表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイレント・マーメイド  作者: たま
6/14

六話:人魚姫とおしゃべり好き

 そんなある日のことです。



 ソフィアがスオウをお供に、領主である父親のところに出かけることになりました。戻ってくるのが三日後と聞いて、マリンはその場で小躍りしました。

 だってスオウときたらリカルド王子とお話しするのを何かと邪魔をするし、こまごまとしたことでいちいち口やかましいのです。これで好きなことをゆっくりできるわ、と嬉しさのあまり飛び跳ねていたらスオウが呆れたような目線をむけてきました。


 そうしてソフィアとスオウは出かけていきました。マリンはスオウの代わりに料理をするメイド長の手伝いをしておりましたが、リカルド王子の姿を見ていつものようにぱっと駆け寄りました。

王子はいつものように優しくマリンに話しかけてくれました。今日はスオウのやつもいないのでゆっくりお話しできるわ。そう思っておりましたが、しばらくするとなにやら奇妙なこころもちになってしまったので、結局マリンはすぐにリカルド王子と別れて台所に戻ってきました。


「あれあれ、もう戻ってきたのかい。せっかく王子様とお話しできる機会なのに」


 おしゃべり好きのメイド長はそういってほがらかに笑いました。マリンがリカルド王子のことが大好きであるということは、すでにこの城の全員が周知の事柄なのでした。

マリンは首を振って、いつものようにじゃがいもの皮むきにとりかかりました。



 そうして三日が過ぎました。

 スオウが居ないので好きなことができる、と飛び跳ねていたマリンでしたが、結局のところいつものような生活を送っておりました。それどころが静かにおとなしく、むしろ傍から見るとしょんぼりとして過ごしておりました。


「おやおや、なんだか元気ないねえ。スオウさんがいないから寂しくなっちまったのかい」


 メイド長がそういって笑ったので、マリンは目を丸くしました。


「あんたが懐くのも無理はないさ。スオウさんは無口だけどいろいろなことに心配りできるひとだからね。それこそちょっと気持ち悪いくらいにね。だけどあんたは口がきけないから相当スオウさんに助けられてきただろう」


 そういわれてマリンは少しの間考えこんでおりましたが、やがてちいさく頷きました。

年かさのメイド長はそんなマリンを見ながらぺらぺらと続けました。


「スオウさんはいい男なんだけどねえ、さっきも言った通り妙に察しが良すぎるからなかなか女の子にもてないのさ。ときどきなんでもかんでも見透かされてる気分になるというかね……。あの黒い目のせいでそんな気分になるのかねえ。東の国の人間はみんなあんな目をしているのかね」


 そこでマリンは、その大陸の東の果てには小さな島があること。そこにはスオウのような黄色い肌の、まったく違う風習を持つ人間たちが住んでいることを知りました。

 おしゃべり好きというのはしっかり話を聞いてくれる相手が一番好きなものです。この場合、マリンは非常に良い聞き手でした。一生懸命話を聞いてくれるマリンにメイド長の口はいつも以上にくるくるとよく回りました。



「スオウさんはねえ、ほんの小さいころにこの国の奴隷市場で売られていたそうなんだよ。奴隷狩りにでもあったのかね。なんでもぼろぼろで、死んじまう寸前だったらしい。それをまだお小さかったソフィア様がお助けになられたのさ。ソフィア様というのは本当によくできたお嬢様だからねえ。スオウさんにリカルド王子にお前、みんなソフィア様に助けられたんだ。感謝しないといけないよ」



 そうして三日目の夕方にソフィアとスオウは戻ってきました。

屋敷の門の影に座っていたマリンは、帰ってきたふたりを見つけてなにやら妙な気持ちになりました。それは自分でももてあますような、なんとも表現しがたい気持ちでした。


三日とはいえ馬車での慣れない旅路でソフィアは疲れているようでした。スオウはそれを気遣いながらソフィアに手を貸しゆっくりと歩いておりましたが、門に出てきたリカルド王子にソフィアを託すとよくよく聞いてみてやっとわかるような、それでいて心のすべてを差し出したような優しい声音を出しました。


「ではソフィア様、ゆっくりお休み下さいませ」

「ええ。ありがとうスオウ」



 そうして屋敷の中へ消えてゆくふたりを見ているスオウをマリンは見ていました。せっかくリカルド王子が居たのに、スオウばかりを見ていました。

けれどスオウはソフィアを見ていました。

 マリンは何故だかしょんぼりとしました。何故だかはわかりません。


「何してるんだ、お前」


気が付くと、座り込んでいるマリンの傍にスオウが立っていました。マリンは鬱蒼と立っているスオウの姿を見上げました。

相変わらずちっとも格好良くはありません。素敵でもありません。


「……お前はあいかわらずだな」


 スオウはちいさく苦笑しました。

 しかしすぐに「ほら仕事に行くぞ」とマリンの頭を一つ叩くと、さっさと厨房に向かって歩いていきました。


 思わずマリンは頬を膨らませます。

 しかしすぐに立ち上がるとスオウの後を追うのでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