第5話
ちょっと訂正をしました。申し訳ない(_ _)
席が自由だとわかったルディはさっさと縦3列、横2列の計6席のうち、窓側の後ろの席に座る。昼寝にちょうど良さそうな場所。レイフはその隣を陣取った。
「ふぁ〜あ。みんな遅いな…」
レイフは足を机に上げる。それに倣ってルディも椅子に膝を立てて座る。それにびびったのかなんなのか、暫くして来た2人組の女子がドアの前で立ち止まっていた。
「ふ、不良の巣窟か何かかにゃ…?」
「俺様系男子からの寵愛を受けて、悪の手先から守ってくれるのかのぅ…?」
「それは恋愛小説の読みすぎにゃ」
「…悪の手先って何…?」
「レイフ」
「酷い!」
オレンジ髪の猫耳娘は顔を引き攣らせる。その一方でもう1人のくすんだ赤髪の女は扇子で口元を隠して、フフフ…と不気味に笑っていた。
「…逆ハー、頑張るのじゃ…」
(…面倒。死んでもその一員にはなりたくない)
(なるなら相手にとって1人だけ特別!みたいな感じがいいなぁ。むしろハーレム作りたい)
どんな理由であれ、2人は逆ハーレムのメンバーにはなりたくないらしい。
それ以上お互いに言葉を交わさず、女子2人前列の廊下から2列に並んで座った。
「残りは机の数から見て…2人?」
「………」
「てか、ルディってどこから来たんだ?ちなみに俺は王都」
「ラルスリア村」
「どこ?」
「南の海の近くにある村」
「遠!?」
レイフがそう叫んだのも無理はない。ラルスリア村は学園から馬車で半月はかかる場所にある。現在は過疎化が進んでおり、人口は僅か50人にも満たない随分と寂しい村だ。
ルディが何故ここを選んだかというと同国で学園から遠い方が余計な詮索などされないだろうと考えたからだ。また海を跨いだその先にはオルブライト大陸、通称魔大陸があり、ルディが出身としている村には人間として暮らしている魔族のハーフの知り合いがいる。
どんなところだ?と尋ねられたルディは海鮮が美味いところ、とだけ答えた。
「海鮮かぁ。俺魚嫌いなんだよなー」
肉より魚派のルディは片眉を上げるだけで何も言わなかった。
会話は続く。好きな食べ物、趣味、近所の爺さんの笑い話など。実際はほとんどレイフが話していたのだが。
「………あ」
暫くして何かを懸念するような小さい声が聞こえる。様々な種族が混じった自身の血故か耳の良いルディはゆっくりとそちらを見て、目を見張る。
立っていたのは桜色のストレートな髪を揺らす、小柄な少女。ふわふわとした雰囲気に、どこか保護欲に駆られる出で立ち。
不意に目が合い、相手が息を呑む。ルディも妙な緊張からこくりと喉を鳴らす。目が合っていた時間は僅か5秒にも満たないが、2人には長く感じられた。
「うわっ、キミカワイイね!オレの隣においでよウサギちゃん」
そんな2人の雰囲気をぶち壊すはやはりレイフ。彼女はハッとしたようにレイフに視線を合わせ、首を傾げる。
「うさぎ…?」
「ダメにゃ!ソイツは危険にゃ!アタシの隣に来るにゃ!」
猫耳娘は女を引っ張って自分の隣、つまりルディの前に座らせた。
「…ルディ、なんかオレ危険なことしたかな?」
「………」
呆然としながらこくんと頷く。レイフはうわあぁん!と嘆くが、ルディは衝撃から抜けられずにいた。
目を瞬かせて、ルディは静かに息を吐き出した。数秒間、何事か考えて、未だにうるさいレイフの椅子を蹴る。
「うお!?な、何すんだ!?」
「うるさい」
「い、いいじゃねぇかよぉ!俺の味方はいないのかぁ!?つかお前性格変わりす…痛い痛い!」
腕を捻られて痛みに悶絶するレイフの叫び声を聞きながら表情は変えずに、先程考えていた遠いようで遠くない未来に内心苦笑する。ようやく解放され、再びこちらに何かを尋ねたレイフに適当に返事をする。内容は知らない。
