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ルクセンブルク大公国の嫁姑

拙僧はアイルランドのリムリク湖水地方から今、首都ダブリンに戻りました。


いやいやリムリクは大自然があったり怪獣が湖にチャポンチャポン泳いでいたりとてんやわんやでございました。


ひとたびダブリンのアイルランド国教会本部に戻って参りますと日本から拙僧宛てにメールでございます。

「さて誰かな。また彼女からなんかいなと」


あいや曹洞の本部からでございます。

「彼女ではないでございましたなあ。曹洞からだとどうせ長くタラタラと今後の指導なんかあるんだろうなあ」


拙曹はテーブルにコーヒーを置いてのんびり気楽に読もうと構えました。


宛先人は拙僧のライバル同期のヤツ(曹洞本部)でございますからね。

「あいつがあれこれ言ってきたってなんもしてやんないもん。やって欲しければここまで飛んでこいやあ。オケツぺんぺんだぞ、と」

高をくくった拙僧でございますイヒヒッ。


同期からの本部メールにはアイルランドから次はルクセンブルク大公国(Grand Duck)に行くようにとなってございました。

「ルクセンブルク大公国(Grand Duck)というのはどこじゃあ」

拙僧はルクセンを知らんブルク。大公でございます。


曹洞宗本部からの業務指令メールには、


ただちにアイルランド国教会からルクセンブルク国教会に行くようにと書いてある。

「なんでもルクセンブルク大公国(Grand Duck)の中に大変な対立が起こしてしまい収拾つかない状態になってしまったとある。収拾のつかないとはなんだいな。戦争か。ルクセンブルク大公国(Grand Duck)がだいたいどこにあるんじゃあ。拙僧わかんなくて」

拙僧はサイトを探して欧州のどこじゃあと場所を確認致します。


「べネルクス3国がヒットしました。オランダ・ベルギー・ルクセンブルク大公国とあるのか。フランスとドイツの間にサンドイッチされた小国ばかり3ヶ国でございます」


ドイツとフランスの大国に挟まれた位置にあるため世界史の中では大変でございます。戦争が勃興するたびにフランス領になるドイツ領になると侵略された歴史を繰り返すとは。


その小国の生き残りをかけてオランダ国王・ベルギー国王、そしてルクセンブルク国王は賢い選択を致します。


それは政略結婚でございます。大国の他国と良好な関係を築くために王妃をもらいました。


すると婚姻の従属国王となり、とりあえずは植民地化は防げるとなるしだいでございます。姫がいる国は敵にはならないとしていいことばかりとなりメデタシメデタシ。


さて拙僧のんびりコーヒー飲んでもいられなくなりました。

「アイルランドからフライトでルクセンブルク大公国(Grand Duck)に行きなさい」

パソコンには赤ランプ点滅でございます。赤ランプは緊急指令を意味致します。


「事情がわからないのですが同期からの指令は緊急だとなりますなあ。急がないといけないのかな」

同期からの命令やもん、つまんないもんだわいと、ヘーンだ。誰が急いで行ったりするか。


なんならダブリンから歩きと泳ぎで行ったろうかいなと。

「拙僧冗談は顔だけにしております」


のんびりコーヒー飲んでいたら再度メールが同期(曹洞本部)から参ります。


「しつこいなあ」

嫌々ながらメールを見ました。


「はよっ行け、ボケ」


ぷぅー。


翌朝ダブリンの空港に拙僧は参ります。アイルランド国教会の方から強制的に連行されたんですけどね。拙僧は歩きと泳いで向かう旅支度していたから慌てたのでございましょうね。


ダブリンとルクセンブルクのフライトはたったの3時間でございます。

「早いなあ。こんな短いと機内食もゆっくり食べていられないや。おかわりなんてしたらぱくつくヒマないかもしれないなあ」


拙僧文句ばかりブイブイ言って機内に搭乗致します。

「ちぇもう行かないといけないか」

乗り込んだ飛行機はルクセンブルク航空でございます。


機内に入って機内アナウンス。

「離陸の際のシートベルトをお願いします」

なんたらかんたらと、やかましいなあ。拙僧はますます不機嫌になりシートベルトをカチンとしめた。

「こんなものしたって墜落したら意味ないだぞ」


エアーアテンダントが丁寧に着脱を確認に客室に参ります。その時に拙僧はルクセンブルク航空のエアーアテンダントを見ました。ずらりと通路に総勢10人はいるですかね。

「わあっ、なんと綺麗な姉ちゃん達やあ」

拙僧はこの瞬間にルクセンブルクが好きにルクセンブルクでございます。

「歩きと泳ぎでいかなくてよかったなあ。早く行きたいなあルクセンブルク大公国(Grand Duck)」

拙僧は機内食もたらふく食べておかわりも致します。

「なんかドイツの料理みたいな感じ。やたら肉があるや」

おかわりを2回して拙僧は満足でございます。

「お腹が膨れたら眠いなあ」

拙僧はコテンとおネムの時間でございました。

「スースー」

が、寝たと思いましたらすぐさま機内アナウンス。

「まもなく着陸でございます。シートベルトをしめてください」


あん早い。


すぐさまルクセンブルク空港に到着しました。

「アッという間でございますなあ。欧州諸国は狭いや」

拙僧まだほっぺにケチャップついたままでございました。ああ恥ずかしい。


空港にはルクセンブルク国教会の方が拙僧の出迎えに来てもらえました。

「ようこそ和尚さま。わがルクセンブルク大公国(Grand Duck)にいらっしてくれました。大変狭い国なんでございますがゆっくりされてください。と申しましてもね。目下、国をあげて一大事でございます。はあっ、全くもって恥ずかしいしだいでございます。穴があったら入ってしまいましょう」


