1話 Hello World
いよいよ異世界!プロローグ的なやつ
仮免龍神がセラの元へ向かうべく下層へ消えると、ブレスの焼け跡が残る練習場には4柱の神が残った。
「行ったか」
「102年と7ヶ月……」
「なんだ数えてたのかトート」
ぽつりと呟いた言葉に対しての思わぬ返答に少し驚く龍神。
「ま、あの空間は時間の流れが違うからな、下界だと10年ってところか?」
「精神と時のh……「あ!」」
何か言おうとしていたトートの声は龍神が突然上げた声に遮られた。
「どうしたんだい?」
思わず聞き返すエルマ。
「あいつに俺の装備使って良いよって言うの忘れてた」
「……馬鹿」
呆れたと言わんばかりのジト目で龍神を見るトート。
「はぁ……下界の眷属に知らせておくか。場所知らせておけばあいつなら大丈夫だよな?」
「ん……時間氷結の……解除方法は……教えてある」
なら良いか、と一人納得する龍神。そのせいで龍人族が軽く混乱状態になるだが、それはまた別の話である。
ーー転生の間ーー
「うぅん……ここは……?」
ゆっくりと目を開けるとそこは、見たこともない真っ白な空間だった。
「確か俺は……車に跳ねられて……」
ブレーキの効きかない自転車で交差点に突入して車に跳ね飛ばされ、衝撃に驚く視界が対向車線から来たトラックで埋め尽くされたことまでは記憶している。
現代日本でその生に幕を下ろした男の魂は、何の因果か異世界へと弾き飛ばされたのであった。
まさかの2段構えかよ……と男が頭を抱えていると、突如空から古代ギリシャのような服装の金髪の女性が舞い降りてきた。
「我は女神セラ。迷える異界の魂よ、汝転生を望むか?」
転生。その2文字は、社会に馴染めず不登校であった男がファンタジー小説を読み漁り、日々憧れていた言葉であった。
「え?て、転生⁉︎マジかよ……是非お願いします!あ、何か特典とか貰えますかね⁉︎やっぱ貰うなら魔法チートだよなぁ……てかこの世界魔法あるのかな」
うぉぉ!!と喜びに震えながら勝手に話を進め出した男を暖かい微笑みで見つめる女神。しかしその内心は穏やかではなかった。
(異界との遮断が綻んで来たと思っていたらさっそく来ちゃったよ!魔神から送られてくる魂の整理に忙しいってのに……てかなんだよこいつ!!記憶持ったまま生まれ変われる時点で良いだろ!特典とかふざけたこと抜かしやがって。はぁ面倒くさい)
この女神は転生の役割を担っているが、滅多に仕事が入らないので普段は人神の手伝いをしている神の1柱なのであった。忙しい時に転生の間への侵入を感知し、作業を抜け出して来てみれば、こんなふざけたことを抜かす魂。不機嫌になるのも当然である。もう特典でもなんでもくれてやるからさっさと行ってくれと思うが、それを顔に出さずにニコニコと笑みを浮かべながら口を開く。
「この世界には魔法が存在します。汝がそれを望むなら、魔法の才を授けましょう」
「マジかよ!よっしゃあ!それで!それでお願いします!」
「……分かりました。こちらから特にお願いする事はありません。汝の新たなる生に幸多からんことを」
そう締めくくり、男を光に包んで下界に下ろす。やっと行ったかと軽く嘆息して作業に戻ろうとした時、上の方から何か聞こえて来た。
「………ぁぁぁぁああああああ!!!!」
それが声だと判明したその瞬間。ガシャーン!とガラスを叩きつけたような音と共に空間が割れて何かが飛び込んできた。
「きゃああ!え、何?今度はなんなのよぉ!」
突然の出来事に軽く混乱しながら、転がり込んできたモノを見ると、片膝立ちの姿勢だったソレが徐に立ち上がりこちらへ話しかけてきた。
「ふぅ、着地成功……底が見えない穴に飛び込んだ時に覚悟はしてたがやっぱり深かったな……ん?貴方がセラさん?」
どうやら私に用があるようだ。
「そ、そうですけど……」
「おお、良かった!修行が終わったので転生しに来ました。龍神から話は聞いてますよね?」
「修行?龍神……あっ」
