旦那が死んだ理由。
久々に書いてみました。
私の旦那は7年前に亡くなりました
82歳でした
7年前の旦那のあの少年のような笑顔を忘れることはありません
話は旦那の少年時代にさかのぼります
旦那は小さい頃、二段ベッドというものに憧れていました
その後、弟達の親への懇願もあり大工だった父親が仕事で使っていた余った木を使い念願の二段ベッドを作成
旦那は完成するまでの1時間、目を輝かせてずっと見守っていたようです
二段ベッドの上段で寝れることを楽しみにしていた旦那...
しかし長男だった旦那は頑固で厳しい父親から「我慢しなさい」と言われ弟達に上段を譲らざるを得なかったのです
結局次男と三男、そして父親は二段ベッドの上で寝て、長男だった旦那と控えめで優しい母親は下段で寝ることになりました
その日、旦那は寝るとき悲しくて声を押し殺して泣いていたようです
そして次の日の夜
『今日こそは2段目で寝たい...』
旦那のその願いもむなしく、二段目行きのはしごを笑顔で真っ先に駆け上がる次男と三男
父も昨日と同じく当たり前のようにはしごを登ります
結局旦那はその日も母親と下段で寝ることになりました
余っていた古い木、数カ所しか止めていないネジ...
いい加減な父親が作った二段ベッドは男3人の重さに耐えられるわけがありませんでした
真っ暗な部屋の中、上段で父が寝返りをうつ度に聞こえるミシミシという嫌な音...
そして次の瞬間
バキッ
今までとは明らかに違う音が聞こえました
「危ない!」
優しい母親の叫ぶ声
覚悟を決め目を思いっきりつぶる下段の旦那
二段目と男3人が落下
旦那含め上段の男3人は軽症
ですが下敷きとなった母親が病院に運ばれた後、死亡しました
落下した際、母親は旦那に覆いかぶさった状態だったのです
母親は愛する子どもを守ったのです
7年前の8月上旬。
旦那からこの話を聞いたのは124回目
「あの時の出来事は65年経った今でも鮮明に覚えておる。だけど1度でいいからワシも二段ベッドの上に寝てみたいのぉ...」
毎回涙を流し最後にそう言う旦那
今度こそ旦那の夢を叶えてあげたい
私はついに決心し、有名通販番組チャパネットたかたで9800円の二段ベッドを電話で注文しました
今の時代は素晴らしくわずか3日でお兄さんが品物を届けに来てくれました
ですが私が思ってるのと違いました
私が頼んだのは二段ベッド
お兄さんが届けてくれたのはコンパクトに何かが入っている段ボール...
もしかして間違った品物が届けられてるのかと思い確認しました
「あの、すいません。私二段ベッドを注文したのですがそれ間違ってませんか?」
お兄さんは「ん?」と私の顔を見つめた後
「いや、こちら二段ベッドで間違いないですよ。」
「いや、でも二段ベッドだったらもっと大きいはずじゃ、、、」
するとお兄さんが言いました
「お客様の方で組み立ててもらう形となります。」
...予想外でした
てっきり完成されてる二段ベッドが届くと思ってたのに
呆然とする私。するとお兄さん
「あのもしよければ私どもの方で組立てることもできますが」
それならよかった
「あーそれなら是非お願い致します!旦那があと1時間ぐらいで帰ってくると思うのでそれまでに...」
「追加料金をいただきますがよろしいでしょうか?」
「...。」
年金前。そんなお金などなく丁重にお断りしました
この日は真夏。
クーラーなどつけるお金も無く窓を開け自分の力で組立てることになりました
旦那が帰ってくるまで残り1時間
素敵なサプライズにしたい...
暑い部屋の中、不慣れなヨボヨボの手で説明書を老眼鏡で読みながら必死に組立てること約1時間経ち
予想通り旦那が将棋から帰宅
まだ途中でしたが一通りは完成してたので手を止めました
慌てて旦那の汗臭い2年干していない布団を上に敷きに行く
「ただいm...」
旦那は部屋に入り完成されたベッドを見た瞬間、口を開け呆然
私の顔を見つめる旦那
そして笑顔でうなずく私
旦那は足が悪いのを忘れダッシュではしごを登って行きました
夢だった二段ベッドの上にたどり着くと少年に戻ったように満面の笑みで無邪気にぴょんぴょん飛ぶ旦那
「最高じゃ...最高じゃぁぁぁぁぁああ」
こんな嬉しそうな旦那の表情を見るのは育毛剤の効果が表れた一昨年以来
下から見守る私も自然と笑みがこぼれました
そんな幸せな時間が恐怖へと変わろうとしていたのです
次の8回目のジャンプをした瞬間
バキッ
不吉な音が部屋中に響き渡りました
「危ない!」
私は叫びました
空中にいた旦那はその音を聞いた瞬間、あの満面だった笑顔が一気に青ざめました
この音を旦那が聞いたのは今回で2度目
そう、少年時代に聞いたあの日の音と一緒でした
やはり最後までちゃんと組み立てるべきだったか...
音がなったところを避けようとしたのか旦那は左に着地しようとしました
その瞬間旦那の姿が消えました
左は窓が開いていたのです
地上5階
部屋にはスノコが折れ曲がった二段ベッド
窓から下をのぞけば脚が折れ曲がった旦那の姿
救急車に運ばれましたが旦那はまもなく死亡しました
最期にせめて二段ベッドの上で寝させてあげたかった
そしてちゃんと最後まで組み立てなかった自分に後悔しました
だけどあの状況を考えると仕方なかったのか...
あれから7年
現在もそのベッドは部屋に置いてあります
折れ曲がったすのこは息子に頼み新しいすのこに変えて直してもらいました
82年間、二段ベッドの上段で寝ることを夢見てた旦那
これからはこの大好きな場所で眠ってほしい
きれいに直したベッドの上段は旦那の場所
遺骨と将棋のコマ、そして育毛剤を置いています
私はあの日に学びました
最後まで諦めないこと
そして残りの人生周りの人々を幸せにすること...
現在、私は近所の公園で四葉のクローバーを探す活動をしています
その四葉のクローバーを配りたくさんの人が幸福になってほしい...
先日も公衆便所の前で泣いていた女子高生に見つけた四葉のクローバーを渡しました。幸せになってくれただろうか...
旦那のあの日見せてくれた笑顔を忘れることはありません
二段ベッドの上段、笑顔で眠ってくれてるといいな
大好きだったお母さんと一緒に...
読んでいただいてありがとうございました。
よければ過去の作品も読んでみてください。