プロポーズ
ふわっ……と青空を背景に写し、粉雪に似た砂が舞った。
その中に埋もれるかのように、硝子のヨットがゆらゆらと揺れ、また元通りに落ち着いていく。
夏の海を模した球体のスノーグローブを眺め、小さく、小さく吐息が漏れる。
このスノーグローブは、彼女そのものだ。
“佐伯さんっ!”
夏の日差しを思わせる、元気過ぎる笑顔。
焼けた肌に艶やかな黒のショートヘア。
いっつも懲りずに、僕を海へと誘うんだ。僕は泳げないって言ってるのに。
ロングジョンのウエットスーツを纏い、シュノーケル、マスク、フィンを着けて泳いで行ってしまう。
彼女の泳ぎは、まるで人魚かと見紛うくらい綺麗で、そんな泳ぐ姿に僕は一目惚れした。
前の恋人に別れを告げられて、自暴自棄になって来たこの海岸で、彼女に出会って。
心地良い潮風に吹かれながら、砂浜に上がって来る彼女の顔は、心底楽しそうだった。
“はい!どうぞっ”
満面の笑みで、僕にスノーグローブを贈ってくれた君。
“泳げない佐伯さんが、海を感じられるように”
無邪気に笑うから、不機嫌になることすら忘れてしまった。
「夏生……」
砂浜で、彼女が戻って来るのを待ちながら呟けば、波間から顔を覗かせ、僕に腕ごと手を振って来る。
なあ、夏生。僕は君に夢中だよ。こんなにも僕を振り回して、頭の中は君で埋め尽くされてる。
大学院生の僕と、高校生の君。
明日も一緒に出掛けよう。スノーグローブのお礼に、いつも僕に好きだと笑ってくれる愛しい君に、ささやかな贈り物を。
君が欲しがっていた、靴を買いに行こう。
夏生は僕に少しでも追いつきたいと、ヒールの有る靴を欲しがるけれど。
等身大の君が、僕は大好きです。
そして君に贈ろう。
“夏生が卒業したら、僕と結婚して下さい”
君だけを想って買った指輪を、僕の心全てを差し出して。
彼は、決して海が苦手な訳ではありません(笑)
水泳も何度もチャレンジしています。が、どうあがいてもカナヅチだったんです。
そんな彼、佐伯さんとは対照的な恋人、夏生は海大好きっ子です。
いつも元気で、周りの人をも明るくさせてしまう様な女の子。
だけどお互い、大好きなんです。特に夏生は佐伯さん!といつも想いを伝えます。
彼女が彼を、名字では無く名前で、聡と呼べるようになるのはもう少し後のこと……。