1話 オッサンの正体
「ここは……泉?」
突如視界を覆った眩い光が収まったようなので、僕は閉じていた目を恐る恐る開く。
視界に飛び込んで来たのは先ほどのような青と白の世界ではなく、木々がドームのように周りを囲っている不思議な景色だった。
上から降り注ぐ木漏れ日のような優しい光がこの空間を満たしていて、中央には木の根で編んだようなような底の泉。そしてその澄みきった水は、木漏れ日に対応するように淡い光の粒を立ち昇らせていた。
「凄い……綺麗……」
「だろう?ここは神癒の間。疲れたり傷ついた神を癒す場所だ。まぁ、他の神とのお喋りしたりする休憩場所としてよく使われている」
久しぶりに帰ってきた自分の世界だからだろうか、少し嬉しそうにオッサンはそう言った。
「まぁ立ち話も何だし、俺らも泉に入ろうぜ。久しぶりの外出で疲れたし、お前もいつまでも胸に風穴開けてるわけにもいかんだろ」
「え、風穴……?うわっ!穴が!死ぬ!死んじゃう!」
そう言われて視線を下ろすと、ソフトボール大の穴が心臓の位置にぽっかりと空いていた。痛みはなく、断面は黒く靄のかかったような状態だが、そんな状態で焦らない人間はいないだろう。
「もう死んでるだろ……てか今気づいたのかよ」
オッサンのジト目とか誰得だよ、と1人ツッコミながら、僕は泉に飛び込んだ。心地よい冷たさにほーっと息を吐くと、漂っていた光の粒が傷に集まってきた。しばらくして光が消えると、穴は元どおりになり、魔王との戦いの日に着ていた肌着に虚しく穴が開いているだけになっていた。
「神ってのは言わば精神体だからよ、見守っている世界や自分自身とかの負の感情に影響されやすい。負の感情に汚染されて狂わないように、こうやって浄化してくれる場所があるのさ」
ま、喧嘩してボロボロになってくる奴らもいるけどな。そう言って笑いながらオッサンも泉に浸かる。
しばらく2人で会話して、この世界について、大まかに把握したことは以下の通りだ。
・世界は創造神が生み出しこの世界もその1つである。
・この世界は人神、魔神、龍神の3柱の最高神を筆頭に、上級神、下級神、天使によって維持、管理されている。
・僕が勇者をやっていた世界よりこの世界は大きく、多様で強靭な種族が存在している。
詳しいことはこれから学べやと言われたが1つ気になることがあった。
「あの、それであなたは何の神な「あれぇ?あれあれぇ?りゅーちゃんがいる!帰ってきてたなら教えてよぉ〜……ん?この子だぁれ?」」
突然僕の会話を遮る鈴の音のような声。思わず声の方を振り向いたが、僕の視線はそこで固まってしまった。美だ。美の塊がそこにいたのだ。
肩までふわふわと伸ばした金髪、大きな蒼い瞳。古代ギリシャのような服装に身を包んだ絶世の美女がそこにいた。
「おう、ただいま!さっき帰ってきたんだ。そんでもって隣で固まってるこのアホは例の後継者だ」
「ふぅん、やっと見つかったんだぁ!私は愛と美と生命の神、アフロディアよ!あーちゃん!と呼んでね!」
今まで見たことのないような美女にそう言われた僕は、よろしくお願いしますと声を絞り出すのが精一杯だった。
「というかりゅーちゃん、いつまでそのお出かけモードでいるのぉ?帰ってきたなら元の姿でいてよぉ!」
ぶーぶーとオッサンに文句をいう美女。というか りゅーちゃん??
「それもそうだな、おい勇者。さっきの質問の答えだがな」
そう言うと同時にオッサンを中心に銀の光が吹き荒れ、僕は思わず声を上げ腕で顔を庇う。
銀の光はすぐに収まったので、オッサンのいた場所に再び視線を向けると、脈打つ銀線の走る神官服のようなものに身を包み、銀髪金眼、そして耳の上あたりの頭から白金に銀線の走る2対の角を生やしたイケメン青年がいた。
「俺は龍神だ」
オッサンはイケメンで龍神だった(泣)