先程の女子生徒は上手く話の輪に入ることができたようで女子の間でのお話、所謂ガールズトークを始めた。それを見てレイフはホッとする。もともと仲が良さそうな2人組にあの気弱そうな彼女が入っていけるか心配であったのだ。軽薄そうな見た目に反して、案外人をよく見ているイイヤツである。
「なぁ、ルディさ。あと1人ってどんなヤツだろうな?」
「 …見てないのか?」
「あぁ、オレ遅刻ギリギリで来たからよ」
へー、と返事をして、レイフの後ろを見やる。
「入学早々、遅刻にならなくてよかったね」
「うぉう!?」
レイフは飛び上がり、椅子から転げ落ちる。少なくとも2人にはざまぁ、と心の中で呟かれたことをレイフは知らない。誰にとは言わない。
「大丈夫かい?」
「び、びびった…」
「ハハ…」
ソイツは苦笑してレイフに手を差し出して起き上がる手伝いをした。
そのころルディは頭を高速に働かせていた。足音が聞こえなかった。どこの者だ?スパイか?そういえばどっかで見たことのある顔だ。誰だったか、と少し首を傾げる。
「僕が最後のメンバー、フェレ・フォン・メイスフィールドだよ」
その瞬間、理解する。通りで見たことがあると思った。
「おぉ!オレはレイフだ。レイフ・カータレット。んで、こっちがシルディアーテ・シルヴェスター」
「ルディでいい」
「よろしく」
ルディは差し出された手を握り返して小さくよろしくと呟いた。フェレは毒々しい紫の髪色に対して、甘いマスクで微笑んだ。
フェレは残っている席、つまり後列の廊下側の席に座る。彼はどこか感慨深げに5人を見回して頷く。
「…みんな特別科といえども、さすが入学試験倍率10倍を突破した実力者だね。雰囲気が違う」
「じゅ…10!?」
感心したような声音で呟くはフェレ。ギョッとしたように声を上げるのは、その隣に座るレイフ。ルディも表情には出さないが目は僅かに見開いた。
「…知らなかったの?」
「…オレ、親父に当たって砕けて来いって言われて…それ以外何も聞いてない…」
「…凄いお父さんだね」
当たって砕けるつもりがまさかの砕けず残ってそのまま通貫したらしい。岩が脆かったのか、小石が硬かったのか。
「筆記試験は鉛筆転がしただけだし…」
「「………」」
筆記試験には記述もあったはずであるが、それはどうパスしたのか。選択が全問正解であったというのか。
「前日に近所のユーリアばあちゃんの手伝いをしたから幸運が舞い降りてきたんだな」
うんうん、と頷くレイフにルディは人に親切して幸運を手にすればいいのだな、と納得しかけて。
(…いやいや、試験をそれでパスできんならみんな苦労しねぇよ)
まともに学生生活というものを送ったことのない自分ではあるがこれくらいは理解できる。アホらし、と小さく呟いた。
「俺、合格通知が来たときにゃびっくりしすぎて親子共々失神するところだった」
「馬鹿だねぇ」
「な!?そ、そう言うフェレとルディはどうなんだよ!?」
「僕は一応貴族出なんだ」
「俺が受からないわけがない」
「…フェレはまだいいや。貴族ならそれなりに勉強してきたんだろうなーとか思うし。…ただ…」
ビシィッと人差し指をさされ、顔を顰める。
「…なんだ?」
「その自信どこから来てんの!?首席取るぐらいだからわからなくもないけど!」
「………」
幼い頃から王族の一員としてありとあらゆる学問を学んでいたルディには、入学試験というものは朝飯前だった。最後の方など暇で暇で仕方なく寝ていた。高等部のレベルは思ったよりも低いのだな、とある種の関心を抱いてもいた。
「だいたい、実技試験はどうしたの!?」
「暴れた」
「…あ、そう、なんだ…」
「ハハ…」
実はここ何年かエディとは直接会ってはいなかったが、文通していた。ルディが学園を受けると言ったときエディに暴れときゃ受かると言われたので、その通りにしたまでのことである。
「思ったんだけど、ルディって表裏激しい?」
「やぁだ、こーわーいー!」
「「………」」
レイフに冷たい視線の嵐が降り注いだのだった。
訂正
2016/01/13
2016/05/31