7話 はじまりの迷宮
僕達が召喚されて1ヶ月が過ぎた。最初は帰りたいと女子達が泣いていたが、魔王を倒せば帰れると言われて覚悟を決め、みんな王城で自分に与えられた勇者の異能を生かした訓練をしたり、この世界の一般常識などを教えて貰ったりして過ごしていた。ここで僕の現在のステータスを見てみよう。
【名前】 ノブヤ・サイトウ
【種族】人間族
【レベル】3
【称号】異世界人 収納の勇者
【技能】異世界人補正
(成長率増加 言語理解 鑑定術)
異空間収納術Level.2
はい、全くもってレベルが上がっておりません。戦闘向きの特性を貰った人達はどんどんレベルを上げているが、物を収納するしか出来ない僕には基礎訓練すらままならず全くレベル上げどころではなかった。
唯一の成長と言えば、小物を収納しては取り出してを繰り返していたら収納術のレベルが上がったことと、鑑定術の使い方が分かったくらいだ。鑑定術とは、念じれば目視している物の簡単な説明やステータスプレートが術者にのみ表示される物だった。
生徒会長の勇輝君は既にレベル15だ。今の所彼が僕達の中で一番レベルが高い。鑑定でこの国の人達を見てみると、普通の騎士がレベル20、剣を教えている騎士団長がレベル40、働いている文官がレベル5だった。
彼に与えられた聖剣の勇者というのは、武器使用時、武器に聖属性を付与する。状態異常耐性を得る。闇魔法使いに対して身体能力上昇というまさにザ・勇者という物だった。
僕の異能を知った人はみんな馬鹿にしてくるか可哀想な目を向けてくるばかりだった。
特に中学からずっと僕のことを荷物持ちにしている不良3人組には散々馬鹿にされた。
彼らはここへ来ても素行が悪く、メイドさんに手を出そうとした時は勇輝君達に本気で注意されてかなり不貞腐れていた。
そして今日、勇者全員が玉座の間に呼び出された。
「皆さんはここへ来てもう1ヶ月。訓練の方も順調なことですし、そろそろ城の外で訓練を始めて貰おうと思っておりますわ。貴方達のは兵士だけでなく、魔物とも戦う時が来るでしょう。そのためにまず、ここ王都にある“はじまりの迷宮”で魔物と戦ってみて下さい」
何事かと思っていると、お姫様が現れてそう言った。
「……その場所はどういう所なのですか?」
僕は名前から何と無く想像が出来たが、分からない人も当然いるので代表して勇輝君が質問する。
「はい。迷宮については皆さんにお教えしたと思いますが、この“はじまりの迷宮”は1000年ほど前に現れ、世界で始めて誕生した迷宮と言われております。500年前この迷宮を発見した初代国王は、これを使い人を集め、この国を築いたのです。昔は強力な魔物も少しはいたようですが、今では低級な魔物しか出現せず、迷宮に初挑戦する冒険者や騎士の訓練などに使用されている場所なのです」
お姫様の説明を受けると、歴史の重みを感じている人や自分の力を振るいたいと興奮している人など様々な反応をしていたが、他はそんなに危ない場所じゃなくて安心しているようだ。僕?不安で死にそうですよ。
「では、明日から迷宮へ行ってもらいますわ。それが済めばいよいよ貴方達を世界に公表し、本格的に魔王討伐へと歩んでもらいます」
頑張って下さいませ。そう言ってお姫様が退出したので、僕達も玉座の間から解散し、それぞれの訓練へと向かった。
ーーーーーーー
「迷宮へ行こうと思う」
「なんかやる気満々ですね兄様!」
Cランクに昇格した俺たちは、ギルドを出た後、ノーフィスのように拠点を固めた。今回の滞在期間は特に決めていないのでとりあえず1ヶ月分宿を取ってある。現在は夕食を食べ終え、安心と信頼の2人部屋で今後の予定を話している所だ。
「あぁ、ここに来た時から薄っすら感じていたんだがな、俺の力を感じる」
「それは……!でも兄様の力がそんな誰でも入れる迷宮に置いてありますかね?」
ソフィアの疑問は最もだ。俺も始めはそう考え、王都周辺にそれらしい場所はないか思い出そうとしていたのだが、ふと思い付いたのだ。
「……それが実は誰でも入れる迷宮じゃないとしたら?」
「兄様はあの迷宮に何か隠されていると思っているのですか⁉︎」
「考えてもみろソフィ。俺がこの前話した通り、あの迷宮は1000年前に出来たんだぞ。普通ならそれだけ時間が経てばかなり難易度の高い迷宮になる筈なのに逆に弱体化している。迷宮の魔物は寿命がないし、倒してもしばらくすれば復活するんだ。それが現れなくなったと言うことは……」
「その魔物が住んでいる別の場所がある!そういうことですか!」
ソフィアが謎は解けた!とばかりに顔を輝かせる。
「そういう事だ。確認のため明日早速潜ってみよう」
そろそろ勇者達も活動し始める頃かな。俺はそう思いながらベッドに横になる……毎回ソフィアが俺のベッドに潜ってくるのはもう気にしない事にした。
