12話 迷宮攻略
お久しぶりです。
猛スピードで吹き飛んできた銀髪の人は僕のすぐ傍の壁に突っ込んだ。弾け飛ぶ水晶を盾で防ぎつつ顔を出してみると、なんと女の子だった。
「あ、あのー」
大丈夫かと声を掛けようとしたら、女の子は何事もなかったかのようにむくりと起き上がり顔を上げた。無事なことに安堵すると同時に目が合いドキッとした瞬間。その子の目が紅く光ったかと思うと、引っ張られるような衝撃に僕は意識を失った。
しばらくして人の話し声に目を覚ますと、自分が誰かの腕に抱えられている事に気付いた。
「お、気が付いた……ってお前日本人か?どうしてこんなところに」
水色の髪なんて珍しいなぁとその人をぼーっと眺めていると、驚きの単語がその人から飛び出た。意表を突かれ動転してしまった僕は、日本人を知ってるなら大丈夫だろう。と咄嗟に謎の判断をして正直に全て話してしまった。
しかしこの判断は正解だったようで、その人は納得したような顔をすると今度は彼らの話をしてくれた。話を聞いていると、こんなところにいる彼らに興味を惹かれ思わず鑑定を使った。
【名前】 レイクル
【種族】天龍族
【レベル】200かもしれない(龍の魂 1/5)
【固有技能】龍気 全属性魔法適正
【技能】めっちゃすごい
【名前】 ソフィア
【種族】天龍族
【レベル】143
【固有技能】龍気 全属性魔法適正
【技能】 近接格闘術 Level.9
魔力操作Level.5
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【名前】 リリーシェ・ブラッドアインス
【種族】吸血鬼 (クラス:真祖)
【レベル】192
【固有技能】血液魔法 眷属化 全属性魔法適正
【技能】 長剣術 Level.4
魔力操作Level.10(MAX)
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……なぁにこれ。僕は絶句するしかなかった。
ソフィアさんもリリーシェさんもレベルと技能が尋常じゃなく高いし、表示外にもまだ技能を持っている。レイクルさんに限っては鑑定が仕事放棄してもはや意味が分からない、と言うか龍の魂って何だよ。
助かったと思ったら今度はこんな人外の化け物達に遭遇しまった僕は、とりあえず怒らせないようにしようと心に決め、冷や汗を流しながら彼らと会話を続けていった。
しかし話をしてみるとみんな個性的だが良い人そうで少し安心した。そして何より、レイクルさんが僕達を帰してくれると言ったのにはとても衝撃を受けた。
他の話も十分驚きで本当なら疑わなければならないのだろうが、僕が彼らをどうこう出来るものじゃないとすぐに悟り、素直に受け入れる事にした。正しいかどうかはこれから判断すればいいのだ……うん。
その後も会話をしたが、レイクルさんは本当に不思議な人だ。日本のネタも知っているし、何より発想が豊かで知識も豊富で…なんと言うか、気の合う同級生のようでもあり、頼れる先輩でもある、そんな印象だ。彼の口ぶりからするに、見た目は若いが相当長生きなのだろうか?ステータスの事もあるしいずれ聞いてみたい。
そして僕の異能の活用法を教えてくれたのは本当に嬉しかった。他の人達のように足手纏いと蔑まず、仲間に誘ってくれた上に戦い方まで教えてくれるという彼の言葉を聞くと、もう疑うとかどうでも良くなってしまった。
昔の僕はここで死んだ。これからは収納の勇者ノブヤとしてみんなを見返してやるんだ!!
