招き自販機
夕暮れ、夕焼け、川には紅い太陽が映りこみゆらゆらと水面を泳いでいる。
河川敷では数人の子どもが水切りで競い合っている。っておい、早く帰らねぇ
と尻叩かれるぞ。
そんな誰もが退屈しそうなことを考えながら、学校からの帰路についていた。
嗚呼、なんとも波瀾万丈な高校生活なのであろう。友達もいない、恋人なども
ってのほか。まあ原因のほとんどが自分の性格というのは承知しているが、性格
など変えられるはずもない、変える気もない。
俺「侘来 実」の学校での一日の過ごし方でも説明しよう、まず朝登校してか
ら教室に入り一限目の用意を済ませ授業が始まるまで寝る、この時の俺は言わば
背景だ。モブでもいい、一応俺のことを認識しているがそれは奴らにとって背景
なので何も気に留めない、背景の鳥や雲が動いても何も思わないのと同じだくそ。
そして二限目と三限目のあいだにある中休みにもうひと睡眠をとり、昼食は食
堂の特等席で済ませ、全授業が終わればそそくさと帰宅。※授業中にもたまに寝ます。
すべからく友達などできない。
悲しいやつだと思うのならばまだ早い。
俺には異常に懐いている妹がいないし、やたら面倒見がいいちょっとエッチな姉も存在しないし、朝早くから馬乗りになって起こしに来てくれる幼なじみも所在しないのである。
なぜなのか、俺が聞きたい、それが現実。
たわいもないことを考えていたら家の近くの自販機に差し掛かっていた。
そこには一人膝を抱え泣いている少女。自販機と少女、なんとミスマッチなのであろう。これだから主人公は困るぜ。
……どうすればいいんだ、悪いがめんどうは御免だ。RPGの通行人さながら通りすぎようと決意し颯爽とその前を通り過ぎた。
「あの……ずみません……ズズ」
後ろから鼻をすすりながら泣く少女の呼び止める声が聞こえた、この場所には俺以外のだれも居ない、すなわち俺に声を掛けているのであろう。
とりあえず返事をしようと思ったが、ある思考が頭をよぎる。
どうしよう、おそらくこの後話を伺えば何かしら相談されるか、何かしら頼まれることであろう。それを俺は解決に導いてあげられるのか? 真摯に聴いて相談にのってあげられるのか?
ここでいい加減に返事をしてしまったらやはり責任は生じるだろうか。
あまり他人と関わらず生きてきた人生、こういう場合どう対応したらいいのかもよく分からない。無理に話を聴いて却傷つけでもしたらそれこそどうしたらいいのか分からない。
駄目だ、いろいろ考えすぎて頭がおかしくなりそうだ。
俺は気づかないふりをしその場を去った。
※ ※ ※
早朝、まだ月は仕事をしている時間だ、雀達もまだチュンチュン鳴きださない頃、目が覚めてしまった俺は一人リビングのソファーに座り何を考えるわけでもなくただ呆然と時計の針が進むのを眺めていた。
たまにあるんだよな、こういう時って何故か二度寝とかは絶対にできなくて、やけに目が冴えてやけに寝起きが良い。休日にありがち。
……普段から寝起き良くなってくれませんかねぇ、こんな何も無い日に早く起きても一文の得にもなんねぇよ。まあ予定が無いのはいつもの事だがな。
ただ普段と違う事が今日は一つあった、もちのろん昨日の帰り道でのことなのだが。
あの時の事を考えてしまう、そう主人公ならね。
それはそうとなにゆえ主人公主人公うるさいのか、単純に言えば俺の人生は俺が主人公だからだ。
人には個々の人生があり誰もが主人公なのだ、また、まったく同じ人生は二つと無いのである。これはもう主人公として生きざるを得ない。
何気無く時計に目をやると、起きてから三十分も経過していることに気づいた。
そんなに経つのか……なにやってんだ俺……。
朝の散歩がてらあの自販機に飲み物でも買いに行こうか。べ、べつにまだいたらどうしようとか心配になんかなってねぇよ!
