丈井佳純2
張り切りすぎたのか、丈井佳純はまだ鍵の空いていない学校の玄関の前で待ち呆けている。
ちゃんと教室に入れる時間にしか来たことがなかったのであまり知らなかったが、この時間でももう学校に来ている生徒は、ちらほらと居た。
彼らも特に何か目的があって早く来ているわけではないようだ。どちらかというと、誰がどれだけ早く学校に来れるか、という毎朝恒例のゆるいレースの様なものがあるらしい。後から来た男子生徒が「おまえらはえぇな」なんて話しながら、先に着いていた組と合流している。
そんなありふれた――それこそ毎朝のように交わされているありふれた会話を聞くだけでも、佳純の心臓は早鐘を打っていた。
校門の方を眺めていると、ショートヘアの活発そうな女の子が歩いてくるのが目に入る。佳純は、それが昨日喧嘩してしまった日昇菜菜華だとすぐに気が付いた。
菜菜華の方も先に来ていた佳純に気が付いた様で、一瞬目があったが、すぐに気まずそうに目を逸らされてしまう。彼女はそのまま佳純から少し離れた位置の女子グループに合流しようとした。
「な――菜菜華ちゃん!!」
「――――!!!!?」
いきなりの大声に菜菜華は、無警戒状態で驚かされた猫さながらに、脊髄から硬直する勢いで背筋を伸ばした。
他の生徒達も、菜菜華ほどではないが、驚いて無言になっている。
大声を出した当人も、顔を真っ赤にしてやや俯き、恥ずかしそうに心臓の辺りを手で押さえている。
「…………なに?」
それを見かねてか、菜菜華の方から声を掛けた。
今が最大のチャンスだ。
逆に、ここを逃せば、さらに状況は悪くなる。
自分に言い聞かせ、恥ずかしがり屋の自分を言い負かし、
「きノうはごめんなサい」
裏返った声で、精一杯に頭を振り下げながら謝った。
これで失敗したら? 恥ずかしがり屋な自分が、こうしてヒト前で勇気を出しているのに。ずっと続いた独りから、解放してくれる友達。それがいなくなってしまう? そんなのは、絶対に嫌だ。
不安でいっぱいで、
「本当に、ごめんなさい」
もう一度、謝った。
「ちょっ、もう分かったから頭上げてよ。恥ずかしいでしょ」
「え?」
恐る恐る頭を上げる。
「ゆ、許してくれるの?」
「許すもなにも、ウチだって悪かったし……」
だからハイ。と右手を差し出す。
「ウチもごめん」
佳純は三秒程呆け、ハッと意識を取り戻す。
「うんっ!」
自分の右手を繋いで、幸せそうにうなずいた。