ルクセンブルク国教会の役員は胸を押さえながら恥ずかしい恥ずかしいやあんと笑う。


「まあね。事の起こりが起こりでございますからね」


えっと拙僧は事態を子細に知っております。では事の起こりを説明致します。


「フゥ〜難しいなあ」


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)は小さな国で元々は農業国。谷や渓谷の間を縫って畑を耕し羊の群れを追う。大変のどかな牧歌的な国だったですね。


そののどかな農業国に鉱山資源があることがわかり一変して工業立国となる。


採取された鉱山資源を加工しての第2次産業の発展。ルクセンブルク大公国(Grand Duck)はまたルクセンブルク大公国(Grand Duck)民が手先が器用であり勉学にいそしむ。


気がついたら加工工業の最先端をいくことになる。

「ルクセンブルク大公国(Grand Duck)は小さな国ながら利用価値がある」

大戦後の欧州諸国は目の色を変えてルクセンブルク大公国(Grand Duck)の鉱山と工業技術を欲しいと思う。


小国は小国。列強諸国の軍事侵害なんか受けたら一堪りもないとルクセンブルク大公国(Grand Duck)は防御策に出る。


まずは永世中立国宣言。第2には大公王家の政略結婚。


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)は国家元首は現在アンリ大公になっている。


国家元首としては、

王(King)

大公(Grand Duck)

公(Dack)

皇帝もある。


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)は大公が国家元首であり国王となる。


ついでに爵位も説明しましょう。


貴族制の存在としては

公爵-デューク(duke)

侯爵-マーキス(marquis)伯爵-アール(earl)

子爵-バイカウント(viscount)

男爵-バロン(baron)


公と伯の呼称は最も古い。それぞれが古ゲルマンの軍事統率者ドゥクス(dux)。フランク国王の統治権とりわけ裁判権を地方菅区ごとに執行する役人としてのコメス(comes)に由来する。


アンリ大公妃(皇后妃殿下)はマリア=テレサ妃殿下。


マリアはルクセンブルク大公国(Grand Duck)の紛れもない大公の妃殿下であった。


血統はルクセンブルク大公国(Grand Duck)とは縁もゆかりもなかった。


マリア=テレサ大公妃殿下は珍しいことにカリブ海に浮かぶキューバ社会主義が出身国になる。血筋そのものはアメリカ。


彼女にはラテンアメリカの熱血がたぶんに入っている。


キューバ危機、キューバ革命を逃れるためにマリアの一家はカリブ海から逃れ欧州のスイスに移民をしひっそりと身を隠す。そのスイスで教育を受けたのがマリア=テレサであった。


彼女はいつしか成長をして高等教育を受けスイスの大学で経済学を学ぶ賢い女子大生になっていた。


そのスイスの大学に留学されたのがルクセンブルク大公国(Grand Duck)の若きプリンス・アンリ大公(当時は皇太子)その人だった。


初めてマリア=テレサを見た時に大公は戦慄が走ったらしい。

「なんと毛色の違う女なんだ。今までルクセンブルク大公国(Grand Duck)の宮中では全く見たこともないようなワイルドな女ではないか」

お坊っちゃんのアンリ大公は一目惚れをしてしまった。


ジョセフィーヌ=シャルレット。ジャン大公妃殿下。


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)の大公妃はアンリ大公の母親。


ジョセフィーヌ=シャルレット自身政略結婚の身であった。父親はベルギー国王。


血統としては、


・オランダ

・スェーデン

・フランス

・ベルギー

かなりあっちこっちからの血筋が入る王妃だった。だがルクセンブルク大公国(Grand Duck)そのものは血筋には全くない。


見方を変えたら、

「ルクセンブルク大公国(Grand Duck)の外国人」

でもある。


少し脱線するが隣国ベルギーも同じような事情で政略結婚がなされていた。


小国ベルギー存続のためには大国フランスからの侵略は恐怖だった。フランス領ベルギーの時代は二回も三回もあってはならない。


ベルギーは政略結婚を繰り返し小国としての自治を保とうと懸命になる。


その結果が王妃をフランスからオランダからと時の権力者に身を委ねる形となる。世界史としてみたらそれはそれとして致し方がないものだった。


現代のベルギー。国王の息子王子は我が国の皇太子と同じ年齢。同世代だということからも日本とベルギーは皇室王室外交が盛んである。


そのベルギー王子がお后さまをもらうことになる。王子には意中の女性ができてプロポーズをなされた。

「私のお嫁さんになっていただきたい。我がプロポーズを受諾願いたい」

ベルギー王子は若くて綺麗な女性に真摯な気持ちから恋を告白した。


王子は紳士であり人格者である。当然そのプロポーズは受けることになる。

「わかりました王子さま。王子さまを我が人生をかけて支えて行きたいと思います。我が母国ベルギーのために」

王妃になられる女性はベルギーのために結婚をするとベルギー国民の前に誓う。


我が母国ベルギーのために。


ベルギー王宮殿に詰め掛けた国民は皆喜んで王子の前途を祝福しベルギー初のベルギー王妃を迎え入れた。


ベルギー初のベルギー(フラマン)王妃誕生の瞬間だった。


なるへそ。かようでございますか。王子さまの政略結婚は母国のために異国の列強の王妃さまと一緒になるわけでございますね。王妃は外国人結婚ですね、えっと国際結婚であるわけでございますね、確かに。