思い立ったら即行動だ、家の鍵と財布をポケットに突っ込み靴のつま先をトントンと弾ませ家を出た。
起きた時とは違って月は仕事を終え、太陽さんが出勤してきている。
ここを曲がればあの自販機だ、特別変わった物などは置いていないが自宅から近いのでよく利用している。なんせ二十四時間やってるしな。
…………いないか。
至極あたりまえのことだな。現実的に考えて昨夕から同じ場所にいるはずがない、泣き止んだ後どこか友達の家にでも相談しに言ったのだろう。
折角来たのだから何か買って帰ろう、……それが当初の目的だけどな。
右上のフルーツ牛乳のボタンに手を伸ばした矢先。
「あー!昨日無視した人ー!」
横からそんな声が聞こえる、無視した人か……気づかないふりなのバレてんじゃねぇか。
声の方に顔を向けると俺を指さしながら立ちつくす昨日の少女が居た。
こちらに向かって来るようだ、あたりまえか、昨夕と同じようにここには俺とこいつしかいない。
やっべこれ話しかけられるんだよな、どうしよう上手く喋れるかしら。
「まず!」
「は、はい……」
俺は何を言われても動揺せずとりあえず普通に会話をすることに務めた。
「おはようございます」
ご丁寧に頭まで下げてくれているが、俺はこの時察した、こいつは他の奴とはちょっと「ズレて」いる事を。要するに俺と同じ変わり者ということを。
よし、それならばそこまで気を張る必要は無いな。ただし相手は人間、侮ってはいけないぞ……いつ本性をあらわすか分からない、いきなり電話を掛けたかと思えば「あ、もっしぉし~? 今から弾丸こっち来てよ~」とかいうわけの分からん単語を発して、リア充軍団を呼ばれるかもしれない。
まずなんで弾丸なの? 弾丸って弾だよ? 速くって意味なら弾速って方が良いと思うんですが? マジなんなん?
おっとついヒートアップし過ぎちまったぜ。
「おはようございます」
精一杯の笑顔で応えた、どんな顔になっているのか拝見したいところだな。
「それで、なんで昨日無視したんですか!! 女の子が一人で泣いているんです
よ!」
なんだよこいつめっちゃめんどくさいじゃん。そもそも女の子だろうがなんだ
ろうが、一人で泣いている明らか訳有りな人に誰が話しかけるというのだろうか、先ずもって他人なんだよ。
「すまん、気付かなかったんだ」
もう返事をするのも怠だるくなってきたので俺の顔から引きつり笑いは消
えていた。
「明らか気づいてましたよね!? ちょっと考えた後返事するのやめましたよね!?」
「はっきり言うが俺は、面倒事は嫌いなんだよ。ていうかこえーよどこまで見透かしてんだよ」
ほらやっぱり! とか意気揚々と言っているがあなたややこしそうだから無視されたのよ?
そんなこと気にしていないのか気づいていないのか彼女は続ける。
「それで、あの、昨日言えなかった事があるんですけど……」
先程とは打って変わって今度は彼女の顔を黒い雲が囲むように表情が暗くなっていく。
すこし困惑してしまった俺は無言の返事で彼女に続きを言うよう求めた。
「あ、あの……その……私にいろいろな体験をさせて欲しいんです!!」
「は? 嫌です」
咄嗟にでた言葉だった。まったく意味が分からない、大体そんな暗
くなるようなことじゃないだろ、俺と話すのそんなに辛かった?
「え……もう! つくづく主人公属性が無い方ですね……、昨日はあの場面で無視とかしちゃうし」。
え、俺文句言われる立場なの? さっきからこいつと話していて不快感しかないんだが。
「あのさ、俺たち会って数分だぞ? そんな状況で意味の分からんお願い事されてほいほい引き受けるアホがどこにいるんだ」。
「あ…………ごめんなさい久々に同年代の方とお話したからちょっと調子に乗っちゃいました」
……なんだよ、俺がいじめてるみたいじゃねぇか。
てか久々って、こいつもぼっちなのか? まさかの「ぼっ友」できちゃう?
