『ボク』は家に帰ります!
総合評価50pt越えました!!皆様の感想と評価が作者の原動力です。
「……はよー、……きて」
――う〜ん、だれだあ?
「ワウ」バシッ
イテッ、いま顔が叩かれた。ああ、このモフモフ感はリツだな。呼ばれてるし、起きますか。目を開けると元の大きさに戻ったリツと眉をちょっと下げた子がいた。
「ふぁぁぁぁ、リツ、ポルンおはよー」
朝の挨拶は大事だよね。2人に挨拶したら、ポルンが驚いたといわんばかりの顔をした。え、もしかして別の子と間違えた!?
「すごいねー。僕たちは別の種族には同じ顔にしか見えないって言われるんだ。間違わないのは魔力探知が得意な人だけだよ」
「……えっと、ゴメン。3人とも声や表情に特徴あるから覚えてただけです。」
見分けがついたわけじゃないんだよー!?純粋にすごいとキラキラした眼差しで見てくる……やめてーそんな眼で私を見ないでー!!
脇でこっそりリツが笑ってやがる!?ここに味方はいないのか!?頭を抱えていると、
「あの、昨日は身体洗ってないよね?人はお風呂に入るって聞いたから……」
あーお風呂かー入りたいけどなーどーしよーかなー
「ももももしかして違ってた!?ごめんなさい、ごめんなさい」
「いやいやいや、合ってるよ!!お風呂の心配してくれてありがとー!ポルンは気が利くね〜」
ヤベェ、顔に出てたか!?
……実は、私の家は田舎の築30年経つボロアパートなんです。なので風呂が付いてなくてしかもビンボーです。風呂は1週間に1、2回しか入らないんですよ。それ以外は髪を台所で洗い、身体を拭いてるんです。だから、こう、1人で使えと言われると貧乏性が顔を出すんだよね……
「僕が、余計なこと言ったから……迷惑だよね、うう」
うわわわわ、今にも泣きそうだよ、どうすればいいんだ!?………………そうだ、コレでいこう!!
「ね、ねえ、こう一発で身体も服もキレイにできる魔法ってないかな?あったら見てみたいな〜」
「…………グスッ、魔法あるけど、使って良いの?」
よし、乗ってきた!
「もちろん!!魔法見てみたい!!」
「うん、分かったよ。そっちのオオカミも一緒にキレイにするね」
ふう〜上手くいってよかったよ。どんな魔法なんだろう、ドキドキするよ。
「『清めの水』!」
ポルンが唱えると、身体中を水が包み込んで一瞬に消えた。身体は一切濡れていません。
「す、すごい……」
埃や血で汚れてた服が綺麗になってる……!リツも毛並みが良くなってるし♪あ、まずい、服が酷い状態だったならベッドも……あれ、昨日と同じ綺麗なままだ。
「えへへ、魔法は得意なんだ。ベッドもキレイにしたよ」
「ん〜〜〜〜すごい、ホントにすごいよポルン!!ありがとう!!」
「わわっ」
思わず、手を握ってブンブン振ってしまった。だってすごいよ、お風呂と洗濯要らずだよ!?銭湯とクリーニング店廃業するよ!?リツも尻尾ブンブン振っててご機嫌だ。
「こんなに喜んでもらえたの初めてだよ。あ、ご飯の時間はもう終わっちゃったけど、食堂にご飯とっといてもらってるから行こ?それと……ありがとう」
「????」
よくわからないけど、お礼言われた。ちょっと考えてたら、リツに服くわえて引っ張られた。ホワッ!?ポルンがいない!?置いてかれた!と、とりあえず食堂にレッツゴー!
食堂に着きました。昨日と違って何人か人がいるなあ。……え、人じゃないって?だって「1妖精、2妖精」って数えるのめんどくさいじゃないか。
「キミが噂の『迷い人』かい?ぼくはトゥッタ、食堂の責任者だよ。食堂は決まった時間しかやってないから、時間外に食べるときは前もって言ってもらえれば取っておくから。厨房もちゃんと片付けるなら使ってもいいからね」
下らないこと考えてたら、新妖精さん登場。ということは昨日のご飯もトゥッタさん作!?
「あ、あのありがとうございます。昨日のスープ美味しかったです」
「そりゃ、良かった。昨日はちょっとだけ残ったからこっちも鍋が空いて大助かりさ。ま、早くご飯たべちゃってよ。長老が待ってるからさ」
あ、長老様に挨拶忘れてたよ…そういえば最初に飛び込んできそうなパウルと説明したがりそうなペーターがいない。
「パウルは畑の手伝い、ペーターは行商から帰った仲間の手伝いにいってるよ。長老様のお話が終わったら案内するよ」
と、ポルンがお盆を持ってきて話してくれた。し、しまった、また自分で取りに行かなかった。
「ポルン、私の分とリツの分、持ってきてくれてありがとう。片付けは自分でするよ」
「わかったよ。食べてる間は厨房の手伝いしてるから……終わったら声かけてね?」
「はい、わかりました!」
不安そうに言ったので敬礼して真面目な顔をしてみたら、笑って厨房にいった。さてさて、本日のメニューは何かな?
