13話 迷宮攻略:中層
そろそろキャラ設定とかも書いた方が分かりやすいですかね?
「何、迷宮で異常だと?」
その報告は昼下がりの執務室で政務に追われていたアレウス国王の手を止めるのに十分であった。大臣は沈痛な面持ちでさらに報告を続ける。
「はい。先程演習に出かけてた騎士団からの報告に寄りますと、最下層での演習中に突如地震が発生し地下から魔物が湧き出てきたとのこと。どれもこの辺りでは見かけない非常に強力な魔物達だったため即座に撤退したが指示に従わなかった勇者3名が死亡。他騎士団含め被害甚大、と……」
「一体何がどうなっておるのだ!あの迷宮はゴブリン程度の魔物しかいなかったはずでは……ええい!とりあえず負傷者の手当てと事情聴取。第二騎士団はギルドと協力して直ちに迷宮の調査を行え!!」
「はっ!!!」
突然の事態に動揺するも素早く大臣に指示を出すのは流石大国の王といったところか。王の気迫に気押され転がるように部屋から出て行く大臣の後ろ姿を見ながら、アレウス王は側にいた宰相に声を掛ける。
「おい、兵の用意にどれくらいかかる」
「はい。物資は既に城内に運搬済みですので、3日もあれば」
「ふむ、ではそのように手配しろ。兵が整い次第、召喚の報告と魔族への宣戦布告を行う」
「ではパレードはその翌日に行いそのまま進軍を開始致します。勇者達はどうなさいましょうか?」
「今回の異変は魔族の仕業とでも言っておけ、もしダメならアレを使っても構わん」
「……かしこまりました。では、失礼いたします」
宰相は一礼すると近衛と共に部屋を出ていった。
「もはやこうなっては民衆に隠し立ては出来ぬ……いよいよ始まるのだな」
誰もいなくなった部屋で一人そう呟き椅子に深く腰掛ける国王。その姿はどこか疲れた様子であったが、霊峰を見据えるその目には強い野望の光が宿っていた。
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最下層を出発して5日は経っただろうか、あれから魔物やトラップを蹴散らしながら順調に進みそろそろこの迷宮の中部に到達せんとする俺たちは現在、大量の猿型魔物に囲まれていた。
「はははは!魔法縛りの戦闘も偶には良いものだな!!!」
「“龍気"を使わない戦闘。実戦での型や立ち回りが洗練されていきますね!」
そう言いながら襲いかかるモンスターを爪で切り裂くリリーシェは魔法以外の戦闘力強化のため、顔面にハイキックを叩き込むソフィアは“龍気"に振り回されて型が乱れてきたため3層くらい前からこのような感じで戦わせている。
「ちょっと……流石に数が多すぎる……それに少し前からモンスターがヤバそうな目をしている気がするんですけどレイクルさん……レイクルさん?」
そんな二人にはまだまだ劣るが、ノブヤも教えた基礎に忠実に、着実にパワーアップしているが、この終わりの見えないモンスターラッシュに早くも根を上げている。
俺はと言えば砂漠の戦闘民族に伝わる音楽に熱い挑発の気持ちを込めて頑張るみんなを応援だ。うん、吹いてて闘争心が漲ってくる。音楽の力は偉大だ!!
「〜〜〜〜♪♬」
「うわぁ、演奏しながら戦ってるよあの人……というか、こんな時に何呑気に楽器なんて吹いて……ってまさか。ちょっと演奏をストップしてくれませんか?おい!今すぐ演奏をやめて……ヤメロォ!!」
ノブヤが何かに気付いて俺に駆け寄ろうとするが、行く手をモンスターに阻まれる。しかし彼は飛び掛かるモンスターに素早く反応し、着地地点に槍を呼び出し串刺していく。様々な強敵との戦闘を経て、今や魔法で精神強化をしなくても十分に戦えるほど大きく疲へ……精神的にも成長していた。
簡抜与えず次々と襲い来るモンスター達を長剣で薙ぎ払い戦斧で叩き潰す。流れるように立ち回っていた彼だが、ついにスタミナが切れて立ち止まってしまった。なんか本当に限界そうなのでそこら辺に刺さってた槍を投げて助けてやる。
「もうへばったのかよ情けないな〜。あ、今の動きは出した槍をこうやって投げる所まで欲しかったな」
「はぁ……はぁ……あ、ありがとうございます……ってそうじゃなくて!」
息を切らし、タワーシールドに寄りかかって精一杯の抗議をするノブヤ。
「はいはい。おーいソフィ、リリーシェ、後片付けておいてくれ〜!思いっきりやっていいぞ〜!」
俺がそう呼びかけると、モンスターに囲まれていた2人がそれぞれ返事をすると同時に紅と翡翠の光が巻き起こった。オカリナをしまい、一際大きくなった爆発音や敵の悲鳴を背に聞きながら、少し進んだ所にある高台に腰を下ろす。遅れてフラフラとノブヤも後に続くと、糸の切れた人形のように地面に倒れこんだ。
「精神強化なしでもいい感じに戦えるようになってきたなノブ。出会った頃とは見違えるようだぞ」
