病み叫喚。
あ~あ部員集めったって、くっそ、当てなんかないって言っただろ。
なんだかんだでまたもや巻き込まれた俺は、放課後校門近くの電柱で、友達を待つ振りをして一人寂しく『品定め』していた。
なぜに校門かというとだな、友達どころか話す奴もいない俺には毎日帰宅する生徒で溢れる校門、特に正門側は人探しにはうってつけだった。教室とかで人をジロジロ視ていたら変な噂を流されかねないしな。
多分「ねぇあいつ、なんかアミの事ジロジロ視てない? マジキモいんですけどぉ(笑)」とか何だか有りもしない事言われ、そして遊び半分でそのことを本人に伝えられ「えぇ~(笑) 超キモイわ~(笑)」とか言って遊ぶのである……。流石に考え過ぎだな。
実際のところは「え? あんな奴いたっけ?」で会話が止まるんだろうな……。
さ、そんなアホらしい考えていたら何人か見逃してしまったようだ。俺のことなど気づきもせずに友達と談笑しながら一人二人と目の前を生徒が通りすぎていく。
うーむどうしたものか、やはりなかなか気の弱そうなやつが見当たらない。え? そりゃ、強引に勧誘したら入ってくれそうなやつの方がいいじゃん。
そう、今の時間は帰宅部以外部活中なのでここにはほぼ帰宅部しか通らない、ということは気の弱そうな奴が多いってわけよ。そう、ただの偏見である。
だが。ご存知の通り気の弱そうな奴は皆無で、普通のやつしか通らない。ちなみに普通のやつとは、普通に友達がいそうで普通な性格していそうでクラスでも普通の立場にありそうな。要するに普通の奴。
そんな普通のやつでさえ俺は話せない。嬢ヶ丘と話せたのは変人で何にも気を使う必要が無いと思ったからなのでな。
ふと校門付近を見ると女生徒の集団ができていた、うわぁ……一番嫌なやつじゃん、ああいう集団は横を通ると必ずと言っていいほどジロジロ見てくる。あ、ひそひそ話も追加で。
(おっ……)
その女生徒集団の中に一際目を引く存在があった、笑顔を絶やさずに友達と談笑している一人の女生徒。少し強い風が吹くと、さらさらとその風をなだめるように落ちてゆく黒髪の長髪はとても清楚な印象を与えられる、明らかにその周りの女生徒とは違うものを感じた。
いかにも優等生お嬢様で誰からも慕われているといった感じだな、ほらあの笑っている時に手を口元に持っていく動作とか最高にお嬢様っぽい。おまけに顔もかなり整っている。と思う、俺の感性で言えば好きでもなければ嫌いでもない顔だが。他の奴からすれば二度見はしてしまう顔立ちや佇まいであるということは俺でも分かり得る。
それはそうとあいつは自分の顔がそうとうお気に入りらしい、先ほどからひっきりなしに顔をいじくっている。
あっ…………なるほどな。
ここでとある事に気がついた。
そういうことか。あいつもあいつなりに苦労している事があるみたいだな。
(これは思わぬ収穫だな、さっそく嬢ヶ丘に報告してやろうか)
おっと何だか軽蔑の視線を感じると思ったらついニヤッとしてしまっていたようだ。
口を元に戻し、用は済んだのでその女生徒の顔を脳裏に焼き付け、その場からさっさと去ることにした。
帰路につき、例の自販機の前を通り過ぎ、もう少しで家に到着といったところであることを思い出した、俺嬢ヶ丘の連絡先知らねぇじゃん。
どうしたものか、せっかく珍しくこちらから連絡してやろうと思っていたのに、しかもいい知らせだ。
まあ、考えていても仕方ないしとりあえず帰るが。
この間嬢ヶ丘が来た時とは裏腹に、軽く感じる玄関の扉を開いた。
家にはまだ誰も帰っていないみたいで、とても静かだ。床を踏む音や部屋の扉を開く音だけがさほど広くない室内に響き渡る。
タンスから適当なパジャマを取り出し、そそくさと風呂に向かう。
(シャワーでいいか……)
当然お湯が沸いているはずもなく、シャワーで軽く済ませることにする、スマホも脱衣所に置き、たいして疲れていないであろう身体を癒やしに行こう。
※ ※ ※ ※ ※
風呂から上がり着替えている最中、ふいにスマホのライトが緑に輝き着信があったことを知らせていた。どうせ親からであることを悟り先に着替えてしまう事にした。
多分さっきちらっと見かけたリビングのテーブルに置いてあったおかずを温めろといた内容だろうしな。
と思った矢先、着信音が鳴り響いた。
なんだ珍しいな、いつもは一度でなかったら掛け直してこないのに。着替えも終わり、冷やしてあるココアを飲もうとスマホを持って脱衣所を出て行く。
ん? 画面を見ると登録していない番号からだった。誰だろうと脳に検索をかけようとした、が俺はなんとなく分かった。
これ嬢ヶ丘だろ。でなけりゃいたずらだな。
なんで分かるかってそれはな……。親以外に誰から電話なんざ掛かってくるんだ。そんなもんこの前ひっさびさにまともに話した同年代である嬢ヶ丘しかあり得ないだろう。
ひとまず通話してみるとするか。ふぅ、緊張するな。落ち着け、クールになれ俺。
「あ、はい」
「あ。やっと出た」
なんかやたらキレてるように聞こえるのだが思い違いだろうか。
ふと確認してみると、なんということだ、着信が十六回も来ていたのである。
うっわぁ……こいつマジでホラー映画の中の住人なんじゃねぇの……。たぶんその手の役やらせたらそこらの役者よりリアリティはあるかもな……。
「実さん、なんで何回も掛けてるのに出てくれないんです」
やっべぇ、マジで怖すぎるだろ、「今、家の前に居るの」とか言っても何もおかしくない様相だ、もしくは暗い部屋の隅で俯きながら電話しているという光景が目に浮かぶ。
嬢ヶ丘パイセンマジパないっす。
「いやぁすまんすまん、風呂入ってたんだ」
こういう時は申し訳無さそうに言うと空気が重くなるほうにまっしぐらだからな。ちょっと軽めに言ってみた、気も楽だしな。
「は、そうですか。それで、いい人見つかりましたか」
おい。
全然効果ないんだが?