でありますとどうなるのかな。ルクセンブルク大公国(Grand Duck)の大公妃さまは帝政軍事列強国時代の王妃として君臨されていると言えますなあ。


成婚されたのは大戦前(1940)であるわけですからルクセンブルク大公国(Grand Duck)は隣国ベルギーやフランスさらにドイツ(ナチス)には異様な警戒をしなければらないですね。いじめちゃあいやよっ、と。


しかし大戦中はナチスに好きなようにやられたようでございます。永世中立を掲げていたのに。かなりの被爆を被り大打撃を受けました。全くいい迷惑ですね。


このナチスからの復興もルクセンブルク大公国(Grand Duck)そのものがいかに優雅な国であるかの証拠にもなりましょうね。なんせ勤勉なお国さんでございます。国民総生産(GNP)はEU諸国トップクラスでございますからね。


ルクセンブルク大公妃は名をジョセフィーヌ=シャルレット王妃さまでございます。貴賓があり優雅な女性ベルギー王妃でございます。


当時のルクセンブルク大公国(Grand Duck)ジャン公(Duck・王子)と結婚をしルクセンブルク大公国(Grand Duck)に嫁ぐしだいでございます。いたって夫婦仲はよろしく2男3女をもうけます。長男さまがアンリ大公(Grand Duck)さまで2000年からの国家元首ございます。


時代は変わりましてアンリ大公さまの結婚でございます。


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)の宮殿に嫁ぐ姫君さまがアンリ大公(王子)の見染めたマリア=テレサ妃。


知り合ったのがスイスの大学でございますからごく普通の学生の恋でございますね。


ただ違っていたのはアンリが大公さまであり将来のルクセンブルク大公国(Grand Duck)の国王さまであったことでございます。


そりゃあマリア=テレサもびっくりしただろうなあ。

「なんだぁー結婚したら大公妃になるの。つまりクィーンになるのかいなあ」


こうしてアンリ大公は恋人のマリア=テレサを宮殿に入れ結婚式を挙げて大公妃となされたしだいでございます。

「しかしそりゃあダメだわさ」

と簡単に説明いたしましたが結婚には反対された方がたくさんいらっしゃったようでございます。いやそのほとんどが反対だったらしいでございます。


「期せずしてもっとも反対なさったのがジョセフィーヌ=シャルレット大公妃、つまりは姑さんになる母親でございます」

長男アンリ大公の母親大公妃としては、

「アンリの連れて来た女はそんな程度のものかいな。中南米諸国のキューバからの移民の娘がアンリの恋人かい。なんかけったいな女だねぇ。そのキューバがこの栄光あるルクセンブルク大公国(Grand Duck)の大公妃となるなんて許しはしないよ。大公妃としては身分の違うことは目に見えております。また大公妃としてはもっとふさわしい王妃が欧州諸国にはごちゃまんといます。母親の私がちゃんと素敵な王妃さまを探すからね。アンリちゃん。あんなヘチャムクレなんぞでは国民は納得なんざしやしない。ええい汚らわしい宮殿前に塩まいておくれ。琴光喜を呼んで盛大にまいておくれ」

ベルギー国王の娘ジョセフィーヌ=シャルレット大公妃はさんざんに悪口をいい息子アンリ大公のキューバ娘マリア=テレサを諦めることを信じたのでございます。ところがアンリ大公は意地でございますなあ、

「誰がなんと言おうと僕はキューバ娘マリア=テレサと結婚する。最愛の娘だ。陽気で明るく一緒にいて和む。気に入っているんだ。琴光喜には門前で塩をまいたら挙式のための奉納相撲を庭園でとらせよ」

こうしたすったもんだがありました。アンリ大公は仲良くマリア=テレサ大公妃と夫婦(めおと)となり4男1女をもうけます。


「あらっ、大公妃の姑も嫁も5人の子供さんでございますな。ぴったしカンカンとなりました」


さて強引にアンリ大公さまの愛でルクセンブルク大公国(Grand Duck)宮殿に入ってしまった嫁さんマリア=テレサ大公妃でございます。


さてこれに面白くないのが姑のジョセフィーヌ=シャルレット大公妃でございます。

「ちょっとジャン大公(Grand Duck)さま。あなた私の夫ならばこの気持ちわかってもらいたいわ。なんでよりによってあんなキューバの跳ねッ返り娘なんかと。息子アンリ大公は気が変になったんだわ。少し療養させて様子を見なくてはいけないぐらいよ。静養させてしまえばわけわからないあんなキューバ女がいかにくだらないかわかるわ。ルクセンブルク大公国(Grand Duck)にはふさわしくない女か実感できるわ」

ジョセフィーヌ=シャルレット大公妃の姑はことあるごとに嫁を非難していた。

「まあまあ派手なこと派手なこと。このオバちゃんは長男の嫁の悪口さえのたまえば気分爽快でございますなあ。聞くと宮中の侍従女には寄ると触るとマリア=テレサはあかん、あんなくだらない女はこの宮中にはふさわしくないから追放したい。ついては尽力してもらいたい。あちゃあっ、そんなことまでブイブイでございますか」


ジョセフィーヌ=シャルレット姑大公妃とマリア=テレサ嫁大公妃の仲違いはすぐに外部に洩れてしまいなんとルクセンブルク大公国(Grand Duck)の国民45万人が知ることまでなってしまう。

