第2話
ちょっと訂正をしました。申し訳ない(_ _)
クラス発表が校舎前に張り出されていた。彼はサーっと目を通して自分の名前を見つける。どうやらG組らしい。それを見た彼は少し顔を引きつらせる。嫌がらせじゃねぇよな?黒のアレっていう意味でつけたわけじゃねぇよな?
再びキャリーバッグを引きずって、校舎の中へと入る。
中に入って少し奥に長机が並び、係りらしき人たちが座っていた。クラスごとに分かれているようで、”G”と書かれた係り女の前に行く。
「………」
「…あら」
女性は無言で近づいた彼に気づいて微笑んだ。それは温かくて、随分と久しぶりにそんな表情を向けられた気がした。
「こんにちは。お名前は?」
「シルディアーテ・シルヴェスターです」
にっこり笑って告げることを忘れない。
「シルヴェスターさんね。少々お待ちください」
女性は紙に何かを書き込み、後ろにあった箱の中をガサゴソと漁る。
「これが制服と学校指定の鞄となっています。男の子は右の通路にある部屋が更衣室となっていますので、そこで制服に着替えて。着替えたら荷物を教室に置いて、入学式の会場に行ってね。…会場はわかってるかしら?」
「第一講堂ですね?」
「えぇ、そうよ。第二講堂と間違えないようにね。教室で荷物を置く際は盗難に気をつけて。ロッカーがあるからきちんと鍵をかけること。盗まれても学園側は責任を取りませんからね。何か質問はありますか?」
「学園の見取り図が欲しいのですが…」
彼女は人良さそうな微笑みで頷き、手元のファイルを漁った。
地図をもらったのち、男子更衣室と紙が貼られた教室で着替える。以前合格発表の際に配られた身体計測のプリントは、この制服のためにあったらしい。彼は感心したように頷く。サイズがぴったりだった。
制服はブレザー。色は黒であるが赤で縁取られていた。ネクタイは赤と黒と金のストライプ。男である彼はファッションに興味があるわけではないが、見た目堅苦しい割には動きやすい。ワイシャツを第二ボタンまで開け、袖を巻き、ネクタイは緩く締める。最早入学式の服装ではない。本によると速攻生徒指導室行きの格好らしいが気にしない。むしろ生徒指導室なんて新鮮だ、行ってみたい。
本来ならブレザーに付けるであろう3つのそれぞれエンブレムを象ったバッチを掌の上で弄ぶ。
一つ目は分かる。アクウィナス学園の紋章だから、所謂校章というものだろう。紋章はドラゴンと剣で、知恵と勇気という意味らしい。
二つ目はチラリと見ただけだが、見覚えのあるものだった。特別科(説明は後々)の紋章だ。自由を意味する羽が1つ。
三つ目は見たこともない。一振りの剣に2匹の蛇が巻きついていた。蛇は向き合っており、どこか不気味だ。
彼はこれを気づく前にブレザーは鞄の中に仕舞っていた。着てもすぐに脱ぐような気がしたから。では、これをどうしようか。ネクタイが目に入る。ネクタイ付けとくか。うん、それがいい。名案だとでもいうように彼は頷いた。
他の人間が入ってきてこちらを見るから、考えるのをやめて廊下に出る。
教室に行ったが誰もいない。他クラスには多くの生徒がいたが、G組メンバーの中では早い方だったらしい。もしかしたら1人だけだったりして。しかし席と机、ロッカーが6つずつあるので1人なんてことはないだろう。きっと6人だ。彼は少しの不安を呑み込んで、1番端のロッカーに荷物を入れて鍵を閉め、教室を出た。
地図を見ながらのんびりと廊下を歩く。窓から入る光が暖かい。少々どころでなく、かなり異色の彼ではあるが、光は彼がこの学園に来たことを喜んでいるようだ。歩いているうちに目的の部屋に到着。早速ノックして返事を待たずに重厚な扉を開けて中に入る。
中にいたのは1人の男で、ヤツはその酷く冷めた瞳で彼を観察していた。
ガチャンと扉が閉まり、冷たく重い空気が漂う。その空気を作り出しているのは紛れもなく、優雅に座っている無表情のヤツだ。
彼はその空気に懐かしさを感じていた。昔はたまにコイツから晒し出される空気に耐えられず、両親の元へ一目散に逃げていたのに。自身の成長の片鱗を感じられた瞬間であった。
