6話 龍の息吹
あれからどれだけ時間が経ったのだろう。
“龍気”に身体をズタボロにされ、武術神にボコボコにされ、魔法神にメンタルをスダズタにされる日々を繰り返していた。朝も夜もない、ただ6時間という枠組みで行われる修行の日々。
そんな中、エルマの修行だけは貴重な癒しの
時間であった。
途中から、座学を3時間で切り上げて壁に飾ってある様々な楽器の使い方や作り方を教えてくれるようになった。楽器の扱いに慣れてくると、エルマが知っている曲と日本にいた頃よく聞いていた曲を教え合い、一緒に演奏したりもした。18時間近く金属のぶつかる音や爆発音しか聞いていない中、様々な楽器のメロディは俺の心に潤いを与えてくれた。
日々繰り返される激しい修行のせいで1人称が俺になってしまった。スポンジのごとく吸収される知識、少しずつだが着実に力になっていく実戦経験を実感し、最初の頃より随分好戦的になってしまったのかもしれない。
2代目龍神が、決まった時間にボロボロになって泉に浮いているという何とも不名誉な話が神々の間で噂されていたようで、1柱また1柱と、俺が治療している時間帯に色々な神が訪れるようになった。愛の女神アフロディアことあーちゃんがひたすら情熱的な愛のエピソードを語ってきたり、鍛冶神が鍛造の良さについて語ってきたり、商神がわらしべ長者のようなサクセスストーリーを語ってきたり。様々な神が自分の思いやエピソードを語ってくれた。それが励ましだと気付くのにそれほど時間はかからなかった。余所者の自分を歓迎し、更には励ましてくれる神々の暖かさがとても嬉しくて、より一層修行に励むことができた。
ある程度力が付いてくるにつれ、修行はどんどん高レベルになっていった。エルマとの修行は学ぶことが無くなってしまったので6時間演奏会を開いたり雑談したりするだけだったが、龍神との修行は、場所が変わって遠くに見えた滝の麓で行われるようになった。
修行の内容は、最初に転移した場所から“龍気"を足に纏わせ、鬱蒼と茂る森を走り抜け滝まで移動。1時間程気の鍛錬を行ったのち滝の中まで進むと、龍神が滝の頂上付近に岩や丸太を顕在させる。落下してきたそれらを“龍気"で加速させた思考で確認。ヒットの瞬間に手に“龍気"を纏わせ爆散させる。それが終わると今度は龍神と組手を行い、残りの時間はまた気の鍛錬を行うという内容になっていた。
武術神の修行は無手、大剣、長剣、片手剣、槍、棒術を習得することが出来たので、それを生かした天使との組手がメインになっていった。天使から無手で得物を奪っては倒して奪っては倒す。10体、50体、100体と日に日に組手の相手が増えていく。10000体組手達成で修行は完了だそうだ。
魔法神の修行は、既に知識習得は終了し、実戦訓練のみとなっていた。火、水、風、闇、聖の属性魔法を相殺出来る魔法とセットで覚えていく。トートが放つ魔法を見切り、対応する魔法で相殺させていくのだ。魔力操作、鍛錬のおかげで魔力量が尋常じゃないほど跳ね上がっているので、2時間ぶっ通しで魔法を放ったとしても何ともない。
それが終わると今度は顕在させた呪われたり封印された様々なアイテムの解除訓練に移る。力技で開けられるものもあれば、一定の間隔で一定の魔力を流さなければならないもの、呪いや封印の印へ糸上に魔力を伸ばし、ピッキングのように解除するもの、“龍気"を使わねば解除出来ないものなどをトライアンドエラーを繰り返し、解除していくのあった。
そして現在、俺は龍神との修行場所である滝の麓……ではなく最初に使っていた場所へ立っている。いつもと違うのはそれだけではなく、悠然と立っている龍神の隣にはアスラ、トート、エルマの3柱が立っていた。そう、俺は武術神の10000体組手、魔術神の空間修復、大規模魔法陣閉鎖という最終試験をクリアし、遂に最後の試験である龍神の試験に挑んでいるのだ。
まずは大きく息を吐き、自然体になる。そして“龍気"を体内である程度循環させたのち右手に集める。続いて右手に集まっている“龍気"に触れないように魔力を循環させ、今度は左手に集める。
ここまで来れば分かる通り、最終試験は“龍気"と魔力の融合技の習得である。暴発させないように左右に力を分けると、今度は込めた“龍気"と同じ量になるように魔力を調節する。込めている魔力はあの聖属性。“龍気"を右手に留め続けるように操作しつつ魔力操作で余剰魔力を排出する。