「あちゃあっ、こんなことで国民が宮中のお家騒動に巻き込まれるとは情けないでございます」


騒動は単にいずれの家庭にもある嫁姑問題であり、

「そんなくだらないことは相手にしないでそっとしておけば沈静化する」

賢明な国民は宮中のつまんないゴシップからなるべく目を伏せることにした。


さらにルクセンブルク大公国(Grand Duck)そのものが経済危機や農業振興の不振などがいくたびかあり国家元首アンリ大公その人の経済手腕を期待した。小国ゆえに経済が冷え込むと国民の生活そのものにすぐに影響を与えているため失敗は許されない。


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)は金融の街を目指し様々な金融シンジケートが成り立っていた。この信用を欧州から勝ち取りルクセンブルク大公国(Grand Duck)は不況があろうともびくともしない磐石な経済基盤を築いてみせたいのがアンリ大公だった。

「小国だからダメだとか言われていけない。だから僕は国家元首のアンリ大公として最大の努力をしたい。そんな母親と嫁の問題に首なんか突っ込んでいるヒマなんぞありゃあしない。ヒャアー忙しい忙しい。来月には日本に経済支援と自動車産業の工場誘致などを依頼してこないといけない。どないしょかな」


実際にアンリ大公は来日を果たしている。日本の企業と経済提携を結びなんとか日本の円(外貨)を稼ぎたいとした。

「おっそうだった。日本に行くならば長男を連れていこう。息子は日本がお気に入りだといつも行っているから」


そうしてアンリ大公と息子の王子は来日をされております。ルクセンブルク大公国(Grand Duck)教会と交流があるのは日本では聖ソフィア教会でございます。えっと端的に申しますと上智大学でございますね。


アンリ大公さまは来日の間には上智大学で文化講演会を開催されております。

「えっ、曹洞宗の駒澤大学にはなぜいかないかですかって?拙僧じかにアンリ大公さまにアポイントいただいて行くようにしむけましょうかアッハハ」


上智大学からはアンリ大公と王子に、

「王子にはぜひ日本に留学されたい。この日本の文化に触れてもらいたいでございます。上智大学に留学はいかがでございましょうか」

それを受けてアンリ大公は、

「私には4男1女がおります。ひとりぐらいは日本留学させてみたいですね。考えておきます」

笑顔で答えていらっしゃる。


さてルクセンブルク大公国(Grand Duck)はどうしているか。


こちらはアンリ大公と長男の王子さまがいない宮中でございます。どんな感じでございますかね。


アンリ大公国家元首が日本にいていない間に嫁と姑は互いに別々に宮中の大公公務をこなすでございます。このふたりが顔をつきあわせて(つの)さえ出していなければ見栄えのいい王女たちなんですけどね。


しかし宮中事件は起こしてしまう。宮中に詰めていたマスメディアが15社ございました。テレビも雑誌も含めてほぼ全員がアンリ大公妃マリア=テレサによって晩餐会に招待されたようでございます。


「マスメディアの皆。よく聞いておくれ」

晩餐の最初から嫁のマリア=テレサは怒り爆発大噴火でございます。なにが怒りなのか。

(わらわ)はもはや姑ジョセフィーヌ=シャルレット大公妃のクソ婆さんにゃあついていけやしない。みんな聞いておくれ。あんなくだらないオバアなんか生かしておきとうないわ。なっそう思うであろうに」


あちゃあっ、マスメディアを前にして堂々と姑批判をしてまっさあ。


この嫁の晩餐会を境にしてルクセンブルク大公国(Grand Duck)は、

「欧州諸国で1番でっかい嫁姑問題を抱える国」

となり世界に名が轟いてしまう。


帰国をしたアンリ大公も気がついた時既に遅しとなっていた。

「僕が帰国をした時にはすでにテレビのワイドショーに母親と妻が鎧兜で騎士になって闘っていた。雑誌漫画の怪獣コーナーでは母親がゴジラ。妻はモスラだった」


マスメディアは取り立てでっかいニュースもないことからこのゴジラ・ジョセフィーヌ=シャルレット大公妃(姑)とモスラ・マリア=テレサ大公妃(嫁)を好んで取り挙げた。


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)の街角では、子供から大人までが

「あのゴジラ対モスラ。闘ったらどっちが強いかなあ。姑ゴジラはたまに火を吹くらしいから強いぜ」

小国ルクセンブルク大公国(Grand Duck)はこうして宮中の嫁姑のこじれから国を分けて自然と対立してしまうことになりましたでございます。


テレビをつけてみたらあらあらっ嫁姑怪獣が闘ってますわ。またね嫁姑の顔の特徴うまくつかんで怪獣ができてございました。アッハハ凄いなあ本物が取っ組み合いしてまっさあ。

「拙僧ついついK-1を見るような気分で格闘する怪獣を見る羽目になりました」


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)は戦争もなく平和なこともあり瞬く間に嫁姑の2大怪獣に席巻されております。


さらには国を完全に二分化してしまうことになりました。


嫁マリア=テレサ大公妃派閥。若者中心


姑ジョセフィーヌ=シャルレット大公妃派閥。若者以外。


「なんやら巨人vs阪神がルクセンブルク大公国(Grand Duck)で毎日試合しているみたいな対立を見ているようで怖いなあ」


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)の対立から産まれたのはまず政治政党でございます。


嫁のキューバ派。革新系

姑のベルギー派。保守派


それぞれの大公妃の出身国で政党がわかれたでございます。


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)の国内サッカーチームは完全に二大化され猛烈なサポートを受けて盛り上がっていたところでございます。嫁派と姑派のチームが対戦は熱狂の渦。怪我人が続出して大変だわ。