「そりゃあこんな事ずっとしてたらそうなりますよ。レベルも上がって力も底上げされた感じもしますし……うわっ鎧に穴が⁉︎いつの間に……というかなんてことするんですかレイクルさん‼︎あの猿一匹一匹がレベル70超えてるのにさらに凶暴にさせるなんて!流石に死ぬかと思いましたよ!!!」
そう文句を言いながらボロボロになってしまった装備を一瞬で収納し、新品と交換するノブヤ。今回行われた訓練で預けられた食糧や装備の他に、置き所のなかった予備装備なども一時的に収納している時に遭難したため割と贅沢に装備を使えるそうだ。最初は自信がなかったくせにこうやってサラッと使いこなされると何か腹が立つのは俺だけではないだろう。遠くの方で紅のスパークを撒き散らす竜巻に吸い込まれていく猿達を眺めながらノブヤに話しかける。
「お前さ、俺たちが出会ってからここまで戦ってきてどう思った?」
「え?何ですかいきなり。うーんそうですね……100層迷宮っていうから下層は凶悪な魔物ばっかりなのかと思ってましたけど、この層みたいに弱めの魔物がいっぱい出てくる層も結構あるってことですかね?」
「それは迷宮の仕様だな。簡単に言えば、各層に割り当てられた100の魔力で100の魔物一体生み出すか、1の魔物100体生み出すかの違いだ。ここは魔力が比較的薄いから格差が激しいが魔国領の迷宮だとこうはいかないだろうな。他には?」
遠くの方で翡翠の光の混じった火球が大爆発を起こす様を眺めながら少し黙った後、ノブヤが口を開く。
「そういえば、自分のレベルが上がったおかげだと思ってましたけど、鑑定で見たレベルの割に何かこう……敵の動きが避けやすい?みたいな感じがしますね」
「ほう、分かるようになってきたじゃないか。それはレベルの恩恵もあるだろうがもう一つこの迷宮に理由があるんだ……何だか分かるか?」
今度は沈黙してしまうノブヤ。答えが出なそうなので会話を続ける。
「迷宮のモンスターってのは特定のフロアに決まった数だけ配置される。繁殖もなく、餌も必要ないから縄張り意識も薄い。つまり……」
「あ、そうか!モンスター自身の戦闘経験が少ないのか!」
「そういうこと。おそらくお前達勇者が見れるレベルというのは対象の身体的ポテンシャルが反映されるんだろう。全部が全部って訳じゃないが、多くの迷宮のモンスター達は筋トレはしてるが戦ったことはない戦士のようなものなんだ。そんな場所で戦ってたって絶対に外じゃ通用しない。だからあえて凶暴にさせて戦わせたんだ」
「なるほど!そういう事だったんですね〜」
先ほどの恨みのこもった視線から一転して尊敬の眼差しで俺を見つめてくるノブヤ。魔力を音に乗せたら実際どんな風になるか気になったのが8割とか口が裂けても言えない。
「ゴホン!つまり、何が言いたいかというと、レベルで判断するのは非常に危険だって事だ。高位の使い手やモンスターは力を隠す事もできるからな、なまじそんなものが分かるからって油断してると痛い目に遭うぞ」
そんな話をしばらくしていると、いつの間にか猿の悲鳴も爆発音も聞こえなくなっていた。どうやら彼女達が全滅させたらしい。迷宮のモンスターは一度死ぬと再配置されるまでしばらく時間がかかるので、これでこの階層は一時的に俺たちが制圧している状態になった。遠くの方からソフィアとリリーシェがこちらへ向かってくるのが見える。
「二人ともお疲れさん、調子はどうだ?」
「ありがとうございます!最近早朝訓練が出来なかったので良い型の確認になりました!」
「こんなに体を動かしたのは龍神と戦って以来だ。それに旋律を詠唱代わりに魔法的効力を持たせるとはな。なかなか楽しかったぞ」
俺たちの元へ来ると、ノブヤから水筒を受け取り汚れを落としながらそれぞれ満足そうに感想を述べる2人。正直この迷宮は俺達4人で戦うには少々物足りない。最下層の魔皇獅子はヤバかったが、それ以外はここまで精々AAクラスの魔物しか出てきていないのだ。まぁ人為的な原因で成長した迷宮の限界と言ったところだろう。これからの旅に向けて訓練しながらさっさと地上に出たいところだ。
4人で輪になり、今までの迷宮攻略を振り返りながら休憩を取っていると、微かな“龍気"が頭の中に響く独特な感覚が俺に伝わってきた。
「兄様、どうかしましたか?」
俺の様子が少し変化した事に気付いたソフィアが声をかけてくる。
「ん?多分アイツから念話だ。俺たちが迷宮から出てこないから気になったのかもな」
念話は龍人族に伝わる“龍気"を使った通信方法だ。お互いの“龍気"を少し体内に取り込み登録することで通話が可能になる。俺が登録しているのはソフィアともう一人しかいないので送り主は地龍族のアイツだろう。ソフィアがリリーシェ達に念話について説明している姿を眺めながら、俺は送り主と“龍気"を繋ぐ。
(久しぶりだなジェゾ。心配するには遅いんじゃないか?)