次の日、王都の近くを流れる大河を発見したのでそこの河川敷で久しぶりの早朝訓練を行い、朝食を食べると早速ギルドへ向かった。
「はじまりの迷宮へ向かいたい」
受付嬢へそう言いギルドカードを提示すると、ハンコの押された書類を渡された。これを迷宮の入り口にいる職員へ渡せば通行可能となるのだ。
ギルドを出て、何があってもいいように鍋や寝袋、干し肉などの探索用装備を整え、王都の西側にある迷宮前に到着した。
朝早く、しかもこんな初心者向けの迷宮にフル装備で挑む俺らのことを見たギルド職員に、分かるよその気持ち。初めての迷宮で張り切ってるんだろ?見たいな顔をされながら手続きを終え、俺達はついに迷宮へと足を踏み入れた。
「……これが迷宮ですか」
外の入り口から光が差し込む整備された洞窟を進みながらソフィアがそう呟く。朝早くこんな迷宮に潜る者は俺ら以外いないようでとても静かだった。
「そうだな、ここはほぼ一本道だが、他の迷宮の通路はみんなこんな感じであちこち分岐している。通路に出現する魔物もいるが基本的に開けた空間に集まっている事が多いな」
2人で話しながらどんどん進む。この迷宮は非常に簡単な構成になっており、1層が特に何もない空間、2層が軽いトラップの仕掛けられた空間、そして最後にはゴブリンなどの魔物がいるだけの全3層となっている。迷宮は壁が薄く発光しており明かりには困らない。
2層のトラップは棘の生えた落とし穴だったり鋭い岩が降ってきたり結構危険な物が多かったが、罠の位置がバレバレなのでソフィアに説明しながらサクサク進み、最下層のゴブリンや狼の顔をした人型の魔物コボルトなども蹴散らしあっという間にこじんまりとした場所に辿り着いた。
「兄様、行き止まりですね」
ソフィアがパンパンに膨れた大きなリュックを背負い直しながらそう呟く。本来ならポーターと呼ばれる専用の荷物持ちを仲間にするのが基本なのだが、この程度なら背負いながらでも動けるので2人でそれぞれの荷物を持っている。
「だがさっきよりかなり強く力を感じるぞ。恐らくこの下……ん?」
行き止まりの壁を触っていると妙な溝が走っているのに気付いた。土埃が付着して隠れていたようだ。その溝をなぞっていくとそれは地面に向かって伸びており……
「兄様、何してるんですか?下なら地面に穴を開ければ続いてるかもしれませんよ!」
この部屋の中央部に収束していた。この溝はトートに教えて貰ったことがある。確か魔力を流し込むと起動するタイプの装置に使われていたような気が……
「な、なぁソフィ。この溝「兄様ー?とりあえずやってみますよー」⁉︎」
俺がその考えをソフィアに伝えようと振り返ると、ちょうどソフィアが脚に“龍気"を纏わせ振りかぶっていたところだった。
「おい!ソフィ!ちょっと待t「せーのっ!」」
俺の制止も虚しくその脚を振り下ろし地面を踏みつけた。ドゴォォン!と言う衝撃が響いたが地面は傷一つ付いておらず、代わりに下の方からパキンッと言う音が聞こえた。
次の瞬間、ソフィアの纏っていた翡翠の“龍気"が溝にどんどん伝わり模様を描いていく。それはまるで魔法陣のようだった。
「うえぇ⁉︎な、なんですかこれ!!」
「馬鹿野郎!待てと言っただろ!恐らくこれは“龍気"に反応する魔法陣だ!!行き止まりにあるってことは転移m」
溝全てに“龍気"が行き渡り、魔法陣が完成したその瞬間。一際大きな光が部屋を満たし、俺達を包み込んだ。
「おい、ソフィ!!大丈夫か!」
「……なんともないですよ兄様〜!」
眩い光が収まり目を開けると、そこは先程とは違う薄暗い空間だった。黒い岩を削って作り上げたようなこじんまりとしたその空間は何故か着いている松明の光によって照らされている。足元を確認してみると先程と同じような溝が走っていたので俺は“龍気"を流してみる。金色の光が溝に走り魔法陣を構築し始めるが、完成した瞬間光が弾けて魔法陣が消えてしまった。
「兄様、さっき転移する前にパキンッて音が聞こえたような気がしたんですけど……」
ソフィアが申し訳無さそうな表情でそう言ってくる。
「あれが埋め込み式の魔導装置だったとすると……ソフィ、壊したな」
「す、すいませんでしたぁぁぁぁ!!!」
地面にめり込むかという勢いで頭を下げるソフィア。こうしていても埒があかないので、ここに荷物を下ろし、目の前の扉を開けて先へ進んでみる。
重厚な鉄の扉が錆び付いた甲高い音を出しながら開くと、黒い岩を掘り抜いたような空間がそこにも広がっていた。扉から一歩踏み出すと、突然次々と松明に火が灯りこの場を照らす。
「あ、兄様……あれ……」
ソフィアがすごい嫌そうな顔をしながら指差す先へ目を向けると、中央にかなり大きな黒い塊があった。警戒しながら中央に向かって歩くと、突如その塊が動き出し、俺達の方を向くと4足の脚で立ち上がった。
「おいおいマジかよ……」
その塊の正体は、漆黒の毛皮に覆われた巨大な獅子だった。
初心者向けの迷宮(大嘘)




