第4話
大きく訂正をしました。申し訳ない(_ _)
『学生というものは_____であるからして_____つまりは_____』
入学式が始まり数十分。
校長らしき、頭からの光の反射で少々目が痛くなる男が壇上に立っていた。長いスピーチが眠気を誘う。実際に会場の端に設置されている椅子で眠りこけている者もいる。小さな子供は両親に眠いと甘えるように寄りかかる。
『よって学生というものは_____』
(さっきも学生というものは…のくだりを聞いた気が…)
どうだったか、とルディは自分の曖昧な記憶に首を傾げる。そしてふぁあ、と欠伸を1つ。あぁ、眠い。
『_____皆さんのここでの3年間の生活が良いものであることを願います』
校長が頭を下げて、降段する。周りは凝った身体を大きく伸ばす。ルディもそれに倣って少しだけ伸びをして。再び欠伸を零しそうになって、今度は噛み殺して我慢。きっと次に話すのはエディだから、と聞く体制に入る。
『皆さん、ご入学おめでとうございます』
先ほど再会した友人を目にし、ルディは口角を上げる。数年前の自分はヤツのこんな姿を想像していただろうか。
エディのスピーチは2分もかからないで終わった。周りは簡潔に纏めてくれてよかった、と安堵の息を吐く。ルディも顔には出さず、ため息をついた。校長のような長々としたスピーチがもう一度あるというならば、ルディはさっさとサボろうと考えていたのだ。
ふぁ、と短い欠伸をして目を閉じる。次はなんであろうか、諸注意だろうか。そういえば新入生代表挨拶などはないのだろうか。
(いや、もうエディの話は聞いたし、なんでもいいからサボりてぇ…)
_____学園で少しはその面倒くさがりな性格をお直しくださいませ!
不意に自身の直属の部下の悲痛な声が聞こえた気がして目を薄っすらと開ける。そういえばこれは学園に行くと宣言したときの言葉だったか。周りが反対する中、ヤツだけが賛成していたのだ。1番反対しそうなヤツだったのになぁ、と思い出す。
_____問題児が多すぎて俺の仕事が余計に増えるんです!ですから魔王様だけでも面倒をかけてくれなければ…!
少し考えて。自分は悪くない、と結論付けるルディに。
『続いて、新入生代表挨拶、首席入学、シルディアーテ・シルヴェスターくん』
「………」
司会の女子生徒から衝撃の言葉が。…あぁ、何かの間違いだ、きっとそうだ、と自己完結。俺のはずがない。
司会者はキョロキョロと周りを見回して首を傾げた。
『あれ、シルヴェスターくん?』
(…腹減ったナー)
帰ろうとして出口の方を向いて…。
「なァに逃げようとしてんだ?」
知らない誰かに襟首を引っ掴まれた。
「おら逝くぞ」
「………」
アンタだけ逝ってこいよ、のルディの呟きに、その誰かはヤダ、と答える。
ズルズルと引っ張られ、壇上に投げられる。身体強化してるのかルディが思わず瞠目するほどの高さまで投げられた。こんなに天井を高くしてなんの意味があるのだ、俺を飛ばすためなのか、と考えながらもそこは魔族スペック。空中で上手く体制を立て直して着地。
ルディはギロリと投げたヤツを見ると面倒くさそうにこちらを見ていた。
「ちゃっちゃと終わらせろよ、クソガキ」
「………」
なぜ、と惚ける。なぜ知らないヤツにそんなことを言われなければならないのだ。そもそもの話、首席とは聞いてないぞ。見知った顔を見つけて睨む。睨まれた本人、エディは知らなかったのか肩を竦めて苦笑する。
『えぇーと…。シルディアーテ・シルヴェスターくんで合ってるのかな?』
司会者は目をパチクリさせ、ルディに確認を取る。ルディは数回瞬きしてにっこり笑って頷くと、聴衆は2つの理由で目を見開き、女子生徒はえ!?、と声をあげた。
『首席…なんですか?』
「すみませんが、わかりませんね」
『………』
会場中が静まる。
「そ、ソイツが首席なわけないだろう!」
なんとも言えないような空気を打破するかのように1人の貴族が声をあげる。そうだ、その通りだ、ソイツに代表挨拶なんてできるわけない、と思い出したかのように周りも声をあげる。そして本人もコクリと頷いて僕はしません、と言うからまた会場が静まる。
