3話 これからの目標
突然勇者召喚された僕達は混乱がある程度収まると、金髪美少女とその仲間に豪勢な玉座の間に連れて行かれた。
貴族っぽい人達や武装した騎士に左右を挟まれ気押されていると、目の前の玉座に座っていた王様が、僕達を一瞥した後金髪美少女に問いかける。
「どうやら無事に成功したようだなアネットよ。して、どの者が勇者なのだ?」
「はいお父様。ここにいる皆さんが勇者だと思われますわ」
綺麗な人だと思っていたらお姫様だった。アネットと呼ばれたその人は王様にそう言うとこっちに振り返って口を開いた。
「皆さん、異世界から召喚された者は勇者としての異能を1つ授けられ、
更には"すてえたす"なる物を見る事が出来ると文献に書かれておりました。"すてえたす "と口に出してみて下さいませ」
そう言われて最初はみんなぽかんとしていたが、次々にステータスと口にすると、目の前に半透明のウィンドウが出ていた。これは他の人にも見えるらしく、みんな珍しそうにステータスを見せ合ったり、ウィンドウを閉じたり開いたりしていた。
「勇輝凄いじゃん!聖剣の勇者だって!」
勇輝君のウィンドウを覗き込んでいた生徒会の望月明日香さんがそう言って声を上げた。
その声に周囲もざわつく。
聖剣の勇者か、なんか凄そうだな。
これは昔から体が弱くて荷物持ちばっかりやらされていた僕にも活躍できるチャンスがあるかもしれない!そう期待を込めてステータスと唱えた。
【名前】 ノブヤ・サイトウ
【種族】人間族
【レベル】1
【称号】異世界人 収納の勇者
【技能】異世界人補正
(成長率増加 言語理解 鑑定術)
異空間収納術Level.1
「収納の勇者ってなんだよぉ!」
勇ましく収納するってどんな奴だよ!
僕の悲鳴は虚しく玉座に響き渡った。
ーーーーーー
「兄様!こ、こんなに沢山人間がいるんですか⁉︎」
仮身分証を貰い、街に足を踏み入れた俺たちは冒険者ギルド目指して大通りを歩いていた。街の活気にソフィアは興味津々でキョロキョロ辺りを眺めている。沢山の人の中、ソフィアの容姿と服装は大いに視線を集めていたが、本人はそれどころではないようだ。
少し歩くと目的地に到着した。ギルドは木造2階建てで、隣に酒場が隣接している。俺たちは両開きの扉を押して中へ入った。
ギルドの中は割と綺麗で、正面に3つカウンターがあり、その隣に2階へ向かう階段が付いていた。カウンター向かって左にはコルクボードに依頼書が貼ってあり、右側は酒場に続いている。
午後で依頼に行っているのか冒険者の数は少なかったが、ギルドの中にいた冒険者は入ってきた俺らを見ると話を止めてヒソヒソとお互い話し始めた。俺は気にせず、ソフィアの手を引いて空いているカウンターへ向かう。受付は女の人だった。
「ようこそ冒険者ギルドノーフィス支部へ!ご用件は何でしょう?」
「2人共冒険者登録をしに来た」
「登録ですね。ではこちらの用紙に必要事項を書き込んで下さい。代筆は?」
「必要ない」
「畏まりました。記入を終えたら私の元へ用紙と羽ペンを返却して下さい」
そう言うと受付嬢は羊皮紙と羽ペンを渡してきた。カウンターの近くにあるテーブルに腰掛け2人で記入をする。この世界の言語は一部特殊な言語を扱う種族はいるが、基本共通だ。
ソフィアには村で読み書きを教えているので問題はない。
記入欄には、名前、種族、戦闘タイプ、使用魔法属性 と書かれていた。
「兄様、この使用魔法属性って普通は全部使えるのでは?」
「それは龍人種と魔族だけだ。他の種族は基本1つか2つ。才能があるやつはもっと多かったり全部使えたりするくらいだ。魔族は魔力量が多くて闇魔法が得意、人間族は他人と組み合わせて魔法を使ったり、大人数で大魔法を唱えたりするのが得意だな」
「へぇ〜!私達には“龍気"がありますし、基本的な魔法が使えれば問題ないですね!」
「まぁな。だけど強くなりたいなら何でもかんでも増幅させてないでちゃんと色々な魔法を覚えろよ」
そんな話をしながら記入を終えて受付嬢に持っていく。
「はい、ありがとうございます……って天龍族⁉︎」
「そうだが、何か?」
「失礼しました!初めて見たもので……え、えーと戦闘タイプは……ソフィアさんが近接格闘で、レイクルさんは……ぜ、全部?」
