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龍ノ旅人(旧題 仮免龍神が行く!)  作者: まなしし
第3章 人間の国と勇者編
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14話 迷宮攻略:上層

俺の名前はバルク。Aランク冒険者パーティー『嵐のストームファング』のリーダーにして誇り高き虎人族だ。昨日たまたま休みで王都をぶらついていたらギルドの職員に泣きつかれて、突如新しい入り口が現れたという初心者向けの迷宮を調査することになった。なんでも、近くにいたB級達を派遣してるが全く進めないんだそうだ。


最初は耳を疑ったがいざ進んでみるといきなりレッドキャップが襲ってきやがった。なるほど、ボロい迷宮に蓋がされてたってところか。確かにB級には荷が重そうだ。ま、俺のハルバードのサビにしてやったがな。獣王国でも特出した身体能力を持つ虎人族。その中でも上位の強さだった俺にすればレッドキャップ程度なら余裕だ。


序盤からこれとはかなり期待できそうな迷宮だと、メンバーもワクワクしながら足を進めたのだが、その後は特に強いモンスターが出る訳でもなく、あっさり20層ほど進んでしまった。


「あーあ、面白そうだと思って来たのに拍子抜けだよ〜帰りたい〜」


そう文句を言いながら身の丈以上の杖を振り回してるチビは人間族のマルム。一応女だ。パーティーの後衛を務める魔法使いで、少し言動が幼いが魔法の腕はかなり高い。年齢は……謎だ。


「マルム。迷宮では何が起きるか分かりません。最後まで気を抜いてはいけませんよ」


弓を構え注意深く周囲を警戒しているこの女はエルフ族のシェリル。風の精霊魔法が得意で、遊撃兼斥候役を務めている。年齢は200歳だが、エルフ族では成人したてくらいだそうだ。


「……腹減った」


そして巨体を揺らしながら隣を歩くこの男は熊人族のグリムルム。武器はハンマーで俺と共に前衛を務める。口数は少ないが、こいつとは共に冒険者目指して長い仲で、頼りになる相棒だ。これが俺のパーティー、個人の能力も全体のバランスも共に最高だと自負している。


「帰ったらたらふく食わせてやるよ。休日返上で仕事してやってんだ。ギルドからたっぷり報酬をもぎ取ってやる」


「それ賛成〜。でもここまで来たんだから魔族と戦ってみたいかも」


食い物に反応してそう後ろから声をかけてくるマルム。ギルドを出るときに聞いたが、今回の騒動は魔族のせいだともっぱらの噂だ。山脈の向こうにいる奴らなんて見た事も会った事もないが、もしいるなら一度戦ってみたいと俺も思う。


「……ねぇ聞いて。精霊がこの先で何か見つけたわ」


雑談をしているとシェリルの索敵に何かが引っかかった。


「お、モンスターか?そろそろこの層も終わりだが」


俺がそう声を掛けると、他二人も陣形を崩してシェリルの元へ集まる。


「ちょっと待って、これは下の層ね。音を拾ってみるわ……戦闘音と……人の声?モンスターではないわね」


「ん?この先冒険者は俺たち以外いないはずだよな。これは……」


「噂をすればって奴かもね〜。ふふふ、ワクワクする〜」


マルムの言う通りこれはもしかするかもしれない。


「リーダーどうする?」


「よし、待ち伏せして奇襲しよう。そこの岩陰に隠れて待機だ」


ギルドの未調査地域や危険地域で同業者かどうかの確認なんて一々していられない。迷宮内では仲間に擬態するモンスターなども出てくるので、疑わしきは斬りかかれ。が常識だ。


シェリルからの言葉に、ここはもちろん待ち伏せを選択する。俺達にとって大したことがなくても、ここはB級でも二の足を踏む迷宮だ。こんなところまで来ているくらいなら只者では無いだろう。