レストランも喫茶店もさらにはコンビニまでもが二大勢力嫁姑にわかれてしまい、

「嫁派の人にはなんも売ってやらないかんね」

というと対立からは、

「姑派なんかに世話にゃあならんわい。自前でやるからな。そっちこそこっちに来るなあ」

と返す刀でやり返す。対立からともすると喧嘩になり大変な場面もございます。最悪ならば病院送りになる。


すると運ばれた病院や診療所はドクターナースも二大分裂しているみたいでございました。嫁派なら患者として診るが、姑派なら帰って帰ってとなるらしいでございますよ。帰って行けなんて言われてしまうと全くね、命と引き換えの喧嘩でございます。危ない危ない。


「そんな馬鹿なあ」


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)が嫁姑分裂して国そのものが西東になりそうでございます。


そこに分裂をしていないのは唯一ルクセンブルク国教会となっておりました。国教会の役員がそれは自慢でございますからね。

「やれやれでございますね。子供の喧嘩もこれだけのスケールとなっておりましたらば大変でございます。さて拙僧はひとまず国教会の本部に参りまして曹洞宗派の僧侶登録を済ませておかなければなりませんでございます。登録がないとモグリの和尚さんでございます。欧州はさまざまな宗教がございますから新興宗教や偽宗教などは嫌われております。その点は拙僧も気を付けていかないといけないでございます。日本の曹洞を代表でございますからね。いくぜ」


国教会の総本部は宮殿の隣でございます。

「あらっ宮殿に隣接して国教会がチャーチがございました。なるほどあれならば大公様がいつも礼拝に行かれて便利がよろしいでございます。そんな国を分けてまでものつまんない嫁姑問題でね。ガチャガチャやったりしないでふたり仲良しに礼拝してもらいたいでございます。おふたりとも敬虔なクリスチャンなんでございますからね」


拙僧は殊勝にもかように考えてしっかりと拝手をいたしました。こちらは曹洞宗でございますからね。お釈迦様と道元禅師様が大変仲良しで我が背中にチョコンと乗ったんでございますよ。たまに肩が重いかな。あらお釈迦様太くなったかなアッハハ。


「しかしなあ、仲の悪いヤツと仲良しさんはできないもんやぞ。拙僧と曹洞の本部の同期とかさ。同期とは墓に入るその時まで今のままでございますですねフンッだ」

それはそれとして、しんみりと拙僧は国教会を眺めてしまいました。

「同期と仲直りかあ。したいかな。ヤダなあ、したくないや、あんなヤツ、プイッ」


本部に参りまして国教会の役員さんからまずは挨拶を受けて参ります。

「和尚さまわざわざ日本からようこそいらっしゃいました。ウエルカム、ウエルカム、ルクセンブルク大公国(Grand Duck)にでございます。長い旅大変お疲れ様でございますね。どうかゆっくりなさってくだされ。我が国は狭い国でございますからゆっくりされて回ってください。アッという間にあっちこっち行けちゃいます、なんてね」


拙僧も役員さまの言うようにゆっくりしていたいでありますけどね。なんせ曹洞本部の同期があっちこっちと拙僧を振り回すものだから。


国教会の話(教義のアウトライン)を聞いて拙僧はすぐに袈裟に着替でございます。和尚さんになるでございます。


早速着いた足のままドンと宮中にそして国教会に参ります。早くも我が曹洞の高僧として登場となりそうでございますからね。


宮中/国教会には姑のジョセフィーヌ=シャルレット大公妃がいらっしゃるようでございます。夕刻に国教会のミサに参加をされると先ほど役員さまから連絡があり拙僧もそのつもりでございます。


国教会はカソリックでございます。曹洞とはあまり関係ないようでございますが、そこはそこ同じ宗教の教義を学んだ身分でございます。ちゃんと合わせていくことができるのでございます。


時間通り拙僧は教会のミサ参加のために参ります。拙僧は日本では高僧という身分で登録しておりますからミサの時間には拙僧の読経が一段と高らかに響き渡るところでございます。偉いプリーストは高らかに歌い教義を信者さまに伝えて行きます。


夕刻より予定された教会ミサは始まりました。大袈裟姿の拙僧は読経の中、身分としては教父(ゴッド)でございます。教義の解釈を充分にミサの参加者に伝えていくことが使命でございます。拙僧こそは曹洞の身仏そのものと言われております。大音量でお経を唱える拙僧は背中にお釈迦さまと道元禅師がしっかりと付き即仏身でございます。


拙僧はきっちり集中致し我が身を粉にして読経をいたすところでございます。かような拙僧の読経を教会の後ろから見守る信者さまの熱い眼差しが拙僧の背中に当たったりしてこちょばいでございますね。


