋めたころになってようやく私は神秘と出会った。
亡骸が血で道を描き、廃墟に繋がろうというときだった。月の光が廃墟の前に立つ少年を照らした。
「あなたが救世主……?」
廃墟の中に積み重なった肉塊と私を見比べながら少年は言った。
死んでいった何人かが口にした言葉だったがその意図はわからないままだった。ただ、その言葉の意味なんてどうでもよくて。
私はその少年に神秘があるのかを知りたいだけだった。
そして。
「……違った」
言ったのは少年のほうだった。
「見つけた」
元通りに再生した身体で私から離れていく少年の手を握っていた。
「君みたいな神秘を私は探してた」
嬉々として声を震わせる私に、少年は暗い瞳で私を見た。
私が握る手を振りほどいて、今度は少年が私の両肩を握る。
「一緒に死のうって言ったのに、彼女だけ……僕はもう救世主に頼るしかないんだよ! それなのに!」
再生したばかりの両手がもう一度千切れんばかりに私の肩を揺らした。
その悲痛な叫びに絶望が含まれることだけは察しができたけれど、私にとっては死に至らない少年に対する興味の方がよほど優先するべきことだった。
「君はどうして死なないの?」
「…………」
暗く淀んだ少年の瞳がわりやすく驚きを表現し、その場にへたり込んだ。
「あなたみたいな人がまだいたんだ……ほんと、優しくないなぁ」
星の光る夜空を仰いで微かに笑う。
「僕が死なない理由さ、人間、一人しか殺せないからだよ」
私のしてきた行いを否定しているような言葉。同時に神秘さえも否定しようとするそれに私は反射的に口を開いた。
「だったら、その死体の山はどう説明するの?」