前衛と後衛の二手に分かれて大岩に隠れる。自分の存在を周囲に溶かし込むイメージで気配を隠す。待ち伏せの基本だ。


息を潜めてしばらく待つと、下の階層に続く入り口から声が聞こえてきた。


ここに潜る前に王国の方から万が一魔族に遭遇した場合の依頼も受けている。なるべく殺さずに捕獲、それが不可能な場合は相手の戦力を分析しながら撤退、だ。


俺たちが隠れてすぐに声の主は姿を現した。女2人に男2人の四人組。さっきの反応はこいつらのようだ。人族と見た目が変わらないな、などと一瞬呑気なことを考えてるとシェリルが弓を構えた。


つがえた矢に風が集まり徐々にその密度を上げていく。詠唱を必要としない精霊魔法が矢を限界まで強化しているのだ。


ごく稀に例外もいるが、この魔法は精霊と契約した者にしか扱えないし感知することも出来ない。魔族が感知できるならそれまでだが、これほど奇襲に向いている魔法もない。精霊使いは敵に回すと恐ろしいが味方にいると心強い存在だ。


強化された矢は大岩を容易に貫通する程の威力を持つ。魔族がどの程度か分からないが食らえば無事では済まないだろう。


未知の相手とあって武器を握る手に思わず力が入る。緊張感が意識を研ぎ澄ましていく心地良い感覚……獣人族は強敵との戦いを何よりも好むのだ。シェリルの狙いは青髪の男だろうか、捕獲しろとは言われても数的優位を保って戦闘はしたいからな。まぁ悪く思わないでくれ。


敵は同じ青髪の女が珍しそうに周囲を見渡しているくらいで、特に警戒している様子はない。目標が視線を正面から横に向けたその瞬間。完全に無防備なその頭へ、必殺の一撃が放たれた。



ーーーーー



あれから30層ほど進んだ俺たちは、思わず迷宮にいることを忘れてしまうような暖かな光が降り注ぐ草原をのんびりと歩いていた。進むごとに弱くなるモンスターだが、ついには俺たちとの圧倒的な力量差を本能で感じ取ったのか全く姿を見せなくなってしまった。


ソフィアが思いついたことがあるとか言ってリリーシェを引っ張って先に行ってしまったので、この場には俺とノブヤの二人しかいない。


「ずっと思ってたんですけど、レイクルさんの剣ってすごい綺麗ですよね。もしかして龍人族に伝わる凄い剣とかだったりしますか?」


のどかな景色を眺めていると、隣を歩いているノブヤがそう声を掛けてきた。


「まぁそんなところだな。里を出るとにきに刺さってたから持ってきた。注ぎ込む“龍気"の量で切れ味が上がることは判明したんだが……何で出来てるかはよくわからん」


ざっくりとした説明だが大体あってるだろう。彼に見せるように抜剣し、刃に光を滑らせながら質問に答える。岩石の塊から堅牢な甲殻まで容易く斬り裂いてきたのに刃こぼれ一つない美しい刀身だ。羽のように軽いのにこの耐久性、この剣にはまだ秘密がありそうだ。今度神に会う機会があったら聞いてみるとしよう。


「確かに普通の金属じゃなさそうですよね。というかそんな雑な扱いされてたんですか……」


期待を裏切る残念エピソードを聞かされ、複雑な表情をして黙ってしまうノブヤ。もっと大切に扱え的な事を言いたそうな顔をしているが、俺に言われても困るし、そもそも装備をほぼ使い捨ててるかのような戦い方を選んでいるコイツにだけは絶対に言われたくない。


会話が途切れ、微妙な空気が流れ始めたその時、前方で起こった大爆発が沈黙を切り裂いた。全身を貫くような衝撃が、瞬時に二人を戦闘状態に切り替える。


「「ぎゃぁぁぁあああああああ!!!!」」


何事かと身構えていると、前方からリリーシェとソフィアが絶叫しながら吹き飛んで来た。結構な速度で着弾したアホ二人組は2回ほど地面をバウンドして俺たちの目の前に転がり込こむ。