ミサは讃美歌1章〜3章を合唱で歌い次に拙僧の読経でございます。なるべくリズミカルに軽やかに行います。木魚も軽く叩いております。

「いけないなあ。讃美歌の少年少女合唱につられてしまっては」


讃美歌は5章〜7章と拙僧の読経。最後には讃美歌と拙僧の読経のハーモニーが響きわたるところでございます。

「いやあ気合いが入ってしまいましたなあ。拙僧の読経はハーモニーを味わいウィーン少年少女合唱隊のごとくでございます、なんてね」


読経が終わった後でも木魚の打つ腕がジンジンしておりますね。

「讃美歌に負けまいと声を張り上げてしまいましたなあ。喉飴がほしいなあ」


讃美歌の最中に姑・ジョセフィーヌ=シャルレット大公妃は国教会に現れました。拙僧はすぐに気がつきました。お付きの者がぞろぞろとやって来ましたからね。


大公妃はミサの中に僧侶の読経が入っていることが大変不思議だと周りの者に言ったそうでございます。

「かような呪文はブッダ(仏教)というものなのか。なにやら黒魔のごとくフガフガ言っているである。叫びなのか。救済を求めてことごとく叫んでしまうのか」

ジョセフィーヌ=シャルレット大公妃には拙僧の美声が心を綺麗にするように響きわたりませんでしたなあ。

「残念でございます」


拙僧ひと仕事終わったら国教会から、

「和尚さまご苦労さまでございました。ただいまジョセフィーヌ=シャルレット大公妃がこちらに参ります」

拙僧に逢うためにこられると言います。


「うひゃーあ、大公妃殿下がわざわざ来るなんて緊張しちゃうなあ、どなんしょ。王族の方だからなあ、拙僧恥ずかしくなりそう」


ちょいと拙僧は袈裟の乱れを確かめて礼儀正しく身なりを整えました。

「でぇージョウブかいな。緊張して英語なんかスッ飛び跳ねたりしないかなあ。不安、不安でございます」


国教会本部の貴賓の部屋・大広間がございます。こちらは世界からのお客さまをお迎えになる一流のサロンでございます。


国教会役員さまから、

「和尚さま。さっそくでございますが晩餐の用意を整えてございます。大公妃殿下や王子・王浩各位さまもご出席になられます。当国教会といたしましては和尚さまの歓迎会を兼ねてのもてなしと致します」


拙僧は国家VIPクラスの貴賓扱いでございますね。

「またまたあっ。すごいことになりそうですよ。拙僧はかなり緊張します。粗そうがあったらどなんしょ。泣いて日本帰国したりして」


やがて国教会主催の歓迎会晩餐は始まりました。

「おおっ。ジョセフィーヌ=シャルレット大公妃殿下いらっしゃいますね。妃殿下から見たらお孫にあたる王子さまや王妃さまも可愛いらしくチョコンと隣にお座りあそばして」


晩餐はルクセンブルク大公国(Grand Duck)の挨拶から始まり国教会役員さまと順番は参ります。


国教会の役員さまは仏教に造詣深くあられます。ちょっと拙僧もタジタジでありました。


晩餐会は一通り主賓のルクセンブルク大公国(Grand Duck)側の挨拶が終わりますと拙僧の元にマイクが回って参ります。

「拙僧は曹洞の高僧であり日本代表でございます。スッーと深呼吸していざ挨拶でございます。拙僧には背中にお釈迦さまと道元禅師さまが仲良くのっかかってございます。よし頑張ってまいるぜ」


手元の曹洞資料(英語版)をみながらゆっくりとスピーチでございます。

「いやあー緊張でございますなあ。キリスト教会の神とお釈迦さまの仏が仲良く一緒になられる夜だと思いますとなおさらでございます。拙僧といたしましては慌てたつもりはなかったのでございますが二箇所読み飛ばししてしまいましたなあ」


熱心な仏教徒(拙僧)と敬虔なクリスチャンのルクセンブルク大公国(Grand Duck)。和気あいあい和みの晩餐でございます。

「晩餐の間には拙僧は色々仏さまについて質問を受けました。皆さん勉強熱心な方ばかりでございます」


宴会も(たけなわ)となりました。ここで晩餐の料理を紹介致します。

「拙僧は食い辛抱ゆえに料理には並々ならぬ関心でございます。どんな宮中晩餐料理が運ばれるのかな。それはそれは楽しみでございます」

ちゃんとナフキンを首からかけてナイフとフォークを持ちました。

「さあ召しあがるぞ」


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)は世界史では様々な近隣諸国の侵略を被る。その侵略国が支配をした時期は異文化が根づきよいものはどんどん庶民に浸透をされていく。料理も文化のひとつ。


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)の料理は、フランス・ドイツ・オランダ・ベルギーと影響を受けそのまま根づいた。


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)は、ある意味フランス料理であり、ある意味ドイツのフランクフルトでもあった。


晩餐の料理が重々しく拙僧の前に並ばれて参ります。

「うーん魚介類はベルギー料理。仔牛のソティーや鶏のトマトソースなんかはフランス料理でございますかね」

拙僧早速パクッとホォークで仔牛を搗き一口。

「うわぁー柔らかい。なんでしょ舌先でジュルリととろける感覚が致します。美味しいなあ」

メインディシュはかようにとろけるうまさばかりでございます。

「これで手元にほっかほっかご飯があれば最高なんでございますけども。お米さんの代わりにポテトが目の前に山のようにございます。マクドナルドのアルバイトしたくなりましたな」