正直これいじょう機嫌悪くなられると気まずくて喋れなくなるので、ここらで良い報告を聞かせて機嫌を取りにかかる。
「ああ、その話なんだが、いい奴が見つかったぞ」。
「とーっても頼りになりそうな奴がな」。
「…………」
へんじがない。 ただの しかばねのようだ。
「…………ふーん」。
……と おもったら へんじを した!
「それは……とても嬉しいですぅ!」
「その方のことについて聞かせてくださいよ!」
おっと、一瞬機嫌治ってないかと焦ったが大丈夫そうだな。なんだよこの無駄な緊張感。
「じゃあ明日の放課後、正門に来られるか? そこで待ってればそのうち姿を現すと思うんだが。恐らく多分」。
「なんですかその曖昧なのは! 紹介するならアポぐらい取っておいてくださいよ!!」
あぁ、やっぱこいつめんどくせぇ。あんな女生徒が集団で話しているところに割り込んで勧誘なんぞできるわけがない。
「アポなんか取れるわけねぇだろ、まず話しかけることすら叶わん」
「そこは…………部員確保のために頑張ってくださいよ!」
「まぁ落ち着けよ、結構いい人材だと思うぞ、いろいろと役に立ちそうだし使えそうだ」。
何より俺たちには持ち合わせてない「人望」というものがあいつにはあるからな、これは使い方によっては大きな力になり得る。
「使えそうって…………道具じゃないんですから」
「はぁ、とりあえずは明日、正門で待ってますね」
「ああ、そうしてくれ」
ツーツーと電話の切れた音が耳の中を響きわたる。しばらくそれを黙って聞き続ける。
なんだかこんな場景は新鮮だな、誰かと通話して喜怒哀楽する、そんな至極当然であろうことがとても物珍しく感じた、不思議な気分だ。
電話の音が鳴り止んでも少しの間、何も考えず虚空を見つめていた。
※ ※ ※
やってきた次の日、いつもの如く特になんのイベントも起こらず、下校を促すチャイムが校内に鳴り響く。
それと同時にいつもより急ぎ足で正門へと向かう、ちなみにだが、ぼっちは歩くのが結構はやいのだ。誰かと会話している人は話し相手の歩幅に合わせたり、単純に話しやすいようにゆっくり歩いたりする。結果歩くのが遅くなっているのだ。そういった理由により人数が増えれば増えるほど、段々と速度が落ちていくのである。
そう、よく高校生や中学生の集団が前を歩いている時に、「もっと速く歩けよ……邪魔になってるんだよ……」となるのは彼ら(または彼女ら)は大抵みんながみんな、相手の歩幅に合わせていった結果、自転車に乗ってるおばあちゃんにさえも追い抜かれるのである。
ま、この考えは俺の勝手な主観に基づき、導き出した答えなんだがな…………。
無論、迷惑をかけていなければいくら遅くても構わんのだが。
靴を履き替え、そろそろ正門だ。周りを見渡し例の女生徒集団、そして嬢ヶ丘を探す。
どちらも見当たらない、というか他の生徒もちらほらとしか見かけない。
少し早かったか、まあ先に帰られてしまうよりはましだ。昨日の電柱で待つことにしよう。
※ ※ ※
しばらくすると徐々に下校する生徒が増えてきた、その中にも同じように誰かを待っているのか何人か足を止める生徒もいる。
っと、いた。足を止める生徒の中でも、他とは違うオーラを放っているお方が。
足を止めたということは恐らく昨日のように集まるために誰かを待っているのだろう。
よし、これであとは嬢ヶ丘を待つだけだ。もう一度よく見渡すが、姿は見えない。
「あ、あの実さん、こんにちは」
不意に後ろから声を掛けられる。おっと、後ろのことを全然見ていなかった。自分の間抜けさを嘆きつつ振り返る。
もちろん、そこには嬢ヶ丘が居たのだが。何やら照れているのやら恥ずかしいのやら、頬が赤く染まっているやら。
「何やってんだ、頬赤らめて、俺と二人でいるのそんなに照れるほど嬉しいか?」
「な、なにを言ってるんですか!? 今から勧誘するものですから緊張しているんです!」
あぁ、そうだった、こいつも俺とそこそこ張り合えるぐらいにはぼっちしてるんだったな。いや待てよ、いくらぼっちじゃない奴でも流石に初対面でいきなりあの集団の中に突っ込んで行って勧誘をするなんぞとてもじゃないが無理があることだろう、と思いたい。
そうでなければぼっちの肩身がまた更に狭くなってしまう。