その2つのワードで思い出し、事情を理解するセラ。あれは確か異界から龍神が帰ってきてすぐのこと。突然自分の元へ来たと思ったら、「後継者連れてきた。これから修行始める。それが終わったら、天龍の所に降ろしてくれ」と頼まれていたのだ。よく見れば身体から“龍気"が漂っているし、その事で間違い無いだろう。
「あのー」
「は、ひゃい!話は聞いてますよ!天龍族に転生させろと言われています。修行お疲れ様でした!それでは早速送りますね」
「天龍族か!お願いします!」
さっきの奴とは違って好印象な青年に気分を良くしながら快く送り出すセラ。光に包まれ彼の姿が消えると、天井に穴が開き、青年が着地した場所に焦げ跡の残る白い空間に静寂が訪れた。
「龍神かぁ……異界の遮断も綻んで来たし、これから大変そうだなぁ」
壊れた空間を直しながらそう他人事のように呟いていたが、ふと重要な事に気づき手を止めた。
「あれ、そういえば面倒だからって魔法の才上げちゃったけど不味くない?明らかに力を使いたがっていたし、暴れ出したりしたら……」
自分で世界の不安要素を生み出したことに冷や汗ダラダラのセラ。世界を乱したとして“龍気"に消し飛ばされるビジョンが一瞬頭を過ぎり、気絶しそうになるが、修行が終わったと笑うあの青年を思い出し、一縷の可能性を見いだす。
「……だ、大丈夫よ。あの子が未然に防ぐか対処してくれれば問い詰められても、いい練習になったでしょテヘペロ。で済むわ!……済むはずだわ、うん。私は悪くない、下界したあの子に試練を与えたんだわ!そう!世界の不安要素に対峙するという試練を!……仕事に戻ろう」
これ以上考えてもどうしようもない。やっちまったもんは仕方ねぇ。そう自己完結して空間の修復を終えた女神は、作業に戻るべく転移していったのであった。
悠然と流れる雲を突き抜けそびえる山々。夜空には無数の星が散りばめられ、ひときわ大きく感じる満月が煌々と照らすその山頂付近の村は、夜にも関わらず明かりを灯して騒然としていた。
ここは天龍の里。世界の空を見守る一族の里には、数百年ぶりのベビーブームが訪れていたのだ。
「今度はアイナが産気付いたって⁉︎」
「そうよ!これで村で5人目の赤ちゃんよ!アイナの妹も出産を控えているし、こんなの数百年ぶりだわ!」
「忙しいけど嬉しいわね!無事に産まれてくれるといいわ。オババ様も娘の初出産に立ち会うって凄い気合入っているし」
そう会話しながらパタパタと出産の準備に走り回る女衆。彼女らの視線は、今新しい命が産まれようとしている木造の平屋に向けられていた。
「ほれ!しっかりせんか!息を大きく吐いて!」
そう言って愛娘の手を握り励ます老婆。空色の髪には白髪が混じり、腕も顔もシワシワだがその目には力強い光が宿っている。
「オババ様!オババ様!村長!!」
苦しそうに呻く娘を励ましていると、突如一人の女性が老婆の元へ慌ただしく声を掛けてきた。
「なんじゃ!この大事な時に!お主……巫女が出産の祝福でもしてくれるのかぇ?」
「違います!いや、違くなくてちゃんとお祝いはしますけど……それより!神託です!神託が下されたのです!!」
「……なんじゃと?」
ここ数百年ぶりに下される神託に家の周りにいた人々は騒然とする。
「それで、神託の内容は?お主が慌てるという事はよほどの事じゃ。何処かに大きな歪みでも現れたのか?」
娘の出産に浮かれながらも、神託の内容を把握しようと目を細める老婆。妊婦と赤子を取り出そうと必死の助産婦を除く者たちが神託を聞こうと耳を傾ける。
「いや、歪みが現れたのではありません。では、神託を伝えます」
そう言うと巫女は一呼吸置いて、言葉を紡いだ。
「“壁”が崩れ、異界との繋がり始まる。“祠”へ向かい剣を手にする者現れた時、その者の意思を肯定し、共に困難に立ち向かえ。だそうです」
その内容に騒然としていた周囲が沈黙する。
神に選ばれた者が現れる。このベビーブームはもしや……とオババが考え始めた時。
室内に元気な産声が上がった。