「ゲホッゲホッ……馬鹿者!“龍気"を込めすぎじゃ!!」


「いててて……うぅ〜このくらいだと思ったんだけどな〜」


「……何やってんだお前ら」


何事もなかったかのように起き上がって反省し始める二人に思わずツッコミを入れる。


「ソフィに魔法と“龍気"を組み合わせた物凄い魔法があると言われて興味が湧いてな。さっきからあれこれ試してたのだがまるでダメだな。お前は使えるのだろう、何かコツとかあるのか?」


「使えるって……おいソフィア。お前まさか龍の息吹ドラゴンブレスを……」


「す、すいませんでしたぁぁぁ!!!二人なら!二人でならいけると思ったんです!!」


リリーシェのあっけらかんとした物言いでなんとなく察した俺はソフィアを問い詰めると案の定だった。かなり危険な技なのでまだ練習も禁止していたのだが、まさかこんなアプローチをしてくるとは予想外だった。


「はぁ……まぁ無事で良かった。これで分かっただろ?あの爆発が手元で起こったら木っ端微塵になるからな。俺が許可するまで絶対禁止だぞ、いいな?」


「うう……わかりました」


「だが強くなろうとするのはいい事だぞ。せっかくリリーシェがいろんな魔法を使えるんだ。もう少し力を抑えて“龍気"でそれを増幅ブーストしてやるような感じにすればいいんじゃないか?」


項垂れるソフィアの頭に手を置きながらそうアドバイスしてやると、顔を輝かせて駆け出して行った。“龍気"は強力だが潤沢に使える力じゃない。この数週間で力の制御も格段に上達している事だし、そろそろ力の管理も教える必要がありそうだ。


「いいお兄ちゃんしてるじゃないですか」


妹の教育方針に頭を悩ませていると、ノブヤがそう言ってニヤニヤしながら近づいて来た。非常に気持ち悪い。


「全く、見かけだけ育ちやがってこういうところはまだ子供なんだよな〜」


「レイクルさんもそんなに歳変わらないじゃないですか。あれ?そういえば僕6歳児に敬語使ってるのか……?」


俺をからかおうとしたようだが、勝手に衝撃の事実に気付いて固まるノブヤ。


「馬鹿なこと考えてないでさっさと進むぞ」


一人で軽くショックを受けているノブヤを小突いてソフィア達の後を追う。平坦な小道を進むと、丘がスプーンでくり抜いたかのように削れ、あたり一面にゴブリンだったものが散らばっている事故現場に差し掛かったが、それ以外は特に問題もなくあっさり出口に到着した。


「おお……岩だらけですね」


再び合流して階段を上ること数分。ソフィアが珍しそうにキョロキョロと辺りを見渡してるように、次の階層は先程と打って変わり大小様々な赤茶色の岩が転がる荒野が広がっていた。


(…………何かいるな)


一見何の変哲もない荒野だが足を踏み入れた瞬間に違和感を感じる。身体に薄く“龍気"を纏い改めて探知してみると、正面の大岩に生き物の存在を薄っすらと感じ取れた。神界で研ぎ澄ました能力を持ってしてもはっきり分からないとはかなりの技術だ。ソフィアもノブヤも全く気付いていない。


素早く4人に視線を巡らすとリリーシェと目が合った。こいつは気付いているのだろうか?

俺ほど気配察知に優れていないこいつがもし気付いているのなら、岩の向こうで精霊魔法が使われている可能性が高い。


とりあえず3人に注意しようとしたその時、警戒していた岩陰から矢が飛んできた。狙いは……俺か!