欧州にもご飯はございます。リッズだとかゾットだとか注文をいたしますと食卓には並ぶようでございます。


ルクセンブルク大公国(Grand Duck)は料理はフランスやベルギーの影響下でございますがもうひとつお教えしたいものがございます。

「食後のデザートにルクセンブルク大公国のお菓子はいかがでございましょうか」


ベルギーやルクセンブルク大公国(Grand Duck)では王様がいただくために菓子職人が頑張って、

「王様や王妃さまが喜んでいただけるお菓子を作りたい」

キメの細やかな気配りのチョコレートやクッキー/サブレがベルギーやルクセンブルク大公国(Grand Duck)にはございます。

「ただ残念なのは拙僧はチョコレートなどあまり好まないのでございます。法事ではまんじゅうやヨウカンが出されるのですがあまり手をつけませんね。まあお菓子などは見て楽しんでいくところでございますね。チョコレートはイタリアも有名でございます。なにせ手先の起用さはルクセンブルク大公国(Grand Duck)でございます」


晩餐会はかように盛大にして無事終わりました。拙僧は料理が美味しいものでありますからただひたすら食べてばかりでございましたね。トマト味のチキンは最高だったなあ。ザルに盛られたポテトなんて両手を使ってパクパクしちゃったなあ。もうこれでもかといただきました。ああ満タン、満タン、お腹いっぱい腹いっぱいポンポコポンだわあ」

デザートに出されたチョコレートアイスクリームはとてもではないが入らない。食べ残しましたが。


宮中晩餐の後、拙僧は部屋に戻ってしばらくじっとしてございました。腹の皮がつっぱってしまい苦しくて動けません。

「食い意地だけは誰にも負けはしませんでございます」

腹が痛くなるからそのままクカァーと、うとうと転寝貍(うたたねたぬき)を拙僧はしておりました。オネムさんでございます。


「和尚さん。和尚さん」

拙僧の体をなにやら揺り動かして起こそうとする者がどうもいるようでございます。

「ムニャムニャ。拙僧お腹が満タンで起こしても起きれないでございますよ」

寝惚けマナコで夢見て拙僧は眠りたいと頼んだのでございます。すると、

「あん和尚さん困ったちゃんですわね。なら仕方がないなあ、お腹を切って楽にしてもらいましょう」

うん?お腹を切るだって。それは物騒なことだぞ。やめてよやめてよ、怖いやーん。

「悪い冗談はよしてくだされ。時にあなたさまはどなたかな。声はすれども姿は全く見えないでございます」

拙僧はちょいと不愉快さんでございます。なんでお腹を切ると言うのか理解できないでございますよ、全く。プリプリ。


ざわざわと致します。拙僧は目をつぶってうとうとのままでございます。がザワメキが近くなりいきなりバサッと縄を体にかけられてしまいました。

「ハッ。なっ、なにをするんだ。縄じゃあないか」

拙僧はガバッとベッドから起きて怒ってやろうと思いました。しかしダメでございます。手足を既に縛られ全く身動きできないでございます。

「さあ縛られましたわ。よし一気にバサッと腹をかっさいてしまいな」

声の主は女でございますね。中年女でございますか。拙僧は体を縛られました。何故でございますか目を開けることができないでございます。懸命にもがき縄を擦り抜けたいのですけども全くダメでございます。歯がゆいでございます。


「大公妃さま。準備ができました。ただちにズバッとばっさり腹を開いてご覧に入れます。おい覚悟しろよ」

男の声でございます。となるとベッドのまわりには男女が数人いるわけか。


ブスゥー。


「あいや、拙僧は腹をやられたぁ」

腹を切られたんでございます。今ごろは、ドバドバとお腹から流血でございますなあ。拙僧には見えないから想像だけでございますが当たり一面血の海でございますなあ。麻酔もなしでよくも拙僧のお腹を好きにしてもらって。


「ヒィー人殺し」


ベッドのまわりにはどのくらい人がいるんでしょうか。

「よし。これでよいであろう。どうじゃ和尚。お腹は楽になったであろう」


楽に?ああそう言えば満タンで苦しくてたまんないと思った腹の皮の突っ張りがなくなったでございますね。

「では目を開けるがよいぞ」

拙僧やっと見えるようになりました。うっすらと、ぼんやりとまわりが見えて参りまする。


拙僧はベッドのまわりを数人の宮中殿の臣下にぐるりと取り囲まれております。手足は縄でグイグイとしっかり縛られてございます。

「縛られているのは間違いないことだ。そうだそうだお腹は、腹切りの跡はどうなってんだ。切られてしまい痛い痛いになっているだろう」

拙僧は身動き取れない不自由な体。そのままグイッと頭を持ち上げました。お腹が見えるように。

「あれ?辺り一面血の海はないなあ。腹は腹は拙僧のポンポコちゃんのお腹はと」

かろうじてお腹は見えるでございます。なんもないでございますね。ポコンといつもの風呂あがりのように膨れているだけでございます。

「どうなってんだ」

痛いこともなくお腹はありました。


拙僧なんだかわけのわからないものだと悩んでしまいました。


「どうじゃどうじゃ和尚。今の気分は最高かい。全く卑しくもタラフクに晩餐を食べてからに。はしたないなあ、ああ恥ずかしい」

拙僧の枕元よりなんか中年女のイヤミたらたらが聞こえるでございます。

「誰なんだこの声は。名前ぐらい言え」

首を回してなんとか声の主を見ようとするのでございますが。ダメダメ縛られているから。頭が後ろには回りませぬ。

「和尚。そなたはチャラチャラした袈裟なりを身につけて(ほとけ)なりな。ブッダの化身なりと申すのだな。和尚がブッダなるとならば呪術なりを使うなりか」


ブッダ、ブッダと。この中年女はお釈迦様を盛んに気にしてございますね。ブッダという表現もなにやら奇異な表現でございますけどね。


ここは欧州だからキリスト教信者かな。カソリックでもプロテスタンでも。中東諸国ならばイスラームのようなニュアンスが感じられて参ります。異教徒が(ブッダ)とよく申しますからね。