えーリツのご飯はガッツリ骨付き肉です。骨付き肉ってロマンだよね。それに昨日と同じミルクです。
私の分は、昨日のメニュープラスふわふわオムレツです。中にジャガイモ等が入ってます。お、おいひぃ〜ほっぺが落ちちゃうよ。
「ご馳走さまでした」
ふふぁ、美味しかったー。リツも食べ終わったみたいだし、片付けますか。
「トゥッタさん、ポルン、ご馳走さまでした。とっても美味しかったです。食器洗うの手伝います」
「ホイホーイ、ありがと。食器はそのまま置いといていいよ。ポルン、こっちは大丈夫だから長老の所に案内してやんなよ」
「あ、じゃこれが終わったら……よし、終わり。それじゃいこっか」
食堂を出て案内されたのは、たくさんの本が置いてある部屋だった。机と椅子がいくつかあって学校の図書室ミニバージョンみたいなかんじです。
長老様は窓際の椅子に座って寛いでいた。
「おはようございます、長老様。おかげでゆっくり眠れました。」
「フォッ、フォッそれは良かった。フム……ポルンや『迷い人』の服がボロボロじゃ。数着持ってきなさい。そこのオオカミも手伝ってくれると助かるのう」
「えっそこまでお世話になるわけには……」
「……服ボロボロだと、風邪引くよ?人は風邪ひいて大変だって聞いた」
ヴッッ、痛いところをつかれた。着替えも持ってないし素直に貰っとこう。
「何から何までありがとうございます。リツごめん、手伝ってもらえるかな?」
ワンと一鳴きすると、ポルンと一緒に部屋を出ていった。2人の足音が聞こえなくなった頃、長老様が口を開いた。
「さて、昨日の続きといこうかのう。の前にお前さんにとって一番重要なことを話そう」
重々しい口調で話始めた。……一番重要なこと?
「『迷い人』は帰れない」
「今、なんて言いましたか!?」
「『迷い人』は元の世界に帰れないと言ったのじゃ。今までに『迷い人』が帰ったという話は聞いたことがない。まあ、こちらで幸せな生涯を送った者も――」
音が、聞こえなくなった。
――息が苦しい、脈を打つ音がうるさい、心臓が鷲掴みされたように痛い。
「――今のは、冗談ですよね?嘘だと、いって下さい…!」
「信じたくないと思うが、事実じゃ」
いやだ、いやだいやだいやだ――――!!!
「…………けるな、帰れないなんて誰が決めたんですか!!私は――いや『ボク』は帰ります!何年、何十年かかろうと帰ります!!」
「そう言って、旅立つ『迷い人』もおったが、ある者は力尽き息絶え、ある者は絶望し、失意の中死んでいった。他には、この世界で愛する者と生きる道を選んだ者もおる。……ここまで聞いても、まだ『帰る』と言うのか」
……狼に襲われたことを思い出す。
「……確かにあなたの言う通りかも知れない。『ボク』は自分の身も守れないただの子供です。けど、それは帰るのを諦める理由にはなりません!家族を忘れて幸せに生きることもしたくない……帰った人がいないなら『ボク』が最初の一人になってみせます!!」
涙混じりに叫んだ。すると難しい顔をしていた長老様がいきなり大声で笑いだした。
「フォーーーーホッ、ホッ、ホッ。どうやらお前さんは儂が会った『迷い人』たちとは違うのう。好きにしなさい、そもそも儂が止める権利もないしのう。」
「!!ありがとう…ございます」
「さて、それじゃあお主はこれからどうするんじゃ?そろそろ名前も聞きたいんじゃが。いつまでも『迷い人』じゃ味気ないしのう」
「名前は……新しく考えます。しばらく『私』はお休みします」
思い浮かぶのは昨日見た夜空に浮かぶ美しい月……よし、名前は決めた。名字はどうしよう、お母さんの旧姓使おうかな?けどこの世界で被る人が万一いても困るしなあ。一部変えればいいのかも?う〜んう〜ん難しいなあ。
「そろそろ決まったかのう?」
「はい、決めました。――――ボクの名前は『咲夜』、『時舘咲夜』です」
主人公の名前、10話にして登場です(笑)咲夜のことを温かく見守って頂ければ幸いです。
次回、「お願い」です。いやホント、そのまんまです。




