第1話
ちょっと訂正をしました。申し訳ない(_ _)
ここはとある魔法世界。名をリリーシアという。世界は三大陸に分かれており、フリージファ大陸はその内最も広大な面積を誇る。そのフリージファ大陸の南方の大国、マーフィー王国の王都マリエルから馬車に揺られておよそ30分。1人の男が閉じていたその漆黒の眼を開き、外に視線を移した。…ようやく目的地が見えてきた。
「お前はこんなとこにいていいヤツじゃあねぇんだよ」
「ただでさえ社会の底辺で役立たずなんだから、奴隷にでもなって社会に貢献しろよ」
目の前の冒険者風の男は彼を罵る。他の者はそれを助長するかのように声をかけ、また別の者は関わりたくないとでも言うように顔を背ける。彼はチラリと男を見て、何事もなかったかのように考え事に没頭する。
「おいゴブリン、出口はあちらだよ」
(酷い言われようだなぁ…。俺のどこがゴブリンなのか。それを言ったら人型生物は全員ゴブリンだろうに…。まぁ、いいか)
ぼーっと外を見ると、依頼を完了したのか、もしくは今から向かうのか、彼の視線の先に冒険者たちがマリエルの方へ歩いているのが見えた。
「おい、聞いてんのか?」
10人ほどの乗り合わせ馬車の中は狭く、他の客とも自然に近づく。それなのにさらに近づいてくる男に彼は顔を顰める。暑苦しい。こんなことになるならば時間がかかっても涼しい外を歩けばよかった。どうせ歩いて1時間そこらなのだから。あと数分で着くのに今更後悔するのである。
馬車が大きな関所で止まる。持ってきた鞄の中から許可証を取り出し、馬車に入ってきた役人に提出。役人は彼を見て嫌そうな顔をしながらも判子を押して許可を出す。周りの人間は全員ギルドカードを提示する。そして、彼は思うのである。…楽そうだな、ギルドカード、などと。
関所は丘の上にあり、馬車から覗くと街全体が見えた。…やっと着いた。
世界でも1位2位の規模を争う学園都市アクウィナス。
遠くから見ただけでもかなり大きな街だとわかる。白と水色を基調とした建物たちが日光で光輝いていた。彼はその麗しい顔を顰める。白よりは黒の方が似合う彼には自分がこの街の中に入ることに違和感を感じていた。
馬車が停留所に着き、客は金を払って次々と各々の目的地へ向かう。
「銀貨5枚だ」
「………」
「…はん」
後ろで鼻で笑ったのは先程彼を罵っていた男。
「………」
「なんだよ、こっち見んな」
(コイツはなぜ俺より先に出たのに俺の後ろに付いたんだか。後ろから襲う気か、そうなのか)
少し気になるところだが、特に警戒は必要ない。他人の実力を計れないヤツなど、弱いに決まっているのである。経験はこちらの方が積んでるだろう。
「ほら、早く金出せ」
彼は足元を見られたのか、御者は他の客の2倍の料金を請求する。だから何も言わないで銀貨2枚と青銅貨5枚を渡して去ろうとする。ちなみに貨幣に関して、価値が低いものから順に銅貨(十円)、青銅貨(百円)、銀貨(千円)、金貨(1万円)、魔導貨(10万円)、魔金貨(100万円)である。
「おい、黒髪のお客さん、金足りてねぇよ」
ちらりと後ろを振り返って見る名も知らぬソイツは笑っていた。
「…学生相手に倍の料金を請求するのはどうかと思いますが?」
「ハハッ、何を言ってるんだい。学生だって?お前なんか入れてくれるとこなんてないだろ。だいたい黒髪の坊主を乗せてあげただけ、感謝してほしいね」
「金出さねぇと警備隊呼ぶぞ。それか俺がお前を殺す」
「………ふ、面白いことを言いますね」
彼は鼻で馬鹿にしたように笑って歩き出す。別に馬車がないのであれば、先ほど馬車で通ってきた街道を歩くだけである。
殺したいのならば殺せばいい。どうせ出来やしない。
鼻で笑ったのが気に入らなかったのか、2人は顔を真っ赤した。冒険者風の男に肩を掴まれ、思い切り引き寄せられる。ふと気づけば拳が目の前にあり、彼は血の気がお盛んなことだと呑気に考える。
パンッ
「………くそっ!」
拳は滑り込ませた右手の掌に収まった。そのままミシミシとその拳を潰すように握る。ソイツは今度は顔を赤から青へと変える。
「いっ…!ひぃ…!や、やめ!いてぇ!」
パッと手を離せば、ソイツはこちらを青い顔で睨む。…たいした殺気も出したわけではないのに、情けない。彼はつまらなさそうにソイツから視線を外した。
「…銀貨2枚と青銅貨5枚。いいですね?」
「…チッ」
御者の方を見ればヤツは舌打ちをし、馬車の方へ戻って行く。
「…僕を殺すんでしょう?殺らないのですか?」
「………」
「まあ無理でしょうけど」
少しの殺気だけで顔を真っ青にするくらいだから。
ソイツは舌打ちを1つ零して、どこかへと行ってしまった。
彼は周りの者が自分を見ているのが知っていたが、良い意味での視線ではないことも知っているから気にせず目的地まで足を速める。