「声の主は仏教徒ではないな。なにやつか、ちゃんと身分を拙僧に証せ」

拙僧イライラしてまいりました。


が、なぜなんでありましょうか。声が全く出ないのでございます。全身に力も入っていません。さては麻酔を射たれたな。


「そなたは(ブッダ)にしては卑しいぞ。両手でポテトフライとトマトをつまんでカバのごとくパクパク全部平らげるのか。豚肉のソテーと揚げ鶏を平気でおかわりして石塚英彦みたいな見苦しさじゃ。ありゃあはしたない。見ちゃあいられませんぞ。まいう〜食い辛抱万歳の続きやないぞよ。ああ汚らわしい」


あちゃ?晩餐会の拙僧の変なとこをしっかり見ていますなあ。その石塚英彦ってなんでっか?歩く粗大ごみでございますかな。


「余はとても信じられぬ。そなた和尚は偽の(ブッダ)なるな。許すわけにいかぬ。本体はなにやら違うようぞ。一皮剥けば、キツネかタヌキか石塚英彦なりか」


また石塚出た。


おいおい。なにやら雲行き怪しくなって参りましたぞ。どうなってんだ一体これ。


声の主は侍従に命令して本気で拙僧の皮を剥ぎ取りそうな気配でございます。

「たっ、助けてくれ。拙僧は石塚じゃあないぞ。うん?あいや、拙僧はちゃんとした人間さまであるぞ。皮なんか剥いでもなんも出やしない。悪い冗談やめてー」

と思っただけでございます。声が出やしないでございます。もうこのままお陀仏さまかなあ。こんなことなら豚のソテーを2皿追加して食べておけばよかった。


ベッドの回りの侍従たちがゴソゴソし始めましたぞ。

「大公(Grand Duck)妃殿下。この男はいかがされましょう。斬り刻んでキャベツの千切り豚の餌にいたしましょう」


うんなんだ。今、侍従はなんと言った?"大公(Grand Duck)妃"と言ったな。妃殿下がいるのかジョセフィーヌ=シャルレット大公妃殿下がいるのか。あの中年女性の声はルクセンブルク大公国(Grand Duck)妃殿下なのか。


「おや斬り刻んで豚の餌かい、アッハハ。そいつはいいや。これは共食いだね。さぞかし食べてもらえて嬉しいことぞ」

拙僧を刻んではあかんですぞ。

「豚かな。アッハハ豚ならば"あの嫁"も見た目が同じじゃ。物のついでにちょいと斬り刻んでしまえ。さっさとドレッシングかけて料理してしまいたいものじゃあ」


あちゃあー嫁さんって。嫁ってあのアンリ大公マリア=テレサ妃殿下でごじゃいますよ。姑は怖いこと言いますなあ。豚の餌にするならば、石塚だけで充分な量でごじゃいますよ。石塚を推薦致します。あれなら豚も文句言わないもん。


「妃殿下と一緒に豚の餌になるんかあ。キャベツみたいに刻んで?とんでもない、やめてー!」


拙僧はキャベツより白菜が好きでごじゃるよ。お正月のお雑煮に白菜がいいなあ。そういうもんじゃあない。


「身仏の拙僧をいたぶったりしたらお釈迦様からバチがあたりますぞ。だからやめてー。キャベツ千切りより白菜炒めがいいなあっ。ワップどっちもいやじゃあー」


拙僧自然と瞼から涙が溢れました、エーンエーン。泣けば泣けばより拙僧哀れでございます。


涙が出て拙僧の体を縛る縄に流れ落ちる。すると縄の縛りが緩やかになりましたでございます。腕が動きますですね。

「おっ、こりゃあいいや」

泣けば泣くほど拙僧は自由になりそうでございます。


ウワーン!


うん?縄が解かれれば声が出せますでございますよ。


拙僧がモゾモゾやり始めたのを侍従たちはわかったようでございますね。ざわざわと騒がしくなりました。

「おい縄が解けていくぞ。縛り直さないと、急げ」


拙僧は腕が自由となりました。頭も軽ろやかな感じでございます。縄は解け体を拘束していないことを肌身にて感じますですね。


おのれ見ておれー


拙僧は体に力いっぱいに空気を溜め込みます。さあ逆襲だあ。


スゥースゥースゥーふぅー(深呼吸の吸い吸い)。呼吸を整え全知を我が頭に集中させる。僧侶なりし身仏の分身は両肩にお釈迦様、道元禅師がチョコンとおでましになられました。


「この気力みなぎり身仏の拙僧を好きにいたぶったりしたらどんな仕打ちが待っているかよく身に染み込ませてくれようぞ」


拙僧はムクッと立ち上がりベッドの上に仁王立ちをいたします。


喝っ!


声の限り、腹の底から怒りの声、


喝っ!


拙僧そこでお目めをパッチリ見開き回りを眺めて見ました。

「あらっ。なんにもないや」

ただ、どこから紛れ込んだか猫が一匹おりました。拙僧の顔を舐めたのでありましょうか。ちょこんとベッドから跳ね出して舌を盛んにペロペロやっております。


拙僧は寝惚けてしまいましたでございます。

「猫に舐められて悪夢を見てしまった」


夫婦喧嘩は犬も食わない。嫁姑喧嘩は猫が喜ぶ。


ルクセンブルク大公の諺でごじゃいますよ。

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