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「〜というのがこれからの目標になるな……ってノブ?おい、聞いてんのか〜?」
「す、すいません!ちょっと考え事をしてて……」
「全く、今の話は貴方が一番聞くべき内容でしたのに!そんなんじゃ地上に出る前に死んじゃいますよ?」
「そうだ!そうだ!まずはこの国を滅ぼして秘蔵の魔法書がないか探すという崇高な目標が……「そんな事兄様は一言も言ってません!リリィ、今度は地面にめり込ませますよ‼︎」……」
こんな感じでワイワイ騒ぎながら俺達は現在、上へと続く階段を発見しそこを進んでいた。ノブヤが降りてきたという階段は既になくなっており、別の階段が出現していたのだ。
リリーシェ曰く、ノブヤが降りてきたのは隔離されていた各階層に魔力や魔物を循環させる為の通路で、時間が経つとまた元に戻ってしまうそうだ。
ソフィアとリリーシェは最初は少し険悪な雰囲気だったが、どうやら気が合うようで、話しているうちに打ち解け、今ではすっかり仲良くなっている。
「はぁ、ならもう一度話すぞ。まず、力をつけながら脱出を目指す以上、この迷宮を出る頃には既に勇者達は魔国領へ向かっている可能性が高い」
俺はそんな二人を一瞥した後、申し訳なさそうな顔をしているノブヤに向かって再び説明した。
「は、はいそれはありますね。でもそれじゃ戦争が……」
「始まるだろうな。そしてこれを機に少し世界が荒れ始めるかもしれん。だが勘違いしないで欲しいのは、俺達龍人族は別に戦争を止めたいんじゃなくて、お前達異世界人に暴れられるのが困るって事だ。よって今回は極論を言えば、お前達によって魔族が絶滅に追い込まれるか、魔王が倒される事を防げばオッケーって感じなんだ」
「そうなんですか……」
「あぁ、しかし簡単そうに言ったが龍人族には色々決まりがあってな。追いついて勇者をボコって終わり!って訳にはいかないんだ。細かい指示は追い追い出していくが、とりあえずここを出たら俺達も魔国領へ向かうとだけ覚えといてくれ」
俺がそう話すとノブヤは少し黙り込んだ。やはりかつての仲間と戦うという事にまだ思うところがあるのだろうか。そんな話をしていると階段が終わり、先ほどより少し明るい石畳の広がる空間に出た。
「わ、分かりました。それで、目標とは一体?」
「まずはさっきも言ったがパワーアップだな。ほら、早速お客さんだぞ」
やがてノブヤが何かを決心したかのように頷き、顔を上げたその時。俺達の前方から巨大な黒い狼が3体現れた。
「また黒い……私達最近黒い敵としか戦ってませんか?」
「ふむ、ダークフェンリルか……近所の家が飼ってたな。まぁ肩慣らしには丁度良いだろう」
先頭を歩いていた俺達が立ち止まっていると、今まで後ろで話していた女子二人組がそう言いながら俺達の前に出てきた。ノブヤは狼を見て腰を抜かしている。
「兄様、私達が相手しても?」
「どうぞ、あ〜でも一体は残しておいてくれ」
「分かりました!リリィ、行きますよ!!」
「ふん、久しぶりに力を使うから巻き込まれても恨むなよ!」
やる気満々の2人が戦闘態勢に入ると同時に、ブラックフェンリルが遠吠えをして戦闘が始まった。まず先手はソフィア、“龍気"を展開し爆発的な踏み込みでフェンリルに肉薄していく。
ブラックフェンリルは狼系魔物の上位種だが強さはランクA、この世界一般では十分脅威なのだが、俺たちにしてみれば集団攻撃にさえ気を付ければ先程の魔皇獅子の足元にも及ばない。そして今はたったの3体。ソフィアは素早く飛び掛かってくるフェンリルをいなし、躱しながら着実にダメージを与えていた。
一方リリーシェは凄まじい勢いで魔力を体に纏うと、フェンリルに向かって手をかざした。身体から吹き荒れる紅のオーラがその手を中心に複雑な魔法陣を形成し、回転を始める。驚くべき魔法制御と展開速度だ。
魔法陣の回転数がある程度まで上がると、高まる魔力に感づいたブラックフェンリルの一匹がソフィアを飛び越えこちらへ向かってきた。しかしリリーシェは全く動じず、獰猛な笑みを浮かべてついにその魔法を解放した。
シュボッ……ドゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
僅かに手のひらから炎が立ち昇ったかと思ったその瞬間、まるでガトリングのように火球が連射された。使用している魔法は…下級魔法のファイヤーボールだがやけに小さく、ピンポン玉くらいの大きさだ。どうやらあの魔法陣で通常手のひら大の火球を圧縮、加速させ、陣を回転させて連射しているようだ。
