9話 戦いを終えて
あけましておめでとうございます!!
「……はぁ〜!疲れたぁー!」
今度こそ黒獅子を倒したことを確認し、俺は石畳の上に大の字で寝転がる。この6年間訓練してたおかげでなんとか使う事が出来た龍の息吹だが、もう“龍気"も魔力もすっからかんだ。神界にいた時は何とも無かったが、今の状態では1発が限界だ。早く力を取り戻したい。
「兄様ー!大丈夫ですか〜⁉︎」
「おー!ソフィ、終わったぞ〜」
突然俺が倒れたので驚いたのだろう。ソフィアが心配そうに壁側から駆け寄ってきた。それにしても黒獅子、本当に強敵だった。今回は彼女がいなければまず勝てなかったと思う。
「うわっ、真っ黒焦げ……。それにしても、さっきの技凄い威力でしたね!とっておきだと言うのも納得ですよ」
炭化した黒獅子を見て驚きながら歩いてきたソフィアは俺の隣に来るとそう言って地面に座り込んだ。力を回復させるため、それからしばらく2人で今回の反省や龍の息吹について話した。
「へぇー、龍神様直伝の技なのですか〜!
でも見ていましたがかなり難しそうでしたね。私にも出来るでしょうか?」
「俺の神界での最終試験だったからな。ソフィの言う通りかなり難しい。一歩制御を誤れば魔力が暴走してドカンだ。だが、今の訓練を続ければ必ず使えるようになるぞ、心配するな」
「……はい!私、頑張ります!!もっともっと強くなりますよー!」
そう言ってソフィアは楽しそうに笑う。長話をしていたら結構力が回復してきた。俺はソフィアに声を掛け、ここから脱出するべく行動を開始した。
まず荷物を取るため転移してきた場所へと向かう。鋼鉄の扉が戦いの余波で変形して開かなかったので仕方なく蹴破った。
「そういえば、何で転移に使うのが魔力じゃなくて“龍気"なのでしょうね?」
「うーん、おそらく龍神絡みの場所だとは思うんだが、何も聞いてないんだよなぁ……」
壁から松明を拝借し、干し肉をかじりながら2人で戦闘のあった場所を歩く。
「そうなんですか……あっ、奥の方に扉がありますよ!龍神様がする事ですから、もしかして何か封印されてたりするかもですね!」
「封印ねぇ、ありそうで怖いな」
そんな話をしながら歩いていると、扉の前まで辿り着いた。こうして近付いてみるとかなり大きな白い扉で、精巧な模様が彫られている。
「兄様、これは……」
「いかにもな扉だな。それに、この奥から俺の力を凄く感じるぞ」
俺達は万が一に備え、体に異常がないか確認し、いつでも戦闘に入れるように背負っていた荷物を手に持ち替える。
「ソフィ、行くぞ」
躊躇っていても仕方がない。俺はソフィアにそう声を掛け、己の目的を果たすため扉を押し開いた。
ーーーーーー
「えい!えい!この!……はぁ……はぁ」
ここへ来て1時間は経っただろうか、やっと3匹目のゴブリンを倒し、レベルが1上がった。僕は今、比較的モンスターの少ない中央の大広間にいる。この階層はモンスターの少ないこの大広間を中心に、四方に小部屋が広がっている。小部屋は結構な数のモンスターが湧くので、力を振るいたい人達はそこに散らばって狩りをしていた。
「ノブ!武器がダメになっちゃったから預けているメイス出してよ」
「はぁ……はぁ……はいはいどうぞ」
返り血でなかなか凄い絵面になっているクラスメイトの一人にそう言われ、僕は空間からメイスを取り出し彼に渡す。僕は戦闘が苦手というのもあるが、みんなのポーター役を担っているのでこの大広間で狩りをするよう言われている。
彼はそれを受け取ると、お礼もそこそこにモンスター群れなす小部屋に突入していった。走っていく背中を鑑定してみると既にレベル14になっていた。
「みんな凄いなぁ……ん?」
嬉々としてそれぞれの力を発揮してモンスターを倒しているクラスメイト達を眺めながらそう呟いていると、足元から振動が伝わってきた。
「ねぇ、何か揺れてない?」「本当だ、地震かな?」
異変を感じたのは僕だけではないようで、しばらくすると他の人達がそんなことを口にしながらモンスター狩りを中断して次々と僕のいる大広間へと戻ってきた。振動はまだ続いている。
「こういう事はよくあることなのでしょうか」
訓練に参加している全員が広場に集まると、勇輝君が騎士団長にそう質問した。
「いや、この場所は地震など滅多に起きないはずだが……落盤などされたらたまったものではないな。よし、今日は撤収するぞ」
どうやら滅多にないことらしい。安全を考えて騎士団長が撤退を指示したその時。
揺れが一際強くなると共に淡く空間を照らしていた壁が赤い光を放ち始め、揺れが大きくなった。
もはや立っていられないほどの揺れにみんなが悲鳴をあげながら地面に座り込んでいると、小部屋へ続く四方の通路が壁で塞がれ、地面が割れて階段が現れた。