(ん?おお、やっと繋がったか。アホ、何回も連絡したが魔力の流れがめちゃくちゃでどうにも届かなかった。どんだけ深い迷宮なんだよ。まぁでもその様子だと元気そうだな、ソフィアちゃんも一緒か?)
(あぁ、2人とも元気だ。3層の奥でうっかり“龍気"に反応する転移装置を作動させちまってな。本当の最下層まで真っ逆さまだ。もう40層以上は進んだからかなりデカイ迷宮だぞ。地上はどうなってる?)
(ハッハッハ!新米の癖になかなか大冒険してるじゃねぇか!こっちはもう大変だ……)
ジェゾが言うには、地上は突如現れた新たな迷宮に挑まんとする冒険者や調査したい学者達で大騒ぎ。現在は迷宮の危険度を把握するためギルドが一時的に管理し、近くにいた冒険者に声を掛け送り込んでいるらしい。まぁ急遽かき集めたため、B級冒険者がほとんどでなかなか難航しているらしいが。
アウレス王国は、死者は公表せず帰還した人数を勇者召喚したと発表すると同時に魔国領に対して宣戦布告。昨日パレードを行い旅立って行ったらしい。全員見慣れない腕輪をして異様な雰囲気を発していたことから何か吹き込まれたか精神操作されている疑い有り。ということだ。迷宮の騒ぎも魔族の仕業と発表し、国民感情の扇動も行っているそうだ。
(精神操作ねぇ。他の国の動きはどうだ?)
(アウレス周辺の小国は戦争を支持して支援をしている。大方、霊峰を挟んですぐの資源地帯の利権に少しでも絡みたいんだろう。その他の国は次々と小競り合いを一時停戦している。ま、様子見ってところだろうな。魔族側には今だ大きな動きはない。どちらも種族間のデータがなさ過ぎて今一動きが鈍い印象だ)
アウレスは魔国領に最も近く、人間にとっては最終防衛線の役を担う国なだけあってかなりの大国だ。魔族という未知の存在がどの程度か、そして勇者の強さを把握する為にも、まずは一当てさせてから動くつもりだろう。
全く、いつもの人間同士の戦争とは違い種族間戦争だというのになんとも纏まりのない種族である。え、俺だって元人間だろって?知らんな。
(まぁ勇者だ魔王だって話はもうお伽話レベルの昔だし、お互いそんなもんか……分かった。地上に出たらまた連絡する)
(おう。あ、そうだ。今回の迷宮調査に1組だけAランク冒険者のパーティーが参加しててな、そいつら結構やるからそろそろお前らと鉢合わせするかもな。まぁ、魔族と間違われてやられたりするんじゃねぇぞ!ハハハハハハ!)
最後にそう言って笑いながらジェゾは念話を終えた。
「はぁ……もう嫌な予感しかしないんだよなぁ」
「兄様、お話が終わったのですか?」
ソフィアの声に顔を上げると3人ともこちらを見ている。どうやらそっちの話は終わったようなので、今のジェゾとのやりとりをみんなに伝える。
「精神操作ですか、もうなんでもありですねこの世界」
表情一つ変えずそう言い放つノブヤ。
「やけにあっさりだな。仲間が心配じゃないのか?」
「まぁ僕はその『仲間』に裏切られてここにいますし。それにここまで何回も死にそうになっていたら他人の事を心配する余裕なんてなくなっちゃいましたよ。色々あったなぁ……大蛇に飲まれそうになったり、巨大植物に消化されそうになったり、ゴーレムに潰されそうになったり……」
今度は膝を抱えてブツブツと呟き始めてしまった。
すんません、別に本当に危なくなったら助けるつもりだったし、良かれと思ってやったんです。ほら、獅子は子を谷へ落とすって言うじゃないですか。だからそんな負のオーラを発しないで、ね?ね?
「ま、まぁ勇者達の事は地上に出てから対処しよう。よし、休憩終わり!モンスター湧く前に上行くぞ〜」
なんて事は言える訳もないので誤魔化すように会話を終わらせ立ち上がる。ソフィア、リリーシェ、そしてリリーシェに殴られて再起動したノブヤも後に続く。
「地上までもう少しですね兄様!」
「あぁ、モンスターも弱くなる一方だし、サクサク進むぞ。問題は……」
「同業者、ですね。はぁ……話せば分かってくれないかなぁ」
「可能性はあるだろうが十中八九襲われるだろうな。それに……」
自分の毛先を遊びながら歩く吸血鬼にみんなの視線が集まる。
「なんじゃ?」
「魔族、いるんだよなぁ……国王もふざけたこと言いやがって。いつか絶対ブン殴ってやる」
迷宮も折り返し地点。リリーシェ封印解除と同時に、停止していた世界にゆっくりと変革が訪れようとしていた。




