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神意と世界史

 ある日を境に変わった世界。その変化を人類は本能で察し、ある者は喜びある者は泣いた。

 ならば、その変化を察することのできなかった者とはその瞬間何を思っていたのだろう。


「確かに、儂も相当狂っておるのかもしれんな」

 来栖につられ小さく笑う陸玖瀏は呆れたように言う。

「もう、いよいよ世界は終わる。彼等は儂のようなただの長生きとは違う」

「私は今の世界で十分満足していますけどね」

「ボクだって面倒事はイヤだから、終えようなんて気はないよ」

 来栖の言葉にそう応じた者は、いつの間にか来栖と並び立っていた。男女どちらとも思える声の主は極めて女性的なシルエットで、小麦色の肌を魅せつけるように露出の多い服には華やかな装飾があり舞台衣装のようだった。

 反射的にナイフを振るう来栖を踊るように躱すその姿は恰好も相まって踊り子の舞に見えた。

「リゼスタか」

 殺意を滾らせ目を輝かせる来栖を踊るようにあしらう姿を見つつ陸玖瀏は呟いた。

「久しいね千賀。奥さん一途だった千賀にしては、随分と元気のいい子を見初めたね」

「馬鹿を言うな。来栖はただの助手じゃよ」

 狂気を前に笑いながら冗談を言うリゼスタに陸玖瀏は軽く言い返し、抱く情こそ違えど嬉々として踊る二人を目で追いながら声を落とす。

「……ノエンという奴がセイドを連れて行ったが、あれも神意(カムイ)なのじゃろう?」

「そ。ノエンちゃんはボクら神意のリーダー的な子だよ。一番神様に近いって意味ね」

 救世主も知らなかった世界の核心を、踊りながらに容易く述べた。

「ボクとしては千賀の蘇生が成功してくれた方が穏やかでよかったんだけど、仕方ないよね」

「わざわざ愚痴を言いに来たのか」

「ま。それもちょーっとあるけどさ。これから悪戯しに行くから、千賀にも手伝ってほしいわけね。丁度いいしこの子も連れてさ」

 この子と呼ばれた来栖はその言葉に狂気で応じる。

 わずか数ミリ届かないナイフを振った勢いのまま手放し、切っ先がリゼスタの腕に振れた。数滴の血が終幕の合図となった。

「私は楽しいことができるなら満足ですよ」

「へー。思ったほどイカれちゃってないんだ。いきなり襲ってくるから話しなんてできないと思ってたよ」

 切れた肌を指先で触れながら言う。

「やっぱり、伊達に世界跨ぎってわけじゃないね」

「何です?」

「そっか。自覚症状なしってやつね?」

 来栖の目を覗きこみ、陸玖瀏を見やるリゼスタは呆けて来栖を見るその表情に「あ」と声を漏らす。

「ひょっとして千賀、この子が世界跨ぎなの知らずに連れてた?」

「見てわかるものでもないじゃろ」

 誤魔化す陸玖瀏にリゼスタは自分の目を指さした。

「ボクのは特別品なの。ノエンちゃん曰く、"開闢(かいびゃく)()"ってやつね。人でも物でも見たものはじまりがわかる」

「それで、世界跨ぎとは?」

「文字通り、二つの世界を跨いで生きてる奴。世界が変わっても生きてる奴じゃよ」

 リゼスタの特別性より自身のことが気になる来栖が先を促すと、陸玖瀏が答えた。

 陸玖瀏にとっては既に知っている世界跨ぎの存在より、初めて聞かされた特別な眼の方が興味深かった。

「世界が変わった?」

「…………」

 リゼスタの眼を言及しようとした陸玖瀏は沈黙した。

 大してリゼスタは陸玖瀏を見て楽しそうに言う。

「君、来栖……何だっけ?」

来栖朱爛(くるすしゅらん)

「シュランちゃん。千賀もね、世界の変化に気づけなかったんだよ」

 陸玖瀏には返す言葉もなかった。

「まだ時間もあるし、ほかならぬ神意のボク自ら語っちゃおう」


 神様に近い彼等は誰よりも世界を知っている。

 最古の人類は、今となっては神様以上に世界を知る者かもしれない。

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