『…挨拶しないのですか?大変名誉なことなのですよ?』
「ええ」
『国王様もいるのですよ?』
チラリと視線をズラすとどこか呆れたような表情をする国王様。輝かんばかりのブロンドの髪に、年の割には綺麗で甘い顔立ち。身体の線は細く見えるが、服の下は鍛え上げられている。目の前にすれば思わずひれ伏してしまいそうなほどの威厳。しかし国民に大変優しく、人気のある王であると専ら評判だ。
そんな王と視線を合わせてしばらくルディは黙考。
「そうですか」
『………』
「………」
『………』
「では、これで失礼しますね」
『いやいやいや!ちょっと待ってくださいよ!』
「僕に挨拶がどうのこうの言う前に、担当者に確認を取ってはいかがでしょう」
そそくさと壇上から降りようとするルディに女子生徒は慌て、教師はハッとして担当者を探し回る。
確認したところ担当者である教師は黒髪にかなりの偏見があり、ルディが困ればいいと思ってしたことらしい。それを聞いたルディは一言。
「僕がこの場で挨拶できないのは構いませんが、こんな大きな会で他人に迷惑をかけてはいけませんよ。今後は気をつけてください。いいですね?」
担当者は顔を真っ赤にし、逃げ去っていった。
死んだような空気の中、司会者は疲れたように式を進めた。
後日、司会を行った女子生徒は後にも先にもあんな入学式はないでしょうと語った。あ、でもあの男の子かっこよかったなー、食べちゃいたいくらい。(ちょうどそのとき、ルディの背中に悪寒が走り、頻りに辺りを見回していたのは内緒)
生徒はぞろぞろと講堂から出て行く。ある程度友人はできているようで、割と固まって出て行く。
ルディはスルスルと生徒の間をすり抜けて、ゆっくりと歩く。視線が身体中に刺さるが、いつものこと。シドは不意に隣に人の気配がして胡乱げにそちらを見る。そして自分をジッと見つめる1つの視線とかち合った。
「………」
「………」
そこには金髪、というよりは黄色と言った方が正しい髪色をした男。耳にはジャラジャラとシルバーのピアス。赤のTシャツにワイシャツを羽織っている。ブレザーはルディと同様着ておらず、2人揃って如何にも学校の問題児のような出で立ちである。
「………」
「………」
「…え!ちょっと待てよ!」
「…チッ」
「え!?まだ俺たち初対面だよね?ていうかさっきとイメージ違いすぎじゃね!?」
あまり関わりたくない人種であったため、さっさとその場を離れようとして止められる。ルディは不機嫌に眉を顰め、そちらを睨んだ。お前の第一印象は顔が良くても服装で最悪だ、自分の服装はあくまでも棚に置いておくらしい。
「アンタ、髪色からして特別科だよね?オレもなんだー」
「………」
「しかも首席だろ?すげーな」
「………」
「…えーと、なんか反応くれると嬉しいなぁー」
「あっそ」
「素っ気ない!」
変なヤツが出た、とルディはさらに視線を鋭くして睨むが、ヤツは何を思ったのか、いやん!と照れた。その場にいた全員が引いた。しかし、ヤツは気にしないらしい。それどころか気づいていないと見える。
「あ!俺はレイフ。レイフ・カータレット。雷の精霊と人間のハーフ」
「…シルディアーテ・シルヴェスター。ルディでいい」
母の旧姓を名乗るルディにレイフはよろしくな、と笑う。
どうやら同じクラスらしい2人で今度は並んで教室まで向かう。もともと良い意味でも悪い意味でも視線が集まるような体質であるのに、騒がしいレイフのおかげでさらに視線が集中する。ルディは少し不機嫌に鼻を鳴らした。そんなルディにレイフは言った。
「つーか、オレ、ルディのせいで視線で殺されそう」
「………」
「え?オレがカッコいいから?嫉妬の視線だったかぁ」
「………」
んなこと一言も言ってない、と惚ける。そもそも口を開いてないのに、どう解釈したら…。
教室に着いた。まだルディたち以外は来てないようで、教室は静まり返っていた。黒板を見ると式の前にはなかった乱雑な文字。
「席、自由だってー」
訂正
2016/01/12
2016/05/31