すぐさま頭部に“龍気"を集中させ思考を加速させる。額を狙った正確な射撃だ。首を傾ければ回避できるが、矢の周りの空気が微かだが不自然に歪んでいる事に気付き、咄嗟に上体を大きく反らす。


直後、頭部があった場所を通過した矢は、背後の壁に手のひら大の穴を開けて爆散した。


「……やっぱりな」


飛散した魔力が岩肌に触れ、ピシピシと鋭い切り傷を刻んでいる光景が、自分の判断が正しかった事を再確認させる。


飛ばしてくるのは初めて見たが、これは物体に風の刃を纏わせる上級魔法だ。同じ技を神界でトートに受けた事がある。最初は空気が歪んでいることすら分からず、身体を無数のチェーンソーで斬られるようなショッキングな光景を何度も繰り広げたのは、今となってはいい思い出だ。


最終的にしっかり範囲も把握できるようになったし、精霊魔法の探知も習得する事ができるようになったのだが、力が分散した影響ですっかり衰えてしまった。


「うわっ‼︎なんだなんだ⁉︎」


「だ、大丈夫ですか兄様‼︎」


完全に気を抜いてた二人が突然の攻撃に慌てふためいている。敵もまさか避けるとは思っていなかったのだろう。隠していた気配も完全に剥き出しになり、動揺してる様子が岩の向こうから伝わってきている。


「あぁ何ともない。リリーシェ、今のは……」


「うむ、風の精霊魔法だったな。精霊がやたら活性化しているから何事かと思ったら矢が飛んでくるとはな、ハッハッハ!」


人が襲われたというのに爆笑しているこいつの態度に少し腹が立つが、やはり精霊が見えるようだ。何の精霊と契約しているのかは知らんが、これで敵の契約者に苦戦する事はなさそうだ。


「おいおいおい、あれを避けるのかよ!!」


もう奇襲は不可能と踏んだのだろう。少しの沈黙の後、岩の向こうから襲撃者が姿を現した。


「獣人にエルフ……それに人間か。初対面の人間に対してなかなかのご挨拶じゃねーか」


岩から出てきたのは虎人族、熊人族の男二人に小柄な人間と若いエルフの女二人。攻撃してきたのはこいつか。格好を見た感じ盗賊ではなさそうだ。


「ハッ、何が人間だ。俺たちはAランク冒険者チーム『嵐の牙』。依頼なんでな、覚悟してもらおうか魔族」


そう言うと熊の獣人と共にそれぞれの武器を抜いて前に進み出るトラ男。なるほど、どうやら見事にフラグ回収してしまったようだ。ここはリーダーとして、一応説得を試みる。


「魔族?勘違いしてるようだが俺たちも冒険者だぞ。ほれギルドカード」


「……Cランク?ここはBランクですら苦戦している迷宮なのよ。駆け出しランクがこんなところまで来れるはずないじゃない。これで確信したわ。偽装するには勉強不足だったみたいね魔族さん」


旅神エルマーの言う通りエルフの視力は凄まじい。50メートルほど離れているこの距離から文字を読み取った女エルフが馬鹿にしたような口調で前に進みでてくる。


「ほう、あんな貧弱な魔法を放っておいてよく言う。Cランクだからと言って弱いとは限らんだろうに……やはり木の根を守るしか能の無い種族という事か」


リリーシェも負けじと煽りながら俺の隣に進み出てくる。昔の事を根に持ってるのだろうか、ちょっとキレ気味だ。と言うかお前冒険者でも何でもないだろ。


「……っ!!お前に何が分かる!!!」


色白い顔を真っ赤にして弓を構えるエルフ女。プライドが高いゆえに煽り耐性が低すぎるというのも間違ってはなさそうだ。というかこれもう説得失敗なのだが……まぁいいか、駄目元だったし精霊使いのヘイトがリリーシェに向いてくれたのはありがたい。もうそう捉えるとしよう。


「お喋りは終いだ。その態度、実力に見合ったものかどうか確かめてやろう!行くぞ!!!」


会話は終わりだと言わんばかりにハルバードを一振りして、トラ男がそう言って突撃してきた。


「あ〜もうダメだこりゃ。お前ら来るぞー」


展開についていけていなかったソフィアとノブヤも俺の声で戦闘態勢に入る。どうやらこれが、この迷宮最後の戦闘になりそうだ。


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