もはや下級魔法とは呼べない炎の弾丸は、飛びかかってきたフェンリルを消し炭にしながら、こちらを見て何か叫んでいたソフィアの方に着弾して大爆発を巻き起こした。
「ふむ、まぁこんなところか」
10秒ほどで攻撃を止めたリリーシェはそんな事を言いながら魔力を解除した。もはや下級とは呼べない大魔法並みの魔力を消費したはずだが、本人はいたって変わりなく、まるで準備運動で体をほぐすかのように体の具合を確かめている。なるほど、トートが一目置くだけはあるな。
「こ、こんなにあっさり……レベル100はあったのに」
爆音の残響がこだまする空間の中、ノブヤがヨロヨロと立ち上がりながらそう呟いた。レベルと言ってたが、彼らは異世界人補正の一つで対象を簡単なパラメーター表示することが出来るそうだ。なにそれずるい、俺の時はなかったぞ……
「そ、そうだ!レイクルさん、ソフィアさんが!」
説明が終わるとノブヤがハッとして慌てながら詰め寄ってきたので、俺は着弾した方を黙って指差す。すると同時に着弾地点の土煙が渦を巻き始めた。
「……いきなりなにするんですか!このアホ吸血鬼ー!!」
そんな叫び声と共に渦巻いていた煙が消し飛び、中から翡翠のオーラを纏ったソフィアとその後ろで力なく耳を垂れ下げ震えているブラックフェンリルが現れた。
「アホとはなんじゃ!私は巻き込まれても恨むなと最初に言ったぞ!」
「兄様の1体残せって言葉聞いてましたか?明らかに全滅させるつもりでしたよね⁉︎」
もうブラックフェンリルなんて完全に忘れて言い争いを始める女子2人。というかソフィアよ、お前が狙われたことはいいのか…
「な、無事だったろ?」
「……アッハイ」
なんとも緊張感のない2人のやり取りを見ながらそう返事をするノブヤ。先程の恐怖など吹き飛んで、何か悟ったような顔をしている。
「それよりあの1体を仕留めてこい。俺がフォローするから、教えた事をちゃんと活かせよ」
そう言いながら俺はノブヤに身体強化と精神強化の魔法をかける。
「そ、そうだった……あれ?何だか力が漲るぞ」
「身体と精神強化魔法だ。ガタガタ震えられても訓練にならんからな。思いっきり行って来い!」
「はい!う、うおおおおおおおおおおお!!!」
魔法によって完全に恐怖心がなくなり、雄叫びをあげながらフェンリルに突撃するノブヤ。かなり強く魔法を掛けたため狂戦士のようになってしまっているが致し方無いだろう。徐々に効果を弱めて戦闘経験を積ませるつもりだ。
すでにブラックフェンリルはあの危険な二人から避難し立ち直っていた。ノブヤに気付くと、獰猛に牙を剥き出し矢のような早さで距離を詰め飛び掛かる。
「うおおおああああ!!!」
対するノブヤはそれを空間から取り出したタワーシールドで受け流すと素早く収納し、今度はその手にバスターソードを呼び出し叩きつけた。
臨機応変に武装を選択し戦う、これがノブヤの、収納の勇者の戦闘スタイルだ。瞬時の状況判断、使用武器での戦闘経験など課題は山積みだが、きっと他のどの勇者より強くなると俺は思っている。
ガキィィィン!!
流石のフェンリルも遮られた視界からの一撃を避けきれずまともに受けた。しかし硬質な音と火花が散るだけでほとんどダメージは受けていない。
完璧なタイミング。
だがそれだけだ。たった一撃のやり取りで盾は大きく凹み、剣も刃が欠けてしまった。
「ぐぁああああああっ!!!」
突如ノブヤが肩や腕を抑えて倒れこんだ。いくら魔法で誤魔化してもやはり身体がまだ耐えきれなかったようだ。
フェンリルは斬撃をものともせず空中で一回転すると、勝利を確信したように牙を剥き出しノブヤの喉元に喰らいつかんと再び飛び掛った。
「ふむ、まぁ最初はこんなもんだろ」
俺は頃合いだろうとすかさず龍神の剣を振るう。飛び掛かるフェンリルの横腹を駆け抜けた空色の一閃は、あんなに硬質だった毛皮を紙のように切り裂き、フェンリルを真っ二つにして絶命させた。
「た、助かりました……ありがとうございます」
「なにカッコつけてんだよアホ。でもまぁビビらなきゃ案外いい動きするじゃないか。この調子で進むぞ、怪我は心配しなくていい。頭を喰われたりしない限りは大抵治せるからな」
「は、はい……ハハハ……」
そう言いながら俺はノブヤの外れた肩を直し治癒魔法をかける。ノブヤは瞬く間に治っていく怪我と、これからの未来を想像して乾いた笑い声を上げていた。