「……まあ、人間の俺でも分かるように詳細に詳しく綿密めんみつに説明し
てくれたら、内容によっては手伝ってやらん事もない」
「もう! なんですかそれ! 私も人間ですよ!」
そういった後、ため息をつきまた口を開く。
「…………すみませんもうすこし分かりやすく説明します」。
※ ※ ※
簡潔に説明しよう、彼女はアニメや漫画が大好きで、小さい頃からよく観てい
たそうだ。そして体があまり丈夫ではないらしく外に出ることの方が珍しいくら
いだという。
ここからが本題だ、外に出ることが少ないということは人とあまり関わらない。
それはつまり、友達ができないということに繋がる。
彼女はずっと一人だったのだ、雨の日も晴れの日も、家で一人本やアニメを観て過ごす。そんな毎日。
彼女はそのうち、家を出てもっと外の世界に触れてみたいと思った。
…………アニメのような経験をするために。
アニメのような体験……少し抽象的すぎやしないか。
朝、パンを食べながら走って誰かとぶつかれたらそれでいいのかこいつは。
「で、具体的には何がしたいんだ?」
「え、えっとそうですね……」
何か考えているようだが、それはこれといってやりたいことが無いのか、それともやりたいことが多すぎて選択に迷っているのか。
「あ! まず魔法とか覚えたいです! それで魔法の大会とかに出ちゃったりして、それでそれで、決勝戦で今まで仲が険悪だった人と戦って、その後は良きライバルになったりして……」
「しばくぞ」
こいつの頭の中は春の桜並木どうよう華やかなようだ。常人ならこのような意味不明且かつ笑止千万なお願いなどしてこないだろう。
「し、しし、しばく!? なん、なんでですかぁ!」
案の定自分が言ったことの意味を分かっていないらしい。
「じゃあまず、その魔法を覚える方法を教えてもらおうか」
どうせこれで答えに詰まるだろう、そして気づけ。そして恥じろ。
「それは簡単ですよ、まずは世界に散らばっているとされている魔導書を……」
「あほくさ、帰る」。
こいつとのコントには付き合ってられん、もうちょっとまともな奴だと期待した自分を恥じたい気分だ。というか恥じている。
「ちょっ、ちょっとぉ協力してくださいよぉぉ」
やめろ、脚にしがみつくな。ちょっと思い留まりそうになるからやめろ。
「分かったわかったから、じゃあもっと現実的な事を言ってくれ」
もうまともな事は期待していないが一応最後に聞いてやろう。
「じゃ、じゃあ、私と友達になってください!」
「帰……、ん……? 友達か……」
アニメとはからきし関係のないことだが、これまたどういう思考しているんだか。
「……それぐらいなら構わないが……どういう意図だ?」
「やった、ありがとうございます! 友達になるのに『意図』なんてないですよ」
「ではまた明日お会いしましょうね」
「え……あ、ああ……」
何か雰囲気が変わったような気がするが……、まあ気にしないでおこう。
少し変なやつだが暇つぶし程度に付き合ってやるのもいいだろう、どうせ持て余していたであろう高校生活だ、これぐらいの事があるほうが何もしないよりはずっと有意義だろう。
静かに見つめてくるあいつを後目に俺は家路についた。
…………あ、名前聞くの忘れた。
ご高覧いただきありがとうございました。
こういった所に投稿するのは初めてでいろいろと緊張しております。
私の稚拙な文章でイライラされた方もいらっしゃるかと思います、ですがキャラだけは! キャラだけは嫌いにならないでください!! キャラに罪はありません!!
……さて二人のコントはお楽しみ頂けたでしょうか、一話でヒロインの名前がでてこないってどうなのか……。ま、まあまだまだ話しは始まったばかり、
これからの二人がどういった道を歩んでいくのか、刮目せよ!
私もこのお話しと共に成長していけたらと思います!
ということで、しーゆーねくすとたいむ!