「あっそ、というかもう勧誘するのは決まっているんだな、ちょっとぐらい面接のようなことしといた方が安心できるとかはないのか」。
俺から薦めておいてなんだが単純な疑問だ。
「なんとなく分かりましたよ、実さんが紹介してくれる方、あの黒髪ロングヘアーで笑顔がとても素敵な方ですよね」
言った視線の先は、例の校門前の集団。
ほう、これは驚いた。素直に感心してしまう、こいつにも使えそうな奴を見つける才能があったとはな。
てか完全に俺の話無視されちゃったのだが…………割りと辛い。
「とても…………とても…………」
そう呟いた途端俯瞰し、肩をぷるぷると震わせて、握り拳までできている。
「胸が大きいです! ソービッグです!!」
「……は? とうとう本格的に狂ってきたか? 唐突に大声出すなよ」
幸い近くを通る生徒は居なかったため変な目で見られるようなことは無かった。
「は、どうせそうだと思ってましたよ、男の人は胸が大きい人が好きなんですよね、知ってましたよ」
だめだ、マジギレモードに入ってしまった、ここは取り急ぎ機嫌を直しておかないとまた面倒なことになる。ほら、なんか「ちっ」とか言ってるし、女の子が人前で言うセリフじゃないでしょ?
まだぶつくさ小声で文句を垂れる嬢ヶ丘に一言だけ言ってやる。
「どうせ実さんもあんな制服の上からでも分かるくらいでかくて下品な胸が好きなのであろうと思っていましたよ…………そもそも私だって着痩せするだけで少しくらいは――――――」
「俺はちいさいのもありだと思ってるが」
「…………」
「ふぇ!? あ、そ、そうなんですか、ふーん…………」
なんだこのアホ臭さは、なぜ勝手に勘違いして憤怒している奴のために俺が機嫌をとってやらねばならんのか。
「ふん、まぁ実さんも少しは見る目がある男の人ということは分かりましたけどちいさいのもって何ですか『のも』って、それじゃあ何ですか、ちいさいのはおまけのような存在だということですか大きい方がいいけど、まぁちいさいのでもいいよ(笑)って感じなのですか――――」
まだまだ嬢ヶ丘嬢の愚痴は続くが、ここらで本気で止めないと目的を達成できないままになってしまう。
「おい、よくそこまで愚痴れると褒めてあげたいところだが。そこらへんにしとかないと、あいつら帰っちまうぞ」。
「………………」
無言、怖い。
思った、矢先。
「はぁ、そうですね。では」。
ここで大きな深呼吸を一つ。
「いざ! 新たな仲間を引き入れるべく!」
思いがけない変わりように阿鼻叫喚……は大袈裟、少し戸惑ってしまったが、嬢ヶ丘は既に歩きだしていた。
そんな後ろ姿をずっと眺めているわけにもいかないので、俺もまた後を追うべく歩き出す。勧誘している間くらい隣にいてやらんこともない。
嬢ヶ丘はもう校門に着きそうになっていたので、少し足を速める。
あいつ結構度胸あるよな、俺の時もそうだったが初対面でいきなりあんなこと言えるんだもんな、だがまぁ未だに顔が赤らんでいることからあいつなりに緊張しているようだ。
良かった、人間らしいところが見られて。あまり外に出たことないくせにあんなアクティブなもんだから本当に人間かどうか疑ってしまうぜ…………。
ん、違うか、今までの奇行は全然外に出ないが故なのかもしれない。
そんなこと考えていたら、丁度女生徒集団の前に着いたところであった、隣にはほんの数秒前に到着した嬢ヶ丘。赤くなった頬が太陽で照らされ、なおいっそう見える。
女生徒達は何事かとこちらを訝しみながら見つめてくる。
そして、嬢ヶ丘は忽ち。
「私達の部活に入部してくださいお願いします!!!」
放課後の下校生徒たちの話し声や、部活動中の生徒たちの喧騒をも掻き消すほど叫んだ。
ご高覧いただきありがとうございます。
ふぅ、前回よりは投稿間隔を狭めることができましたが、まだまだ実力不足で、なかなか更新できません、楽しみにしてくださっている方には本当に申し訳が立ちません。
それはそうと、今回は結構由那ちゃんについて私が思っていたより書くことができました。
実は相変わらずでしたが……(笑)
あまり書きすぎるとダレてしまうので、早いですがここらへんで筆を置かせていただきます。それでは。
しーゆーねくすったいむっ!