お互いに動かず、ジッと見つめ合う。…動いたのは向こう。ヤツはふわりと昔と変わらない柔らかな笑みを浮かべ、立ち上がった。
「久しぶりだな、魔王さんよ」
シルディアーテ・レイ・アル・ローズ・ドラグーン・フォン・オルブライト。
それが魔国オルブライトの王、通称魔王をしている彼の本名。
「魔王って呼ぶな。今はただの学生だ」
「そうか。…よくもまあ、あの過保護な家臣どもを納得させたな」
「………」
正確には脅したのだが。まぁ、結果良ければ全て良しというヤツである。そう考える彼から何を読み取ったのか、ここ、アクウィナス学園理事長、エディ・メイシーは苦笑した。
「それにしても、ルディ、背ぇ伸びたなぁ…。5年前はあんなチビ助だったのによ。逞しくなったなぁ…」
「…親父くせぇ」
「…素はさらに無口になったし、口開いても口は悪いし…。だいたい、俺はギリギリ20代。親父には入らない」
知らねぇよ。…泣いちゃうぞ。むしろ泣いて。
エディは口元をヒクリと引きつらせる。あんなに可愛かったのに、あそこの家臣どもはコイツに何を教えやがった。どこで育て方を間違えた。エディはため息を呑み込み、何か飲むか?とソファーに腰掛けるルディに尋ねる。彼はしばらく逡巡し、首を縦に振る。入学式までの時間はある。少しくらいゆっくりしても構わないだろう。
「紅茶でいいか?」
「…ん」
カチャンと食器がぶつかる音がする。しばらくして、白のシンプルなカップが目の前に置かれた。
「もう5年経つのか...」
何か思うことでもあるのだろう。エディは嘆息して椅子に腰掛ける。
「お前、大変だったな...」
「.........」
「あんな優しい人たちが次々に死んでいって…。国を建て直すのも大変だったろうに」
「.........」
「同年代の子供たちとダチになることすらできない」
「.........」
そうだな。大変だったよ。今後の対策を取り、兵士はもちろん俺自身を鍛え上げ、国を守れるよう頑張った。忙しかった。悲しむ暇なんてなかった。だからだろうか、憎しみに支配されず、ここまで冷静にやってこれた。大変でよかった。そうして小さくため息をつく。
_____憎しみに支配されなくて、よかった。
今度は脳裏に過ぎった彼女の姿を思い出して複雑な気分になる。
_____お願い!お願い!逝かないで、返事をして!あたしを置いてかないで!
未だにあのときの光景が夢となって現れる。もっと早ければ、もっと強ければ…。
軽く頭を振ってルディは呟く。
「ダチに関しては、これからできる」
そう、そのチャンスは今からいくらでもある。
「だがお前は特殊だ。せめて黒髪じゃなきゃな…」
黒髪は昔から魔法が使えない、それ以前に魔力がない。だから人間の間ではタブーな髪色らしい。らしいというのはオルブライトでは100年以上前から黒髪をもつ人間は魔臓に封印が施されているのがわかっているからだ。しかし、オルブライトはその研究を発表していない。発表したって、人間たちに信じられずに罵られるのは目に見えている。
何はともあれ、見た目人間であるルディは周りからあまり良い目で見られないのだ。
(その前に純粋な人間ではないけれど)
人間社会は難しい、と先ほどと同じことを考えて口を開く。
「…この髪は唯一母さんから受け継いだものだ。この色以外はあり得ない」
「…そうだったな。お前、顔は親父さん似だし」
「…それにエディみたいな特殊なヤツをダチにしてくれる物好きな人間もいる」
「それ、誉めてんの?貶してんの?」
「誉めてる」
「そらぁ、どうも」
嬉しそうではない返事に肩を竦める。せっかく誉めてやったのに…。
お互いこの5年間の話をして、ルディは切りのいいところで立ち上がった。
「…そろそろ行く」
「…そうか」
エディは眩しそうに目を細めて笑い、右手を差し出す。ルディも右手を出して握手。
「…3年間、よろしく」
訂正
2015/12/06
2016/01/12
2016/05/25