7話 剣と思い
なんか中途半端になっちゃいました。センセンシャル!
「……ふぃ〜〜」
頭が爆散してしまったジェネラルグリズリーを確認すると、“龍気"をほとんど使い切ったソフィアが気の抜けた声を出して座り込んだ。それを見た他のメンバーも戦闘が終わったと認識し始め、徐々に空気が緩んでいく。
「ロッソは大丈夫か?」
「ええ、気を失ってるだけみたい」
「そうか……」
俺が今回の原因の安否を確認すると、介抱していたアーニアがそう答える。
「なんとか上手くいきましたね兄様、と言うかさっきの技は一体?なんか熊さんがいきなり灰色になっちゃいましたけど」
「あぁ、さっきの技は“龍気"を瞬間的に掌に纏って衝撃波を出す技だ。あぁいう装甲が厚い敵に有効なんだ、今回は確実に怯ませるために一番柔らかいところを狙った。ソフィは“龍気"を瞬間的に展開出来るようにならないと無理だな」
「なんと!むむむ……頑張ります」
そう言って座り込みながら眉をしかめているソフィアに、あの熊はジェネラルグリズリーと言う名前で……と特徴や今回の攻略法を説明した。確かに番人なだけはある、龍人族といえどまともに戦ったら苦戦は避けられないだろう。
「でも、どうしてそんなこと知っているんだい?」
「まぁ、そのうち分かるさ」
入り口の方からやっと到着した大人達の声が聞こえてきたので、話を聞いていたエルネスの至極真っ当な疑問を適当にはぐらかして、俺は目的である洞窟の奥へと足を進めた。
「……兄様?そっちは祠ですよ?」
「あぁ、折角ここまで来たんだから見ていこうと思ってな」
「私も見たいです!」
座り込んでグダッとしていたソフィアが、そう言うや否や跳ね起きて俺に付いてきた。
「ここは……凄いな」
「ふぁ〜一面氷で綺麗です……」
祠と呼ばれるその場所は、まるで氷で出来た神殿のようだった。氷漬けになった壁、地面、天井は青白く光を反射していて、四方からはまるで氷の彫刻のような氷柱が天井を支えていた。
中央には透き通った氷の樹が生えており、その中には艶消しした黒色に所々空色の線が走る鞘に入った一振りの剣が封じられていた。更に奥の方に氷漬けの棺が見えたが、おそらくあそこに龍神の器が置いてあるのだろう。
「あれか……」
「兄様?」
氷の樹に向かって真っ直ぐ進む俺にソフィアが声を掛けてくるが、構わず進む。
樹の前まで辿り着き、改めて時間氷結封印であることを確認すると右手で樹に触れる。
「兄様、剣が欲しいんですか?もう6年も誰も取れていないんですよ?いくら兄様でも……⁉︎」
ソフィアがそう言った瞬間。俺は掌から“龍気"を発生させ、一定のリズムで氷に浸透させる。最初はゆっくり、単調なリズムで金色の波動が氷に響き渡る。次は徐々に間隔を狭めて……最後は心臓の鼓動のようなリズムで……
しばらくすると樹が俺と同じ“龍気"の光を薄っすらと発し始めた。それを確認した俺は“龍気"の供給を止め、今度は火の魔力を纏って氷に触れると
「あ、兄様!氷が!!」
そう、氷が溶け始めたのである。この光が収まるとまた氷結してしまうので素早く溶かしていき、遂に柱から剣を引き抜いた。
「はぁ……はぁ……ギリギリ間に合った」
6年かけて鍛えたが、ジェネラルグリズリーで消費したとはいえ封印解除でここまでギリギリだと弱体化し過ぎて笑えてくる。何とかして分散した力を取り戻さねば。封印が解かれた剣は、付着していた氷が解け、俺の“龍気"に反応して鞘に走る空色の線が淡く輝いていた。
「あ……」
「あ?」
「あ〜に〜さ〜ま〜!!!!」
「グッハァッ!」
まさか剣を引き抜くとは思っていなかったのだろう。どうやって取ったのかという疑問より俺が剣を引き抜いたという事実に感極まったソフィアが凄まじいスピードで抱きついてきた。“龍気"が尽きかけて弱体化している俺にはかなり堪えた。転生してから一番のダメージのような気がする……。