停留所からのんびり歩いて約15分。ようやく着いた世界に名を轟かせるアクウィナス学園は、まるで真っ白な城のようである。学園都市は貴族が治めてるわけではなく、各学校の理事長全員で統治されている。だから学園都市の中で1番大きい学校であるアクウィナス学園は城のような役割も果たしている。そもそも都市の名前がそもそも学園の名前になっているくらいだ。権力は強いだろう。
彼は学園のエンブレムを一瞥してやたらデカイ正門の端をくぐる。その隣では黒の馬車が忙しく通り過ぎていった。
しばらく歩けば、周りはちらりちらりと彼を見る。ある者はいろんな意味で頰を染め、またある者はいろんな意味で顔を背ける。そして、前からは貴族の集団が歩いてくる。少し道の端に寄り、気にせず歩く。
向こうの1人が俺にぶつかった。
「いったぁあ!」
(…態とというのは初めからわかってはいたが、これはあからさますぎやしないだろうか。いや、こういうものなのだろうか)
彼は首を傾げる。
その単調ではあるが美しい動作に貴族たちは固まる。
そんな彼らを見てまた思うのだった。
(人間社会は難しいな…)
「…すみません」
何はともあれ、さっさと謝って、去った方が身のためである。
「あ…こちらこそすみま」
「違うだろ!貴様、謝って済むと思っているのか!?このハプソン家の長男であるこの僕に向かって、それはないんじゃないのか!?」
あぁ、遅かった。コイツらを見た瞬間、踵を返してりゃ何事もなかっただろうに、などと今考えても仕方ないことを考える。
謝罪をしようとした少年は思わず、といったように額に手を当て、頰を染めた。
ルディはツッコミを入れた目の前の少年を観察する。そもそもハプソン家ってそこまで地位は高くない貴族だと認知していたのだが。違うのだろうか。国を出る前に覚えてきたマーフィー王国のパワーバランス系図を思い出す。
「だいたいよぉ、ここは黒髪のヤツが来るとこじゃねぇってぇの。わかる?」
「お前にこの学園に通う権利なんてないんだよ」
「僕、父上に追い出してもらえるように頼むよ」
「…あ、そうだ。追い出す前に、こいつに魔法ってものを教えてやろうぜ?」
「お、いいね」
それを合図に、彼は鞄ごと貴族たちに引きずられて行く。周りの生徒は見てないふりをするつもりなのか、誰一人彼を助けようとしない。彼もまた、助けを必要としていなかった。ただ視界の端に映った、こちらに一歩足を出そうとした紫色の髪の男だけが少し気になった。
彼ははぁ、とため息を吐く。入学式が始まる前から校舎裏でリンチされるとは思っていなくて、少し気分が悪くなる。しかし国を出る前に”不登校脱出!学校に行こう!”という本を周りの者に無理矢理読まされたからだろう、かなり落ち着いている。それを思い出して、僅かな変化だが、彼の顔は不満気に歪んだ。不登校ではないのだが何故俺は不登校扱いになっているのだ、と。
「さて、何から試す?」
「やっぱこれだろ。【|赤き球≪ファイヤボール≫】!」
彼は不満気な顔色の上に少し眉間に皺を寄せる。彼は自分は馬鹿にされているのだろうかと考える。いや、学生というものがこの程度のレベルなのだろう。それは体を少し動かすだけで簡単に避けることができるくらい威力が弱く、魔力の乱れが目立つ。唯一の救いはスピードが少々速いことか。
「………え?」
え?と言っているあたり、これが実力だろう。
彼は小さくため息を着いて、ポツリとヤツらにも聞こえるように呟く。
「………興醒め」
「なんだと………!?もう一回言ってみろ!」
「興醒めと言ったんです。つまんない」
この学園に通えるくらいだし、もっと強いものだと思っていた。
続けて呟いた言葉に段々赤くなっていく顔たち。今度はため息を我慢する。
一斉に放たれた初級魔法。近いし、先程と違って数もあるから、サッと隠していたナイフを取り出して切り裂く。相手が驚いている間にすり抜けて、当初の目的までの道をゆるりゆるりと歩いた。もちろん鞄を持って。
彼はちらりと振り返る。そして見えたソイツらは、なんだか彼を不気味そうに見ていた。不本意である。
しかし、それも彼にとってたいしたことではない。重要なのはこの学園での生活。どれだけ短くてもいいのだ。黒髪である時点で普通ではないのだが、少しでも普通というものを味わってみたい。
ちょっと立ち止まって、深呼吸を1つ。
(やるからには精一杯楽しんでやろうじゃねぇか)
そして一歩踏みしめた。
こんにちは。
今回は魔王様の学生日記を読んでくださり、ありがとうございます。
拙い文章で申し訳ありませんが、楽しんでいただけたら幸いです。
訂正
2015/12/06
2016/01/14
2016/05/09