「あぁ、近接も遠距離もそこそこ出来るぞ」
「地龍族もそうですがやっぱり天龍族も凄いんですね……了解しました。ではオールラウンダーで登録しますね」
魔法属性についても、天龍族ならと一人納得すると、カウンターの奥に下がっていった。おそらく登録手続きをしているのだろう。しばらくして戻ってきた受付嬢から、銀で出来た手のひらサイズのカードをそれぞれ渡された。
「お待たせしました!これがギルドカードになります。ギルドについて説明致しますか?」
「いや、知っているので大丈夫だ。ありがとう」
神界でエルマに教えて貰っているので問題ない。後でソフィアに教えやる事にして、俺達はギルドを後にした。
日用品を買い揃え、宿へと向かう。しばらくはここを拠点にするので1ヶ月程宿を取ったのだが、ソフィアのゴリ押しで2人部屋になってしまった。髪の色や会話から兄妹だと思われたのだろう。受付してくれた宿のおばさんの目が優しかった。今は夕食を食べ終え、2人で部屋のベッドに腰掛けている。格好は村から持ってきた部屋着だ。
「はぁ〜疲れましたね兄様。それに私達の種族って珍しいんですね〜初めて知りましたよ」
「地龍族は世界中に散らばっているからそうでもないが、天龍族は基本的に山から下りないし、海龍族は島国から出てこないから結構珍しいかもな。そうだソフィに冒険者ギルドの説明と今後の目標を教えておこう」
「あ!それ私凄く気になってました!」
俺は懐からギルドカードを取り出し説明を始める。
「まずギルドにはランクがある。上からS、A、B、C、D、Eだな。ほら、カードの右上にEって書いてるだろ?最初は誰でもEからスタートで依頼を20件連続達成で昇格だ。ただしCランクからは昇格試験がある。依頼も難易度によってランク分けされていて、自分より上のランクと1つより下のランクは受ける事が出来ないんだ」
「どうしてですか?」
「実力不足で死なれても困るから、と下のランクの奴らの仕事を奪わないようにだな。ギルドについてはこれだけだ」
「なるほど〜。じゃあ次は私達の今後の目標ですね!」
「俺が考えているとりあえずの目標は冒険者ランクをさっさとCに上げることと、地龍族に会う事だ」
「何故Cランクなのですか?」
「Cランクから迷宮に入れるようになるんだ。迷宮ってのは……まぁ行けば分かる。地下にある魔物が沢山いる場所だと思ってくれ。それで何故迷宮に行きたいかというと、ソフィに経験を積ませたいってのもあるが、俺の力を探す為でもあるんだ」
「確か、兄様の力って5つに分かれて世界中に散らばっているんですよね?」
「そうだ。俺が転生する前に、力を拡散させたトート……魔法神が、悪用されないような安全な場所へ分散させるって言っていたんだ。そんな場所とは何処だろうと考えていたんだが、すぐ思い付いたのが海の底、山の上、そして迷宮の3つだったんだ」
「なるほど……確かに悪用されない場所となるとそういう危険地帯にありそうですね。地龍族に会うのは、あの神託についてですか?」
「あぁ、こんな平和な時に勇者召喚とか絶対ロクでもない事考えてるからな。世情に詳しい地龍族と協力していきたい」
「兄様は龍神としてどんな事をするつもりなのですか?」
「確定事項としては、召喚陣の封印もしくは破壊と召喚者にペナルティを与える。出来れば来た奴らを送り返す。ただこれらをやるにはまだまだ力が足りなくてなぁ……だからさっきの迷宮の話になる訳だ。他に直接制裁を加えるのは……そうだなぁ、召喚された奴らが好き勝手に暴れ始めた時になるかな。基本的に俺じゃなくてこの世界の者達で立ち向かって欲しいから、そうなるように色々動くつもりだ。勿論ソフィ、お前も頼りにしてるぞ」
「あ、兄様……!」
「はい、分かったらもう寝るぞ!明日から早朝訓練も再開するからな〜」
そう言って俺はベッドに横になった。すると何かがモゾモゾと俺の背中にくっついて来る。
「おいソフィ、隣のベッドがあるだろ」
「ひ、久しぶりに兄様と一緒に寝たいです!」
「ベッドから落ちても知らないからな」
横になったら眠くなってきたのでもうどうでも良くなってきた。見た目は13歳くらいだが、まだ6歳だ。初めての旅で心細いのだろうと勝手に解釈して俺は瞼を閉じた。