しばらくすると揺れは収まり、みんな何が起きたんだと口にしながら次々と立ち上がる。
「お、おいあの階段」「え、ここが最終層じゃないの?」「もしかして隠し部屋⁉︎」
撤退することも忘れ、みんな目の前に現れた階段に興味を奪われてしまった。数人が階段へ向かおうとした時、僕達の目の前に1つの魔法陣が現れ、そこから赤い帽子を被り曲刀を持ったゴブリンが出てきた。突然の魔法陣に身構えたが、出てきたのがゴブリンなので僕達に安堵の空気が流れる……ん?何故か騎士団の表情が凍っている。
「はっ、なんだよゴブリンじゃねーか驚かせやがってよ」
そう言いながら不良3人組がゴブリンに向かって歩いて行った。
「ば、馬鹿者‼︎それに近づくんじゃない!!!」
「はぁ?ゴブリンにビビってんのかよ。偉そうにしてるくせに騎士団ってのも大した事ねーんだな」
騎士団長達が必死に引き留めるもヘラヘラ笑いながら彼らはゴブリンに向かって剣を振り下ろした。僕達もただのゴブリンに何焦ってるんだろう、と思っていた。その瞬間までは。
3人に剣を振り下ろされたゴブリンは、なんとその全てを曲刀で絶妙にいなすと跳び上がり彼らの首を斬りつけたのだ。
「え、ガッ、カヒュ……」
致命傷を負った3人はそのまま血を噴き出し倒れた。凍りついた空間の中、ゴブリンの笑い声だけが響く。僕はフリーズしかけた思考をなんとか動かし、鑑定と念じた。
【名前】 レッドキャップ
【種族】デーモン族
【レベル】76
【技能】剣術Level.7 体術Level.6
【特徴】
魔国領の奥深くや、迷宮の深層に生息する。
ゴブリンに思われがちだが全く違う種族であり、単独で行動していることや、赤い帽子と曲刀を装備していることから簡単に見分ける事が出来る。
他の人達も鑑定を使ったのだろう。固まっていた表情が徐々に青ざめ、そして次の瞬間。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
仲間が死んだことや目の前の敵がとんでもない存在だということに気付き、2層への出口へ走り出した。さらに僕達の叫び声とほぼ同時に周囲から様々な魔法陣が現れ、そこから魔物が溢れ出してきた。
「おいノブ!お前囮になれよ!」
みんな死に物狂いで外を目指す中、出口付近に黒い猪のような魔物が現れた。猪の注意を逸らすため、クラスメイトの1人がそう言って僕を突き飛ばした。
「うわぁ!そんな……」
とっさの出来事に反応出来ず、僕は猪の前に投げ出される。助けを求めるが、先頭にいる人達は気付かず、これ幸いと動きの止まった猪を迂回していき、近くにいた人達は僕から視線をそらし先頭集団へと続いていった。動いている人より止まっている僕に狙いを定めた猪が凄まじいスピードで突進してくる。
僕はほぼ反射的に、盾の勇者吉田君から預かっていたタワーシールドを装備して身を守った。数秒後、激しい衝突の衝撃と浮遊感が体を襲う。盾を持ち、錐揉み回転しながら飛んでいく中、落下地点には底の見えない階段が口を開けていた。
「え⁉︎う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
奥の方から微かに聞こえるクラスメイト達の悲鳴とモンスターの咆哮を聞きながら、僕は先の見えない闇へと吸い込まれていった。
ーーーーーー
扉を開けるとさっきの場所より少し小さめだが、かなり明るい空間が広がっていた。足元は石畳ではなく大理石になっており、光を反射して艶やかに輝いている。
「ふわぁ……兄様!あれ!あれ!」
少し歩くとソフィアがかなり興奮しながら別方向を見ていた俺を引っ張ってきた。
何かと思い視線を前に向けると、この殺風景な空間にポツンと巨大な水晶が置いてあった。
よく見るとその水晶には、綺麗な白のワンピースのような服装に、銀色の髪を肩まで伸ばした小柄な少女が封じられていた。目を閉じ自然体で佇む様はまるで芸術品のようだ。
「綺麗です……やっぱり何か封印されてましたね!女の子だとは思いませんでしたけど!」
顔を輝かせているソフィアに同意しようとした俺だが、不意に背後から自分の力を強く感じ振り向く。そこにはバランスボール大の金色の光の塊が浮いていた。
光の塊はしばらく浮いていると、徐々に形を変て人の形を取り始める。ソフィアは目の前で起きている不思議現象に呆然としていたが、その姿は俺にとっては衝撃過ぎて水晶の事なんて頭から吹き飛んでしまった。
「………トート?」
光の塊は、神界で何度も顔を合わせた黒髪ロングの俺の師匠に形を変えると、仄かな金の燐光を発しながら相変わらずのジト目で俺らを見つめていた。