漏れ出した魔力が電撃に変換されパチパチと軽くスパークが走る。ついに目標量に到達すると、魔力の排出を止めて、左右の手をお椀型に軽く曲げ前方に持って行き融合を開始する。2つの力が触れ合った途端、魔力が加速度的に膨張し、周囲に激しいスパークを発生させる。逃げ場を求めるように暴れる手の中の魔力を押さえつけているとついに臨界に達した。
刹那、もう一押しとばかりに両手の間隔を一瞬縮め、素早く両手を重ねて前に突き出すと、融合したエネルギー体は強烈な閃光と爆音を伴う熱線に変換され大地を灼く。荒ぶる力の奔流が収まり、思わず閉じてしまった目をゆっくり開くと、手をかざしていた直線上の森林がごっそり消滅していた。莫大なエネルギーが通過したであろうそこは、地面が真っ赤に抉れてガラス化しており、所々がジクジクと帯電していた。
この途轍もない威力の技を自分が放ったとは思えず呆然としていると、背後で見ていた龍神が拍手をしながら3柱と共に歩いてきた。
「最終龍奥義、龍の息吹 習得おめでとう」
龍神のその言葉に続いて他の3柱もそれぞれの言葉で奥義習得を祝福してくれた。
「これにて修行の全過程は終了だ。今までよく頑張った、その技はお前さんの切り札になる。安易に使うわけには行かないが、魔力と“龍気"を左右に分ける所までは定期的に練習して感覚を研ぎ澄ませておけよ」
修行の終了。それが意味するのは1つの終わりであり、また新たな始まりでもあった。
「今まで……ありがとう……ございました!」
俺は万感の思いで4柱に頭を下げる。まだまだやることはあるが、ここまで自分を高めてくれた神々に伝える言葉はこれしか浮かばなかった。
「おう、だが終わった気になるなよ。お前さんはここからが本番だ」
そう言って人の悪い笑みを浮かべる龍神。
「転生……するんですよね」
「そうだ、お前さんは龍神としての力は手に入れたが肝心の仕事は何一つしてねぇ。まだ仮免許だ。よって下界に降りて“器”を育てるのと同時にやって欲しいことを伝える。それをこなせば晴れて龍神だ」
そう言うと龍神は一呼吸置いてから口を開いた。
「1つ、この世界中を旅しろ。龍の眷属達と協力して何かおかしな所を見つけたら、お前さんに伝えたあらゆる技術で解決するんだ」
なるほど、下界して“器”を鍛えると同時に仕事も体験するのか。
「2つ、出る杭は打て、だ。後継者を探している間余計なことが起きないよう1000年前に“壁”を厚くし、外部からの干渉をシャットアウトしたんだが……もう限界でな。もう一度張り直すには修復期間が必要で、その間は無防備になる。もう今にも変な力を持った転生者やら勇者召喚やらが始まるかもしれん。この世界の奴ら同士で戦うのは構わんがな、そいつらが魔族やら他の種族を攻め始めたら阻止しろ、ボコっても構わん。いやボコれ」
ボコっても良いんだ……元勇者が現役をボコるとかなんか複雑な気分だが……もう龍神だしやるしかないか。というか今1000年って言わなかった⁉︎そんなに見つからなかったのか、条件厳しすぎぃ!
「そして3つ目、仲間を作れ。お互いを信頼出来る仲間がいればこれ程心強いものはないぞ。どんなに力があっても1人じゃ限度があるからな」
まぁ、問題が起きたら即対応。それ以外はのんびり頑張れや。そう言って龍神が笑った後、今度はトートが進み出て口を開く。
「今のままだと……力が強過ぎて……下界しても“器”が耐えられない。だから……力を下界の5カ所に分散させる。安心して……悪用されない所に……封じておくから」
なん……だと……マジで0からのスタートになるのかよ…折角修行したのに……。
「知識と経験は……そのまま……分散させるのは……魔力と“龍気"だけ。それでも……そこそこ力は残るから…“器”が付ける力に……散らばった力を上乗せして……さらにぱわーあっぷ?」
「知識と経験は残るんですね!良かった〜。でも、見つけられますかね?世界中に散らばるんでしょう?」
「自分の力だから……ある程度近づけば……気づくと思う……頑張って?」
トートはそう言うと、元の位置に戻っていく。他に伝えたいことのある奴はいないと判断した龍神が指を弾くと、俺の目の前に底が見えない穴が現れた。
「じゃあ、そろそろ行ってこい。転生用の空間はこの下だ。確か担当してるのは……サラだったな。お前さんサラの顔も空間の特徴も分からんだろ。安心しろ、“龍気"足に纏って蹴破れば入れるから」
お、おう……サラさんとやら、ごめんよ。どうやら強襲するしか道がないようだ。
「……分かりました。では行ってきます!」
行って来いとか頑張れと言う声を掛けられながら“龍気"を纏い、底の見えない穴へと飛び降りる。
新たなステージへと足を踏み出した仮免龍神。その頭には、黄金に輝く2対の角が生えていた。
行くぜ!異世界!!