やけに幅広い鞘だと思い剣を抜くと、片刃の長剣だった。峰側が黒く先端に向けて細くなり、そこから生えたかのように白銀の刃が走る。刀身にも所々に空色の線が入っており、非常に美しく芸術的な剣だ。
これでようやく旅が始まる。その事実に胸を躍らせながら、俺にくっついて褒めちぎっているソフィアを引きずって祠を後にしたのであった。
「あ、レイクル!ソフィア!何してたんだい?」
「ん?ほら」
「ほらって……えっ、その剣……」
ロッソを助けた広場へ戻るとジェネラルグリズリーを解体している大人と共にエルネスがいて、俺に気付いて声をかけてきた。その声で大人達も気付いたが
、俺が持っている剣を見て固まっていた。
「お、おいあの剣……」「嘘だろ……?」「6年間誰も取れなかったのに……」ざわめき出した集団の中から父さんが苦笑いしながら出てきた。
「おおレイクル、信じらんねぇが番人をぶっ倒したらしいな。勝手に出て行ったことやその剣についてやら言いたいこと聞きたいことが山ほどあるが……」
「話は帰ってからね。オババにも、そして父さん達にも伝えたいことがあるんだ。ところでロッソとアーニアは?」
「そうか……あいつらなら先に帰ったぞ。ロッソはまだ起きなくてな、あいつの親父が担いで行った。ここにいるのは番人を解体している男衆だけだ。勝手に解体しちまってるけど別に良いよな?」
「あぁ、構わないよ。俺ら解体道具持ってきてないし」
ソフィアもうんうんと頷いている。
「全く……大人達でも部が悪すぎて相手にしない番人の頭を爆散させるとは……お前もソフィアもどうなってるんだよ」
「ははは……まぁその話も後でね、帰るぞソフィ、エルネス。父さんも解体頑張ってね」
「あ、おい!」
一緒に帰るぞとか解体手伝えとか言っている父さんの声を聞き流し、俺たちは重たい体を引きずりながら洞窟を後にしたのであった。
ーーーーーーーー
初めてその子に会った時、俺は衝撃を受けた。真ん中で分けたショートヘアーに少しつり上がった大きな瞳。ソフィアと言うらしい。照れながらも嬉しそうに挨拶してきたその子を見たら、顔が熱くなって心臓が高なった。一体どうしちまったんだ俺。つい舞い上がっちまって、祠から剣を取って守るって言ったら、頑張ってね と言われた。冗談で言ったつもりだったが、いつかは取りに行きたいと思った。
次の日から皆んなでソフィアと遊ぶようになった。あの子と話をしていると、顔が熱くなってついつい自慢話をしちまう。それでも楽しそうに聞いてくれて、毎日が楽しかった。でも何故かアーニアが不機嫌だった、変な奴だ。
あの子はレイクルと仲が良い。兄弟じゃないのにいつも兄様兄様って…俺も呼んで欲しいけど、俺は最年長なんだ。良いところ見せまくって、向こうから自然と呼んでくれるような男になりたい。
レイクルと言えば、あいつは不思議な奴だ。年下のくせにやけに物静かで、いつもこう……なんというか、大人が子供を見守るような目をしている。態度の端々にも大人の雰囲気が出ていて、たまに俺が年下のような感覚になる。年下のくせに……何か悔しい。
ソフィアが3歳になった時、皆んなで狩りに出かけた。狩りには結構前から行っているので自信がある。あの子に年上として良いところを見せやりたいと思ったが、ヤークを仕留め損ねてしまった。恥ずかしくてそのまま俯こうとしたらヤークの首に穴が開いて倒れた。
何だ⁉︎誰が、何処から?
親父がサポートしてくれたんだろう。そう思って振り向くと、弓を撃ったのはあいつだった。
レイクルだった。あの威力、精度、どれも取っても俺には無理だった。負けた、年下の、それもまだ狩りに出たばっかりのあいつに。
みんなに、ソフィアに褒めらているあいつを見ていたら、俺は目の前が真っ暗になった。